アウディ R8撮影 中村孝仁

◆50年前のルマンカーを路上で転がすようなもの

そもそもである。60年代にルマンを制した『フォードGT』のパフォーマンスは、あっても精々550ps程度といわれた。

確かにマシンをコントロールする各種の電子デバイスなどは当時は皆無。だからいきおいドライバーの腕がすべてを決めるわけだった。翻って今日、トラクションはコントロールしてくれるは、ブレーキは適正に制御してくれるは、滑りだしたらエンジンパフォーマンスの制御と、左右輪のトルクの適正化をしてくれるは等々、ドライバーの無理難題をクルマの方が健気にも縁の下の力持ちのようにこなしてくれる。

しかしそうはいってもアウディ『R8』のパワーは610ps、60年代のルマンカーよりもパワフルで、現代のスーパーカーにしてみれば、ある意味こんなの序の口と言わんばかりにパフォーマンス競争をして留まるところを知らない。今スーパーカーと呼ばれる類のクルマに乗っているユーザーは、簡単に言えば50年前のルマンカーを路上で転がしているに等しい。

一方で、飛ばさなければ、たとえ610psあってもそれは大人しいものである。車高が低いから乗り込む時に少し難儀するのと、リアに巨大なV10エンジンを搭載する関係で少し視界がよろしくないが、乗降性を除けばそれ以外の難儀はほぼすべて、カメラをはじめとした各種デバイスが解決してくれるのだ。

こうしたスーパーカーが世に出始めたのは、初代ホンダ『NSX』からではなかったかと思う。まあ当時のパフォーマンスはスーパーカーといっても知れたものだったから、今とはだいぶ事情は異なるかもしれないが、それにしても当時のスーパーカーはとにかく乗りにくいクルマが多かった。今だって気難しいスーパーカーはゴロゴロしているかもしれないが、少なくともアウディR8はほとんど気を使わずに普通のクルマとして街中を流すことが可能である。

◆「普通のクルマ」として走れる


基本的なプラットフォームやエンジンなどは、ランボルギーニ『ウラカン』と共有する。勿論アウディで開発が行われたもののはず。まあ、残念ながらウラカンには乗ったことがないので、あれこれ言える立場にはないが、恐らくウラカンも乗り易いスポーツカーになっていること間違いなしだ。

エンジンスターターはステアリングに装備される。おもむろに押してみると、弾けるようにV10サウンドが背後から襲い掛かる。室内のバックミラーを見ると、そのV10のロゴが、一度反転されて正立した状態でそこに写し出される。トランスミッションは7速のDCT。これもウラカンと一緒だから、ドライブトレーンは共有と言って間違いないだろう。勿論チューニングは異なっているのかもしれないが…。

R8はパドルシフトも装備されるが、普通のスティックシフトも装備されていて、これをDに入れておもむろに発進すると、まあ、本当に普通のクルマである。それこそ、音が少しうるさいことと、視界が少々遮られることを除けば、コンパクトカーを転がしているのと何ら変わりがない。

足だって十分に快適で、巨大な20インチのタイヤを履く割には本当にしなやかに路面を捉えてくれる。ただし、ステアリングだけはまさしくレーシングカー並のクィックさを持っているから、普段乗り慣れた乗用車から乗り換えると、切り過ぎてしまうこと請け合いだ。

◆何故か初代「NSX」に相通じるものを感じる


出ても精々60km/hの市街地走行では常時この状態で、ヘビーウェットだった当日の路面状況でも、気を使うことなど一切ない。ではいったいどの程度のパフォーマンスがあるのか、それを知るには高速に乗らないわけにはいかず、試乗地だった御殿場周辺の東名高速を走ってみた。

本線に流入するために、軽くアクセルをオン、でもこの程度じゃ正直言って何も面白いことはない。そこで、80km/hから僅かな時間(ほんの数秒だ)、フル加速を試みた。V10の咆哮が急激に変わり、とてつもない加速感で一気にスピードを上げる。しかもヘビーウェット路面もものともしない抜群の安定感だ。やはり咽び泣くようなV10の咆哮は、たまらない刺激を受ける。これを聞くためにわざわざギアを落としてスピードを控え目にして加速してみたりもした。

レブリミットは8700rpmだそうだが、タコメーターのレッドゾーンは8500rpmから始まる。本当はそこまで回してみたい欲求に駆られるが、一般道ではまず無理である。精々1速のみであろう。そういやステアリングにはそのエクゾーストサウンドを開放するボタンが装備されていたが、そいつを試すのをすっかり忘れてしまった。残念!

アウディR8は、まさに常用域の快適さと超ド級のパフォーマンスが同居したスーパーカーである。エクステリアデザインの優しさというかけばけばしさの無い大人しさも、何故か初代NSXに相通じるものを感じてしまう。

■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア居住性:★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来42年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。 また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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