ボルボ XC90 B5《写真 土屋勇人》

『XC60』に続き、『XC90』にも「B5」パワートレイン、つまり48Vマイルドハイブリッド(MHEV)が載ったと聞いて、早速に試乗車を借り出した。しかも用意された仕様は、日本にはわずか15台限定で割り当てられた「XC90 B5 AWD テイラードウール エディション(896万円)」。

これはポリエステル素材70%にウール30%を混紡することで、自然な起毛感をもつファブリックシートの特別車だ。ペットボトルをはじめとするリサイクル起源で、環境負荷の小さいサステナブルな素材で、昔ながらの高級ファブリックシートの優しい風合いを今日に伝える。そんなストーリーが垣間見える仕様といえる。

◆新しいテクノロジーと古き良きウールファブリックの組み合わせ


レザーシートの方が贅沢と思われやすい現代では、「ファブリックシートの方が高級」という感覚は、馴染みが薄いかもしれない。だが馬車や黎明期の自動車の旧い時代からの伝統では、耐久性のいい分厚いレザーは運転席のもので、オーナーの乗る室内や後席こそ、ウールモケットに代表されるファブリック張り、それがハイエンドな車の定石だった。

理由は、色柄のような流行にも対応できて、張り替えやすいファブリックの方が、長く使えて高級車にふさわしい、そう考えられていたからだ。ようは「サステナブル」の概念が、今とは違っていたのだ。

ラインナップの電化を早々に宣言していたボルボの、当面の切り札は48V MHEVだ。フルEVやPHEVに比べて電気で走行する割合が少ない分、ストロング・ハイブリッドの国産車が普及した我が国では低く見られやすい48V MHEVだが、ヘビー級のSUVカテゴリーで大容量バッテリーによる重量化を避けつつ、走行中の電化率ゼロのICE(内燃機関)を徐々に代替していくには、欠くべからざるテクノロジーだ。

フラッグシップであるXC90に、新しいB5パワートレインと古いコードに基づくウールファブリックを絡め、「エッセンシャルなもの」を示してきた、そこがボルボの巧みなところではある。


かくしてXC90のドアを開けると、ドアパネルにまでミディアムグレーのファブリックが張られたインテリア・トリムに迎えられる。肝心のウール混ファブリックは、サルーン風のキメ細かなモケット地ではなく、スポ―ティなSUVだけにざっくり目に編み込まれた少しだけカジュアルな生地だ。グレーは濃度だけでなく色味も難しい色ながら、写真で見るより明るすぎず、適度な青味にベージュのニュアンスをも備える。

ようはストライプや織り柄がないにも関わらず、物足りないとは思わせない絶妙のミディアムグレーなのだ。ブラックアッシュのウッドパネルと、シートの肩口に覗くスウェーデン国旗のタグも、アクセントとして小気味いい。

◆フラッグシップにふさわしい重厚感と落ち着き


試乗車はまだ走行距離1000kmほどと、20インチホイールの乗り心地は低速域でやや硬め。だが足回りがこなれるにつれシートの肌触りごと、より甘やかに馴染んでいくのだろう。テイラードウール エディションは他にも電動パノラマ・ガラス・サンルーフや、ハーマン/カードンのプレミアムサウンド・オーディオシステムに加え、目先の夏はともかく冬にその恩恵を知るであろう、シートヒーターを前席と2列目左右に、そしてステアリングホイール・ヒーターをも備えている。

シックでいながらリラックスした雰囲気は、B5パワートレインが醸し出す走り味にも相通じる。従来のガソリン「T5」エンジン相当の350Nm・250psに、48Vモーターが絞り出す40Nm・10kW(約13.6ps)は、トッピングというより下支えそのものだ。


XC60と8速ATのギア比が同じで車格は大柄なせいか、静止から転がり出し、加速の伸びまでモーターが介入してくる手応えは、XC60ほど顕著ではない。悪くいえば軽やかには欠けるが、その分、XC90のB5はフラッグシップにふさわしい重厚感と落ち着き、そして包み込むような柔らかさがある。また30km/h以上の定速走行に入った時の、気筒休止機構が働いた時の静けさには、やはり遮音性の高いXC90に際立ったものがある。

しかも2m近い全幅と5m近い全長を操っているとは思えない、ストレスのないハンドリングと、神経を逆撫でしないADAS制御やバックグラウンドで効いているであろうインテリセーフのフォローもあって、どの速度域でドライブしていても、とにかくドライバーを疲れさせない。

◆ボルボが手にした「背筋の伸びたリラックス感」

興奮ではなく充足、アドレナリンよりドーパミンを選好するタイプのドライバーにとって、XC90はスタイルや様式、そして動的質感において、現代の指標であり続けている。柔和だがモダンで洗練されていて、哲学的に間違いのなさそうな。昔なら英国車の専売特許だった「背筋の伸びたリラックス感」すら、ボルボには漂い始めた。



■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★
オススメ度:★★★★★

南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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