マツダMX-30 EV《写真提供 マツダ》

マツダが17日、中期的な商品技術方針についての発表会を開催した。2050年までのカーボンニュートラル宣言に対応するための商品群と関連記述が紹介されたが、このうち電動化に関連する気になる部分をまとめたい。

◆マルチソリューションを展開

マツダは独自のLCA(ライフサイクルアセスメント)に対するアプローチを早くから表明しており、この方針にはブレがないことは、今回の発表でも強調された。とくに電動化については、グリーン電力やエネルギー政策と一体化で進めるものという立場で、生産国や販売市場にあったマルチソリューションを展開する戦略をとっている。

この点をもってマツダは電動化に後ろ向きであるという声もあるが、今回の発表ではマツダも着実に電動化シフトを考えている。マツダは、小回りのきく企業規模を生かし、業界の中では早くからモデル開発や製造プロセス改革に取り組んでいる。同社のSKYACTIVテクノロジー、大学との共同研究成果をいち早く取り入れたトルクベクタリング(Gベクタリング)、ガソリン・ディーゼル、EVまでも混載できるフレキシブル製造ラインは、これらの取り組みのたまものだ。

◆EV専用スケーラブルアーキテクチャ

マツダでは「ビルディングブロック」という構想で、ベースとなる技術を完成させ、そこから派生する課題やニーズについて周辺技術を開発・進化させている。車両技術であれば、SKYACTIVテクノロジー(EG/TM/Body他)を確立させ、次世代アイドリングストップ、エネルギー回生システム、電動化・モーター駆動技術へと展開させている。開発・生産プロセスでは、コモンアーキテクチャモデルとフレキシブル生産方式、そしてデジタル化された設計・製造プロセスをベースにモデルベース開発体制を整えた。次のステップは、これらを生かした低投資でのプロセスの効率アップ、変化への対応を進める。

電動化戦略においては、今回、EV専用スケーラブルアーキテクチャが発表された。シャシー部分にフラットなバッテリーモジュールが配置され、前後にパワートレイン用のフレームがサイドメンバー状に2本ずつ延びるプラットフォームだ。バッテリーモジュールは前後方向と横方向に拡張可能で、さまざまなセグメントの車両に対応する。このプラットフォームは、2025年を目途に市販車両に投入される。現時点では、25年以降の複数車両への採用が予定されている。

既存のプラットフォームは車種ごとに個別といってよいものだが、内燃機関・電動車ともにライン上での混流が可能になっている。全体がサブモジュールで設計されているため、車種やモデルが違ってもラインではどのモジュールを組付けるかの違いを気にすればよい。既存の製造ラインは、工程や部品が異なるものは流せないが、マツダの工場はサブラインを設けたりロボットの汎用性を高めて混流を可能にしている。

◆2030年までに電動化13モデル

このマルチソリューションアーキテクチャは、マツダの中期電動化戦略を後押しする。今回マツダは、2030年までにEVを3モデル、PHEVを5モデル、HVを5モデルの市場投入を発表した。対象地域は日本、欧州、米国、中国、ASEANとほぼ全域だ。どの車種のモデル設定なのか完全新型なのかは今後の商品計画に依存するため詳細の発表はなかったが、これら13モデルのラインナップにはマイルドハイブリッド(MHEV)はないとする。

ハイブリッド5モデルにはトヨタから供給されるTHS IIのモデルは含まれる予定だが、マツダはこのモデルや欧州でのトヨタ『ヤリス』OEMの受給販売は、メインストリームと考えておらず、今後のストロングハイブリッドモデルは、原則自社開発となる予定だ。

◆ロータリーエンジン+電動化

特筆したいのは、マツダ独自のハイブリッドにロータリーエンジンを搭載したものも計画されているという点だ。マツダのロータリー+電動化というと、『MX-30 EV』のロータリーエンジンによるレンジエクステンダー(REX)モデルが22年に市場投入される予定がある。これは、前述の計画ではPHEV 5モデルのうちのひとつに含まれる可能性がある。

MX-30 EVロータリーREXがPHEVに分類されているということは、このモデルがバッテリー+モーター走行がメインとなる。おそらく搭載されるロータリーエンジンは小型の発電専用となるだろう。

これとは別にプラグイン機能を搭載しないロータリーエンジンによるHVの計画もあるという。独自開発のHVのうちどれかにロータリーエンジンが搭載される可能性があるということだ。方式は日産やホンダが採用するシリーズハイブリッドが有力だ。MX-30 REXはすでに正式に発表されているため、これ以外のロータリーエンジンのハイブリッドとなるとエンジンは発電用とするモデルとするのが自然だろう。

だが、マツダとしてはロータリーハイブリッドをシリーズ方式に限定することを決定したわけではない。市場のニーズや環境規制への適合などがあればエンジン出力を駆動力にも使うハイブリッド車も当然候補に入ってくるだろう。この場合でも、ホンダのe:HEVのように高速巡航走行(一般的にEVが不得意とされる)時にギアを直結させる方式なら、発電用のエンジンで対応できるかもしれない。

◆内燃機関やHVが規制されない国向けのラインナップ

このほか、直列6気筒縦置きエンジンをベースとした「ラージ群」についても言及された。ラージ群ではガソリン、ディーゼルに加え、PHEVと48Vマイルドハイブリッド(MHEV)が用意される。電動化をCAFE規制という視点で見た場合、ラージ群で将来性がありそうなのはPHEVのみとなる。内燃機関やHVが規制されない国向けのラインナップと思われる。

以上がマツダの中期マルチソリューション計画の概要となる。本来、全方位やマルチソリューションは、トヨタ規模のメーカー以外あまり有効とはいえない。端的にいえば、トヨタやVW以外のOEMメーカーが、ICE(ガソリン、ディーゼル)、HV、PHEV、EV、FCV、e-Fuel、水素燃焼エンジンを、基礎研究は別として、「すべてのお客様のために」用意・準備することは不可能といっていいだろう。

マツダの中期マルチソリューションもよく見るとICEからEVまでは計画に入っているが、FCVやバイオ燃料、水素燃料は入っていない。水素ロータリーを世界に先駆け研究し、プロトタイプまで走らせ実用化直前まで達したマツダが、「いつかインフラがそろえば」という条件付きという冷静な姿勢を崩さない。HVについても、ロータリーHVの開発予定はあるものの、OEM供給を受けるHVは、自社開発HV投入およびEV専用プラットフォーム投入2025年までのつなぎとみるべきだろう。

2030年に向けた新たな技術・商品の開発方針《資料提供 マツダ》 2030年に向けた新たな技術・商品の開発方針《資料提供 マツダ》 2030年に向けた新たな技術・商品の開発方針《資料提供 マツダ》 EV専用スケーラブルアーキテクチャ《資料提供 マツダ》 2030年に向けた新たな技術・商品の開発方針《資料提供 マツダ》 スモール群:ロータリーエンジンマルチ電動化技術《資料提供 マツダ》 ラージ群:ガソリンエンジン・ラグインハイブリッド《写真提供 マツダ》