ヴォクソール・コルサ《photo by Vauxhall》

2020年2月18日、グループPSA傘下の独オペルが日本市場への復帰を発表した。これを機会に、本稿では2020年2月現在ヨーロッパで展開しているブランドのなかで、日本未導入のものを3回にわたって紹介する。第1回は、過去に日本へ正規輸入されたことがあるブランドの現状を記す。

◆ヴォクソール

ヴォクソール(=ヴォクスホール)はその歴史を1903年に遡る、英国に現存する最古の自動車ブランドである。1925年にはゼネラルモーターズ(GM)の傘下となった。日本ではGM車を扱っていたヤナセが、その流れで1970年までヴォクソールを輸入販売していたが、排ガス規制への適合が難しかったことから取り扱いが終了した。

1970年代からは、同じくGM系でドイツを本拠とするオペルとの製品の共通化が進められた。今日でも事実上、英国市場向けにブランド名を変えたオペルであり、大半の車種はヨーロッパ大陸側にあるオペルの生産拠点で生産されている。ただし、英国のエレスメア・ポート工場では『スポーツツアラー』を、ルートン工場では商用車を生産している。2017年にはオペルと共にグループPSA入りを果たした。

2020年現在の乗用車ラインナップでは、オペル16車種のうち、9車種をヴォクソール・ブランドで販売している。販売店もグレート・ブリテン島および北アイルランド、および周辺諸島の342拠点のみ。加えて、グループPSAのカルロス・タヴァレスCEOは2019年、英国のEU離脱に伴い、同国への投資凍結を発表しているため、グループ内におけるヴォクソールの処遇はなお不透明だ。

◆フォード

2016年に日本を撤退したフォードだが、ヨーロッパでは今日も『フィエスタ』『フォーカス』から北米生産の『マスタング』『GT』まで、約20モデルの乗用車を商品展開している。

自動車産業専門サイト『focus2move』によると、2019年の欧州およびロシアの乗用車販売台数トップ10で、フォーカスは7位(24万3825台)、フィエスタは9位(23万3019台)にランクインしている。ただし、フランスの変速機工場の一拠点を2019年に閉鎖し、英国のエンジン工場の閉鎖も検討中であるなど、伸び悩む欧州自動車市場を背景に、リストラの渦中にあることも事実である。

◆ランチア

日本で1998年までガレーヂ伊太利屋とマツダによって正規販売されていたランチア。2020年現在、販売車種は3代目『イプシロン』のみである。ポーランド工場で生産されている同車は2011年の発表で、2012年から2014年までフィアット・クライスラージャパン(現FCAジャパン)が、「クライスラー・イプシロン」の名前で正規輸入した。

2020年現在、発表から9年が経過しているが、イタリアでは2019年も登録台数でフィアット『パンダ』に次ぐ2位(5万8759台)を記録した。FCAがグループPSAとの経営統合を果たしたあと、ランチア・ブランドを発展させるのか、廃止するのかが注目される。

◆ヒュンダイ

2010年までで日本市場の乗用車からは撤退したヒュンダイだが、現在ヨーロッパ地域では18モデルを展開している。今日、ドイツに2カ所のR&Dセンター、チェコとトルコに生産拠点をもつ。

主力車種はコンパクトカー『i20』とSUV『トゥーソン(タクソン)』。2019年の欧州販売台数は、54万6840台で、市場シェアは3.49%(出典: CAR SALESBASE)を記録した。参考までに日本市場におけるピーク時である2004年の販売台数は2524台。つまり、その200倍以上が欧州で売れたことになる。

◆キア

アジア通貨危機の翌年である1998年に経営破綻したキアは、以来ヒュンダイの姉妹ブランドとなって現在に至っている。

日本では1990年代にキア『プライド』5ドア仕様がマツダの手によって『フェスティバ5』として売られ、その後「起亜ジャパン」によってMPV『カーニバル』や2代目ロータス『エラン』の生産設備を継承して製造した『ビガート』が販売された。

2020年現在、キアはヨーロッパで18モデルを展開している。地域内では11年連続で販売記録を更新し、2019年には50万2845台を販売。シェア3.2%も過去最高だ。

◆サンヨン

2010年からインドのマヒンドラ社傘下にあるサンヨンは、ヨーロッパでは5モデルを展開している。「コリアンの完璧主義」といった、韓国発祥のメーカーであることを表向きに表現したコピーも特色だ。またイタリアでは人気娯楽映画や、「ミス・イタリア」のスポンサーを務め、さらに「1カ月以内なら返品機能」といったテスラに似た手法などで、着実に存在感を増している。

◆MG

ヴォクソール同様、英国の歴史的自動車ブランドのひとつである「MG」は、2005年に南京汽車によって買収され、続いて2007年にその南京汽車を買収した上海の上汽集団(SAIC)の1ブランドとなり、現在に至っている。

事実上唯一の市場である英国内の販売台数は2009年のブランド再投入から2013年を除いて常に右肩上がりを続け、2019年には1万4061台を記録した(出典: CAR SALESBASE)。コンパクトカー『MG 3』、日産ジュークと市場で戦うコンパクトSUV『MG ZS』およびそのEV仕様、そしてSUV『MG HS』の3モデルがラインナップされている。MG3は中国で製造された部品を、英国ロングブリッジの工場で組み立てる、いわゆるKD生産が行われている。

従来から存在したバーミンガムのデザインセンターに加え、2018年にはロンドンにもアドバンスド・デザインセンターを開所した。公式リリースやカタログでは、英国のエンジニアが研究開発に関与していることが、たびたび強調されている。

以上が、かつて日本に上陸したことがあるブランドのヨーロッパ市場における現状である。韓国メーカーは、当初は低価格で、のちには日本車より長い保証制度などを売りに世界市場でシェアを伸ばしてきた。いっぽう欧州の伝統的ブランドは、経営統合や買収の波のなか、その立ち位置を模索している。同時に、そのどちらを範とすることも難しく、かつ近い将来選択と集中が迫られる日本の自動車メーカーが、どのような道を辿ればよいのか。ヨーロッパ市場を観察していると気になってならない。

ヴォクソール・アストラ・スポーツツアラー《photo by Vauxhall》 フォード・フォーカス・ヴィニャーレ《photo by Ford of Europe》 フォード・フィエスタ《photo by Ford of Europe》 フォード・フィエスタ(2004年日本導入モデル)《写真 編集部》 ランチア・イプシロン《photo by FCA》 ランチアY(イプシロン、1994年)《photo by FCA》 ヒュンダイ i20《photo by Hyundai Motor》 ヒュンダイ・トゥーソン《photo by Hyundai Motor》 ヒュンダイJM(2004年日本導入モデル)《写真 編集部》 ヒュンダイ・ソナタ(2005年日本導入モデル)《写真 編集部》 キア・ピカント《photo by KIA》 キア・ソウル・エコエレクトリック《photo by KIA》 サンヨン・コランド《photo by Ssangyong》 MG 3《photo by  MG》 MG ZS《photo by MG》