アウディ A8 新型《撮影 中野英幸》

アウディ『A8』と『A7スポーツバック』。この2車種が新型(フルモデルチェンジ)となったのだが、共通した新機能とその試乗インプレッションを紹介しよう。ただし、ここではA8に特化する。

◆量産車初のレーザースキャナー搭載

まずその新機能。1つ目は、量産車で初めてレーザースキャナーを搭載したこと。レーザースキャナーはユニット内で鏡状の反射板がクルクルと回り、ミリ波レーダー(照射範囲35度)よりも広範囲(照射範囲145度)を照射認識することができる。ライダーなどとも呼ばれる装置だ。これにより、急な前方への割り込みなどに対してこれまでのレーダーでは真正面に割り込まれてから反応していたものが、割り込み始める斜め前方位置から認識し減速制御ができ安全性が向上している。

また、レーザースキャナーになったことで縁石、草むら、ガードレールなど側方の認識が向上し、走行車線内中央維持(ALA)の機能が向上しているという。また、このレーザースキャナーとは別にフロントバンパーコーナー左右にそれぞれレーダーを追加。交差点や、細い路地から道路に出る際にビルなどで遮られた歩道左右の人や自転車などを捉えてドライバーへの警告、ブレーキなどを行ってくれる。A8のようなミドルサイズに於いて、これは非常に安全な機能だ。

◆48Vマイルドハイブリッドの恩恵


2つ目は、48Vのマイルドハイブリッドシステムを搭載したこと。このシステムはメルセデスなど独メーカーが次々と採用に踏み切っている。A8に搭載されるV6、V8ユニット共にこのシステムを採用している。ベルトで駆動するオルタネーターに48Vの駆動&発電可能な高性能モーターを採用するこのシステム、フルハイブリッドに比べてボルトオン的な要素から簡素で廉価に仕上げるメリットを持つといわれている。

アウディではそのモーターの駆動よりも主に減速時の回生による発電に主眼を置いているようで、リヤに搭載された48Vのリチウムイオンバッテリーに充電され、この電力によってアイドリングストップの範囲を拡大している。まず停止時は22km/h以下でエンジンストップ(従来は4〜7km/h以下)。さらに55〜160km/hの範囲でコースティング(惰性走行)を行い、このとき完全にエンジンが停止する。

従来はエンジンがアイドリング状態を保つものだったのだが、完全停止してより燃料を節約するのだ。この停止時間は40秒間をマックスとしている。つまり、48Vと強力な電力を持ったことで、エンジンを停止しても様々なデバイスを稼働させる余剰の電力に余裕ができているのだ。

◆4WSが生むクイックかつ高次元のハンドリング


3つ目は、4WSと呼ばれるオールホイールステアリング(4輪操舵)とダイナミックステアリング(可変ギヤレシオ)が融合されたこと。4WSは60km/h以下でリヤタイヤはフロントとは逆方向(逆位相)に最大5度切れ、少ない舵角でクイックに曲がる。また最小回転半径は従来より0.5m小さい5.3m。これはコンパクトなFFレベルだ。

そして70km/h以上では同方向(同位相)に切れることで、リヤタイヤの応答がフロントタイヤと同時になり、より安定したコーナリングが可能となり、サスペンションをそれほど硬くしなくても高速域での安定性が確保でき、乗り心地に貢献する。このシステムとアウディのダイナミックステアリングがコラボすることによって、高次元のスポーティーハンドリングが実現できている。

他にも、可変減衰&エアサスペンションやスマホから施錠や窓が確認できるコネクテッドがあるが、ここでは省略する。

◆安心がスポーティさの懐を広げてくれる


乗り味だ。エンジンはシングルターボの3.0リットルV6ユニットの停止時からのダッシュがとても力強い。48Vモーターによる恩恵はダッシュ時にも後押ししている。またアイドリングストップからのエンジン始動も気付かないほどスムーズだ。4.0リットルV8ユニットはツインターボなのでスタートダッシュ時の恩恵はそれほど気付かされない。それほど下から上まで力強いのだ。

オールホイールステアリングはどのようなシチュエーションに於いても操舵角が少なく、市街地の四つ角からワインディング、そして高速道路のレーンチェンジが安心、しかも楽しい。安心という心を支えるベースがあるので、スポーティーさに広がりがある。さらに室内の静粛性も寄与している。

そしてレベル3のレベルともいわれるレーザースキャナを採用したACC(アダプティブクルーズコントロール)とアクティブレーンアシスト(ALA)は、ALAのセンターリング(車線内中央維持)機能がよりしっかりとしている。ただし、この機能についてはレーザースキャナを採用しないメルセデスやボルボも同レベルにあるので、現時点では他車による割り込みなどの緊急時にメリットがあるようだ。これらの機能が本領を発揮するには法整備などの社会的環境の進化が必須のようである。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★

松田秀士|レーシングドライバー/モータージャーナリスト/僧侶
成仏する直前まで元気でクルマを運転できる自分でいたい。「お浄土までぶっ飛ばせ!」をモットーに、スローエイジングという独自の健康法を実践しスーパーGT最年長55歳の現役レーサー。これまでにINDY500に4度出場し、ルマンを含む世界4大24時間レース全てに出場経験を持つ。メカニズムにも強く、レースカーのセットアップや一般車の解析などを得意とする。専門誌等への寄稿文は分かりやすさと臨場感を伝えることを心がけている。

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