ボルボ KLASSISK GARAGE《撮影 中野英幸》

◆運転しているのは思ったよりも若い人

たまに街中でボルボの旧車を見かける時がある。運転席をチラリと見てみると、思ったより若い方が運転していることがあって、年代関係なく素敵だと思わせるクルマなのだろうと感じる。そういうシーンを見ると「ボルボファンの方だけでなく、昔のモデルがそのまま売っていたら、もっと様々な人たちがクルマが欲しくなったりするのかもしれない」とも思う。

そんな妄想を現実にしてくれそうなのが、ボルボのKLASSISK GARAGE(クラシック・ガレージ)だ。

◆タイムマシンで過去から運んできた新車のような旧車が並ぶ


ボルボ・クラシック・ガレージでは、ボルボの旧車を整備・修理してもらえるのはもちろん、レストア後のクルマを購入することもできる。古いパーツも、ボルボの旧車の部品を取り扱う部門が独立してできた会社から供給されているので安心だ。今回は、そんなボルボ・クラシック・ガレージでレストアされたクルマに試乗できるということで、ワクワクしながら会場へと向かった。

こういった仕事をしていても、メーカーがきちんとレストアしたクルマをまじまじと見られることは少ないので、ずらりと並んだ美しいボルボの名車を眺めるだけで楽しくて仕方ない。どれもこれもタイムマシンで過去から運んできた新車のよう。

「ボルボ・クラシック・ガレージでは、最初はごく少数の従業員でコツコツとクルマを整備してきました。その規模が徐々に大きくなり、立ち上げの2016年からこれまで、19台をリフレッシュすることができました。大切にボルボ車に乗り続けてくださったお客様で、『ここなら新しい引き取り手の方にも大事にしてもらえるだろう』とクラシック・ガレージに引き渡してくださった方がいたのですが、レストアが終わったクルマを見て、『やはりこのクルマが良い!』と買い戻してくださったこともありました。そういった気持ちになっていただけるようなクオリティの高いレストアをしようと日々研鑽しています」と、ボルボ・クラシック・ガレージのマネージャーである阿部昭男さんは話す。

◆これぞ「空飛ぶレンガ」!? 現代のボルボに通じるクルマの芯がここに



最初に試乗したのは、『240 GL』。240が言わずと知れた名車だというのは私でも知っている。子どもの頃よく描いたクルマのように、エンジンルーム、人が座る空間、トランクがくっきりと分かれていて、いわゆる3BOXのお手本のようなモデルだ。

「ベテランの自動車ジャーナリストが『空飛ぶレンガ(フライングブリック)』と言っていたのは、これかぁ」と間近で見て納得。当時はモータースポーツでも大活躍していて、レンガを積み重ねたような四角い形とその驚くべき速さで「空飛ぶレンガ(フライングブリック)」と呼ばれていたそうだ。

元々内装は程度の良い状態だったらしいが、乗り込んでみると本当にピカピカで驚いた。特にベージュのモケットシートは、経年劣化があまり感じられずヘタりも少ない。おしりを乗せた瞬間から体をもっちりと包み込んでくれる何とも言えない触感は、この時代のクルマならでは。


スイッチ類もそれぞれの機能が分かりやすく、いかにもアナログという雰囲気のデザインが可愛らしい。若い人たちの間で古いラジカセが流行っていた時期があったが、そういったものと近しい機械的なデザインの魅力を感じる。

実際に運転してみると、乗り出した途端「あぁ〜なるほど!」と声が出てしまった。これまで最新のボルボにしか乗ったことがなかったが、クルマの芯のようなものは今のボルボと同じだと感じた。ゆったりとした乗り心地と、クルマ全体を包み込むような安心感。ハンドリングはちょっとスロー気味で、街中をふわふわと漂う様に走っていく。エンジンはOHC水冷直列4気筒(115ps/185Nm)で、もちろん今のクルマほどパワーはなく、のーんびり加速していくのだが、それも性格に合っているように思えた。

◆ワゴンなのに7人乗り!?



お次は『940クラシックエステート』に乗り換えようと、クルマの前まで行くと「かっこいいー!」と思わず声が出てしまった。やっぱりボルボのワゴンって、素敵。四角くてパッキリとしたデザインと、ワゴンならではのリアに重心のあるスタイリング。「もしボルボ オーナーになるとしたら、断然旧車のワゴンだな」と改めて思った。

驚いたのは、ワゴンなのに7人乗り(!)だということ。リアゲートを開けると、広大な荷室が広がっていて、「あれ、5人乗り?」と思うのだが、荷室の床下を開いてみると、なんとシートがふたつ収まっている!しかも、シートは後ろ向き。お世辞にも快適とは言えないかもしれないが、荷室をほとんど犠牲にしないこの3列シートのアイディアは面白い。



◆気持ちも豊かに…丁寧に修理された旧車ってこんなに良いものなのか

940に乗ってみても、240と同じようにボルボの系譜を色濃く感じた。ゆったり、どっしり、ふんわり。今のクルマよりボディ剛性などは低いはずなのに、この密閉された殻に守られている安心感はなんなのだろう?昔から安全性に高い意識を持っているボルボの思いが、そのままクルマに表れているよう。

940のOHC水冷直列4気筒エンジンには、ターボが付いていることもあって(165ps/229Nm)、240よりすっきりと加速してくれる。先ほども思ったが、エンジンはとても調子が良く、ストレスなく軽々と回る。足回りもヘタりはほとんど感じられず、しっかりとしなやかにストロークしてくれた。

なんでもマネージャーの阿部さんは、ボルボのサービスとして30年以上勤務していたベテランで、足回りのセッティングにも相当なこだわりを持って整備にあたっているそうだ。ご自身の知見から、タイヤはミシュランを選定しているそう。940にはエナジーセーバーが装着されていて「なるほど」と思った。この940とタイヤの組み合わせだけ見ても、「足回りは丁寧に作られていそうだなぁ」と、クルマへの相当なこだわりを感じる人もいるのではないだろうか。

試乗中は「丁寧に修理された旧車ってこんなに良いものなのか…」と、うっとり。どちらも200〜300万円で購入できるというから、正直「安い」と思ったほど。新車を購入する感覚で、こんな素敵なボルボに乗ることができるなら、興味を持つ人も多いのではないだろうか。確かに先進技術や環境性能などは今のクルマには劣るが、気持ちが豊かになるという意味では、こういったクルマに触れるのも大事なことかもしれない。



伊藤 梓|ライター、編集者
クルマ好きが高じて、2014年にグラフィックデザイナーから異業種の『カーグラフィック』誌の編集者へと転身。2018年からはより広くクルマの魅力を伝えるために独立。自動車関係のライターほか、イラストレーターとしても活動中。

ボルボ KLASSISK GARAGE《撮影 中野英幸》 ボルボ KLASSISK GARAGE 240 GL《撮影 中野英幸》 ボルボ KLASSISK GARAGE 240 GL《撮影 中野英幸》 ボルボ KLASSISK GARAGE 940クラシックエステート《撮影 中野英幸》 ボルボ KLASSISK GARAGE 940クラシックエステート《撮影 中野英幸》 ボルボ KLASSISK GARAGE 240 GL《撮影 中野英幸》 ボルボ KLASSISK GARAGE 240 GL《撮影 中野英幸》 ボルボ KLASSISK GARAGE 240 GL《撮影 中野英幸》 ボルボ KLASSISK GARAGE 240 GL《撮影 中野英幸》 ボルボ KLASSISK GARAGE 240 GL《撮影 中野英幸》 ボルボ KLASSISK GARAGE 240 GL《撮影 中野英幸》 ボルボ KLASSISK GARAGE 240 GL《撮影 中野英幸》 ボルボ KLASSISK GARAGE 940クラシックエステート《撮影 中野英幸》 ボルボ KLASSISK GARAGE 940クラシックエステート《撮影 中野英幸》 ボルボ KLASSISK GARAGE 940クラシックエステート《撮影 中野英幸》 ボルボ KLASSISK GARAGE 940クラシックエステート《撮影 中野英幸》 ボルボ KLASSISK GARAGE 940クラシックエステート《撮影 中野英幸》 ボルボ KLASSISK GARAGE 940クラシックエステート《撮影 中野英幸》 ボルボ KLASSISK GARAGE 940クラシックエステート《撮影 中野英幸》 ボルボ KLASSISK GARAGE 940クラシックエステート《撮影 中野英幸》 ボルボ KLASSISK GARAGE 940クラシックエステート《撮影 中野英幸》 ボルボ KLASSISK GARAGE 240 GL《撮影 中野英幸》 ボルボ KLASSISK GARAGE 940クラシックエステート《撮影 中野英幸》