上海GM五菱汽車、シンディ・チャイ副社長《撮影 藤井真治》

日本車新車販売シェア98%。「日本国内より日本車シェアが高い」インドネシアで、中国ブランド車がじわじわと市場に浸透しつつある。7月に開催されたインドネシア国際オートショーでは、新モデルの発表や得意の電気自動車が展示され、中国車ブースは内外から高い注目を浴びている。

◆すでに日産を抜いた?ウーリン

インドネシアで大規模な国産化投資を展開し、2017年より販売を開始した中国ブランドの「ウーリン」(五菱)。日本ではほとんど名前が知られていないブランドだが、本国中国ではMPVの超有名ブランド。

主力車種の『宏光(Hongguang)』はワンモデルで年間50万台が売れている。その「宏光」のインドネシア版であるのMPVを市場投入し、定価価格と地道な販売網整備により順調に販売は伸長。昨年は日産(DATSUN除く)に肩を並べる販売量となった。

7月、首都ジャカルタ近郊で開催されたオートショーには中国本国から上海GM五菱のシンディー・チャイ副社長が駆けつけ、壇上で自らウーリンのブランドバリューとインドネシア事業への真面目な取り組みを語った。


今回新たに商品追加され販売価格が発表されたSUVの『ALMAZ』。少し大ぶりのマッチョなイメージのデザインは力強くかつ洗練されたデザインで正直悪くない。1.5リットルのターボ仕様で3列シートと2列シートが選択できる。室内は重厚なイメージながら電子機器満載。インパネ中央には10.4インチの大きなタッチスクリーンが配されている。

極め付けは「ハロー・ウーリン」で起動する音声認識デバイス。音声でオーディオ、電話、空調、窓の開閉などがコントロールできる。全体的な商品性は日本ブランドと比べ遜色ないどころか、装備では日本車を上回っているとも言える。しかも価格は同クラスの競合モデルと比べて(同スペックで)50〜60万円ほど安い。トヨタや三菱のSUVの強敵になることは間違いない。

◆東風系ブランドも販売開始


もう一つの中国ブランドである中国東風汽車系のDFSK。昨年より、SUV『Glory580』のインドネシアでの生産販売をスタートさせているが、今回のオートショーではウーリンと同じく音声コントロール機能を満載したスペックの 追加モデル(i-power)を発表・発売。さらに中国得意の電気自動車『E3』も参考展示し、来るべき電動車ブームにも準備万端であることをアピールしていた。「Glory580」はホンダの競合モデルとなるとともに今度の商品追加によっては第2のウーリンとなる可能性を持っている。

インドネシアで本格的現地生産・販売がスタートした中国ブランド車。これまでのコピー車イメージとは異なる商品力と魅力ある価格を有している。

足りないものは「中国製」というブランドイメージ。インドネシア生産車としての製造品質が確保されているかはまだ市場の評価を待たなければいけない。日系メーカーがインドネシアで40年かけて築きあげたようなブランド力をつけるには、まだ時間がかかるものと思われる。ユーザーからは「トヨタやホンダのバッジがついていたら絶対買う!」という声が聞かれた。

採算度外視とも見える強気の事業展開やオートショーの展示をみても中国ブランドの「本気度」がうかがえる。日本メーカーも「日本車天国」に甘んじているわけには行かなくなってきた。

<藤井真治 プロフィール>
(株)APスターコンサルティング代表。アジア戦略コンサルタント&アセアンビジネス・プロデューサー。自動車メーカーの広報部門、海外部門、ITSなど新規事業部門経験30年。内インドネシアや香港の現地法人トップとして海外の企業マネージメント経験12年。その経験と人脈を生かしインドネシアをはじめとするアセアン&アジアへの進出企業や事業拡大企業をご支援中。自動車の製造、販売、アフター、中古車関係から IT業界まで幅広いお客様のご相談に応える。『現地現物現実』を重視しクライアント様と一緒に汗をかくことがポリシー。

Wuling ALMAZ、中国では「大通A60」《撮影 藤井真治》 DFSK「Glory580」のEV《撮影 藤井真治》