『フォードvsフェラーリ 』 (c) 2020 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

1966年のルマン24時間耐久レースを舞台に、絶対王者のフェラーリにフォードが挑んだ男たちの実話を基に描いた、ハリウッド版『下町ロケット』とも言われる映画『フォードvsフェラーリ』。第92回アカデミー賞で編集賞、音響編集賞の2冠を獲得した。

ウォルト・ディズニー・ジャパンは『フォードvsフェラーリ』について、4月1日にデジタル配信を開始、5月2日よりブルーレイ+DVDセットと4K UHDの発売、ブルーレイとDVDのレンタルを開始した。

ライターの赤井邦彦が『フォードvsフェラーリ 』を視聴し、見どころや当時のルマンの状況を解説する。………………

映画は1966年のルマン24時間レースを舞台に、フォードが劇的な勝利を上げる模様を描いたものだ。物語は実話に基づいたもので、登場人物も実在の人達。物語の構図はいくつもの要素が縦横無尽に絡み合い、重層的な建築物を様々な角度から見るような感じだ。ただ、絡み合った要素のひとつひとつはシンプルでストレートなもので、非常に理解しやすく、素直に物語に入っていける。

物語はフォードがヨーロッパ市場拡大の足がかりとして、ルマン24時間レースへの参戦を決めるところから始まる。

しかし、大衆車メーカーのフォードには世界一過酷なレースを戦えるクルマが存在しない。そこに届いたのが「小さいが、他に代えられないイタリアのスポーツカー・メーカーが売却を検討中」という一通のメモ。イタリアのスポーツカー・メーカー? 紛れもなくフェラーリだ。ヘンリー・フォード2世はこの話に飛びついた。ルマン常勝のフェラーリを買い取り、フォード・ブランドでルマンに挑戦する。ルマンの絶対的なブランド効果がフォードのヨーロッパ市場拡大を後押しすることは確実だ。副社長のリー・アイアコッカ(ジョン・バーンタール)が交渉を担当、フェラーリの買収交渉は合意寸前まで辿り着く。

しかし、契約書の最後に記されていた文言にエンツォ・フェラーリは激怒した。そこには、「フェラーリのレース活動もフォード本社の決議が必要」と記されていた。レースはフェラーリの血であり魂だった。会社は手放しても、レース部門の指揮は自分達で執ると決めていたエンツォ・フェラーリはその文章を指さして、「私のレース活動までフォードの官僚主義の犠牲にはしたくない!」と、交渉のデスクを離れた。決裂だ。

連絡を受けたヘンリー・フォード2世は、ならば自分達独自にルマンに挑むことを決心する。この瞬間、フォードのルマン制覇の夢は、打倒フェラーリと意味を同じくした。

少し長くなったが、このフォードとフェラーリの確執を知った上で映画を観ると、当時の世界の自動車業界の縮図が見て取れるようで大変に興味深い。資本主義を謳歌するビッグ3の一角フォード。小さな会社だが高品質で魅力的なスポーツカーを生み出すフェラーリ。経済的な力の差は歴然だが、生み出す製品(クルマ)の魅力と知名度には会社の規模は関係ない。そのことを一番よく分かっていたのがヘンリー・フォード2世で、ルマンでフェラーリに勝利することでしかフェラーリとの溝を埋めることはできないと自覚していた。

この映画はそうした背景を持つフォード側の視点に立ち、いかに自分達(フォード)が図体だけ大きくアイデンティティに乏しい会社であったかということを、フェラーリを対抗勢力として描くことで気づかせた。全体主義のアメリカと個人主義のヨーロッパの対峙。ここが私のお薦めする第一の見所だ。

第二の見所は、そのアメリカ全体主義に抗う勢力が、内部から台頭する有様の描写だ。全体主義への対抗勢力としてキャロル・シェルビーとケン・マイルズという2人のレース屋が描かれる。

ルマンでフェラーリを倒すクルマの開発をフォードから依頼されたシェルビー。フォードを満足させるクルマを完成させるにはマイルズの力が不可欠である。しかし、自らのクルマ開発の才能とレースでの速さに絶対の自信を持つマイルズは、シェルビーを介して伝えられるフォードの方法論にはどうしても与することが出来ないところがある。そこでたびたび衝突が起こる。マイルズの立ち位置は、巨大企業への個人の挑戦の勝利と敗北を見せてくれる。視聴者は彼の一挙手一投足に興奮し、落胆もするだろう。このマイルズの孤独が、第二の、そして私が推す最大の見所である。

ここでレース中のシーンについて少し触れると、本作はCG全盛の時代に実車を使用しての撮影を行ったおかげで、迫力満点の映像を観ることが出来る。撮影はフォードGT40のレプリカにカメラを搭載し、リバーサイド・レースウェイで実際に走行して撮影した。マイルズ役のクリスチャン・ベールは、「実際にGT40を運転するというのは最高だった。コーナーギリギリをぶっ飛ばすんだから、やみつきになるよ」と振り返る。有名なレース映画にはジョン・フランケンハイマー監督の『グラン・プリ』(1966年)があるが、当時はもちろんCGがなく、すべて実車での撮影。本作品もその『グラン・プリ』に負けない臨場感のあるレース場面が展開されている。撮影の様子は本編終了後にメイキング映像として、ジェームズ・マンゴールド、クリスチャン・ベール等のインタビューと共に収録されているのでお楽しみを。

偉大なフォードのルマン制覇は、午後4時のゴールを前に一悶着あった。レース担当重役のレオ・ビービ(ジョシュ・ルーカス)が、上位を走る3台のフォードGT40 Mk-IIを同時にゴールさせようと提案した。PR効果抜群というのがその理由だった。ビービにとればフォードGT40が勝てば、誰がドライブしていようが関知しないのだ。ゴール前の周、トップを走っていたのはマイルズの1号車だった。彼は当初ビービのオーダーを無視する素振りを見せたが、シェルビーの説得でアクセルを緩め、マクラーレンのドライブする2号車を待って並んでゴールした。結果は、20m後方からスタートした2号車が優勝した。噂ではチームオーダーに怒ったマイルズがわざとアクセルを緩めてマクラーレンを先に行かせたとも言われている。マイルズは失意の2位。

レース後、失意のマイルズは新聞記者にこう語っている。「我々が勝ったはずだよ。しかし、規則上では2位だ。私は反対したが、フォードの決定で並んでゴールした。落ち込むよ、当然だ。でも、どうすればいいんだ?」。

ルマンから2か月後の1966年8月17日、マイルズはカリフォルニアのリバーサイド・レースウェイで67年ルマンに挑戦するフォードJカーのテストを行っていた。そして、その日最後の周を走行中にクルマがコースを飛びだす事故に遭い亡くなった。息子のピーターが見ている前だった。

シェルビーはマイルズに関してこう結んだ。「彼に取って代われる者はいない。彼は我々のベースラインであり指標であり、我々の計画のバックボーンだった。ケン・マイルズに代わる者は二度と出てこない」。

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