埼玉自動車大学校クラシックカークラブ《写真撮影 嶽宮三郎》

自動車整備の専門学校で週に1度、学生らの運転によってトヨタ『セリカ』やいすゞ『117クーペ』が校内のテストコースを快走している。放課後の数時間、昭和に生まれた旧車の整備やレストアにいそしむ若者たちの眼差しは生き生きとしていた。

埼玉県伊奈町の埼玉自動車大学校(埼自大、新井和徳校長)は2024年に創立65年を迎えた。1級・2級自動車整備科、自動車車体整備科、総合車体整備科、カスタムボディ科などがある。授業以外にも、4輪・2輪合わせて約500台が集まる学園祭「オートジャンボリー」の開催や、東京オートサロンへのカスタムカー出展、GR86/BRZレースへの参戦なども盛んに行われている。

クラブ&サークルも体育会系から文科系まで多様。その中のひとつがクラシックカークラブだ。

部室は2階建て。1階のシャッターを開けると、トヨタ『セリカ』リフトバック1600GTといすゞ『117クーペ』1800XT(いずれも1973年)、それに310型の日産『サニー』(1980年)が現れた。顧問の町田孝宏先生指導の下、集まった全員で本日の作業予定を確認して各自が所定の位置につく。

セリカと117クーペを担当する部員は、チョークを引いてアクセルを煽りながらイグニッションキーをひねるといった、旧車ならではのエンジンスタートの儀式を手慣れた動作で行い、暖気が終わると校内に設けられているテストコースへ。いずれもマニュアル・トランスミッション車で、シフトアップ・ダウンも軽快にこなしながら周回を重ねていく。

セリカのステアリングを握るのは、クラブの部長である総合車体整備科の宮川貴行さん。「2時間連続のサビ取りやグリスまみれとか辛いこともありますが、こうやってエンジンをかける儀式や、五感で感じられる旧車は面白いです」と話す。一方、117には2級自動車整備科の木村日向さんと1級自動車整備科の真広さんという19歳の双子の兄弟が乗り込んだ。2人の父親がトヨタ『ソアラ』に乗っていたこともあって旧車に興味を持ち、仲良く同校に入学すると同時にクラシックカークラブにも入部。「このクラブにはなかなか触れる機会のない古いクルマばかりで楽しい」と、こちらも口をそろえた。

このほかクラブでは様々な車両を保管している。スバル『ヴィヴィオ』、2代目日産『スカイライン』1500DX、ホンダ『145』クーペ、初代トヨタ『カローラ』セダン、オースチン・ヒーレー『スプライト』Mk1など、いじるのが楽しそうなクルマばかりである。こうした貴重なクルマは卒業生をはじめとして各方面からの寄贈だという。

昨年は310型の日産『サニー』(1980年)が加わった。これは同クラブ活動の良き理解者の1人である、全日本ダットサン会の佐々木徳治郎会長から寄贈された車両で、同氏の親族が宮城県登米市の納屋に保管していたものを町田先生自ら積載車を運転して回収してきた。その後、部員たちでレストア作業に入り、エンジン、ブレーキ、ラジエーター、燃料タンクなどの修理と整備、さらに外装塗装などと課題は山積しているが、コツコツと着実に作業は進む。町田先生も「佐々木会長の恩に報いるように頑張ります!」と気合を入れている状況である。

クラシックカークラブが創部されたのは2010年。1969年式の北米仕様ダットサン『フェアレディ』2000に乗る町田先生が立ち上げた。当初は学生、職員共にイメージが湧かず部員も集まらない状態で、旧車のイベント見学に行く程度だったという。その後、校内で部室に適したガレージを確保。それまで実習場の片隅に置かれていた車体整備科でレストアした車両を入れ、動態保存を目指しての活動が本格化した。

そして「旧車の整備ができる」「旧車が運転できる」と話題になり、部員数も増え、一時は校内サークルでは最大組織に。学校全体として女子学生が少ない中でも女子部員も在籍した。現在、活動は週1度。部員は約20名おり、毎回参加している学生は10名ほどだ。もともとクルマ好きの学生が集まる学校の中でも、旧車好きはもちろん整備の授業以外でもさらに突っ込んで整備を学びたいという学生たちだ。

進路先は、新車ディーラーが多く、そこで技術を高めてから旧車関係の分野に進む学生もいるのだとか。中には外車のクラシックカー専門店に就職した例もある。この春トヨタ系の会社に入社が決まっている宮川部長は「このクラブが好き過ぎて卒業したくない」と苦笑しつつ「給料をもらったら旧車を買おうと思ってます」と応えてくれた。

こうした活動を指導する先生方は当然プロフェッショナルな人材ばかり。主にエンジンを担当する顧問の町田先生のほか、1級自動車整備士資格を持ち電気系統に強い先生、車体整備士の資格を持つ先生、部品で無いものは作ってしまうという工作技術に長けた先生など、多士済々である。

創部から今年で15年になった。「私の趣味がベースで始まったサークル。ブームもあって旧車に興味を持つ人が増え、本校にクラシックカークラブがあるから入学したという話を聞くと嬉しく思います。手だけでなく顔まで汚して整備している学生に青春を感じ、学生と共に活動することが私の生活の中の楽しみです」と、町田先生は感慨深そう。

「ディトリビュータのポイントを開閉してプラグに火が飛ぶ様子が分かる、キャブレターの中にはガソリンが見える、エンジンが掛からないときは手のひらでキャブレターを塞ぐとエンジンが掛かる、押し掛けでエンジンを掛けるなど、昭和時代の整備が現代の学生にとっては新鮮で感動材料になっています」

この日はテストコースでの周回やサニーのレストア作業を進めたほか、ヴィヴィオの整備なども行われた。そのシフトリンケージのブッシュ交換などはあっという間。部員同士の連係プレーもスムーズだ。

この時期、3月に実施される整備士国家試験対策補習があり、各サークルの活動は少なくなる。しかしクラシックカークラブではクルマを生き物として捉え、定期的にエンジンに火を入れるなど活動はできる限り続けているという。当の学生たちも嬉々としてガレージに集まってくるのだった。

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