ホンダモビリオ(インドネシア国際オートショー)《撮影 藤井真治》

インドネシアで開催された国際オートショー、ホンダ現地法人社長が電動キックボードで登場し新型『アコード』を披露した。

またスズキは根強いファンの要望に応え『ジムニー』の新型車を発表・発売した。市場規模僅か100万台の局地戦インドネシアだが、ホンダ、鈴木はトップのトヨタを追う2位争いを決して諦めてはいない。

◆電動のキックボードで登場したホンダ現地法人社長


7月18日、国際オートショーでのホンダのメディアブリーフィング。現地法人ホンダプロスペクトモーター渡邊社長がいきなり電動キックボードに乗って壇上の現れ、詰めかけたインドネシアの記者の度肝を抜いた。この電動キックボード、ホンダでは「Transcooter(トランスクーター)」と呼んでおり、 中国のモーターショーなどでは電気自動車とセットでコンセプト展示されていた「小さな乗り物」。

欧州やシンガポールでは足で蹴って進むマニュアル式のモノも含めすでに「キックボード」がラストワンマイルの交通手段として普及している。日本でも子供のおもちゃや新世代スポーツの道具だけでなく、MaaSブームに乗って日常の足としての可能性がようやく話題に登り始めたところ。

クルマとバイクの移動手段がメインのインドネシアでは日常の足としての普及は疑問だが、自転車と同じく仲間同士が集まるための道具としての普及が進みそうな気配だ。トヨタの物量作戦とは異なるいかにもホンダらしい時流の先取り感覚である。

◆どうなるアジア「ホンダ4兄弟」


ホンダは数年前より、売れ筋モデルの異なる東南アジア各国やインドへの商品対応として、4モデルの新興国専用車を立て続けに発表・発売した。開発投資のセーブのために同じプラットフォームを使ってセダン、ハッチバック、MPV、SUVという異なるモデルを開発しタイとインドネシアで生産し、それぞれを各国に市場に投入するという離れ業をやってのけた。

インドネシアは売れ筋モデルの3列シートMPV『モビリオ』の投入にあたり新たに販売店を増強したこともあって、2016年には一気に販売シェア2位のポジション(卸売ベース)に躍り出た。現在(2019年1-6月)はダイハツの巻き返しや三菱の台頭により4位の地位に甘んじているものの、根強いホンダファンの応援を得て今後の巻き返しが待たれるところである。

気になるのは日本のホンダ本体の収益悪化。八郷社長から経費削減のための車種削減の号令がかかっており、ホンダのアジアビジネスの核となりつつある「アジア4兄弟」がやり玉に上がらないか気になるところではある。

◆スズキは新型ジムニーを発表・発売


スズキにとってインドネシアはインドプロジェクトが弾ける以前は海外で最も重点な拠点であった。一時期2輪ではホンダとの猛烈なトップ争いを繰り広げ、4輪では1位のトヨタに迫る勢いをみせていた。現在バイクはホンダの寡占状態とヤマハの商品攻勢の影でシェアは一桁台と精細を欠く。また4輪においても、現在は2位争いを展開中のダイハツ、三菱、ホンダに水を開けられている状況である。

今回の国際オートショーでスズキは新型ジムニーを発表・発売した。記者発表の壇上ではスズキの現地法人の板山社長が、ジムニーの歴史やインドネシアのジムニーファンの多さを熱く語った。

新型ジムニーはSUVと呼んでいるものの1500ccのフレーム付き小型オフロード車。室内は4人乗りで荷物のスペースは驚くほど狭い。内装や外板は極めてシンプルでジムニーのこれまでの基本デザインを踏襲している。背中に背負ったスペアタイヤや運転席に座った途端目につくトランスファーレバーなど懐かしさを感じる4輪駆動のオフロード車のスペックである。

都市部ですら冠水がおこるようなインドネシア。地方では道路インフラが不十分なところも多く、安くて格好いい小さな4輪駆動車のリバイバルは実はファンから待ち望まれていた。

価格も日本円で300万円前後とお手頃価格。すでに先行予約が始まっており、本年分の日本からの完成車輸入分はすべて完売とのこと。今から受注した分は来年以降はインドネシアでの国産化車両になるようだ。

◆日産もいよいよ反撃か?


各社が売れ筋モデルの3列MPVの現地生産に大量のリソースを投入し、販売競争が激化するインドネシア。電動車についても新たな政策が用意されている中、新型ジムニーはレトロと言っていいモデルではある。

しかし、起死回生のためにはスズキでしかできないモデルで勝負をするという選択をしたようだ。意外とヒットを飛ばしそうな予感がする。

一方、スズキのブースの正面にある日産ブース。三菱『エクスパンダー』のOEM供給車両であるMPV『グランド・リビナ』が誇らしげに展示され、正面にはセールスマンがズラッとならんでいた。日産とダッツン(DATSUN)というブランド分断策の失敗や、商品のフォロー投入不足が原因でジリ貧状態のインドネシア事業だったが、ようやく反撃ののろしがあがったようだ。

<藤井真治 プロフィール>
(株)APスターコンサルティング代表。アジア戦略コンサルタント&アセアンビジネス・プロデューサー。自動車メーカーの広報部門、海外部門、ITSなど新規事業部門経験30年。内インドネシアや香港の現地法人トップとして海外の企業マネージメント経験12年。その経験と人脈を生かしインドネシアをはじめとするアセアン&アジアへの進出企業や事業拡大企業をご支援中。自動車の製造、販売、アフター、中古車関係から IT業界まで幅広いお客様のご相談に応える。『現地現物現実』を重視しクライアント様と一緒に汗をかくことがポリシー。

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