インバウンド向けに非対面でのレンタカーサービス『JCOレンタル』を起業した佐々木亮さん。撮影:会田肇

インバウンド(訪日外国人)向けに非対面でレンタカーが借りられるサービス『JCOレンタル(JCO Rental)』を、千葉市内のスタートアップ企業である株式会社 Strive Trading(ストライブトレーディング)が4月20日より開始した。本サービスの狙いはどこにあるのか、またサービスを始めるきっかけについて、同社の佐々木亮社長に話を聞いた。

◆サービスの目的は外国人のレンタカーを借りるハードルを下げること
海外の旅行先や出張先でレンタカーを借りようとする時、クルマを受け取るまでの手続きが思いの外、手間がかかった経験はないだろうか。一般的にはカウンターに向かい、そこでモータープールへ案内されて移動。モータープールで借りる手続きを経て車両をチェックし終えるとようやく受け取れる。この一連の作業で1時間以上かかることも珍しくないのだ。

じつは佐々木さんも、前職で日本で作られた雑貨を海外へ販売をする仕事をするうえで、レンタカーを借りる時のストレスを実感していた。

佐々木さんは、「都市部なら、今どきアプリですべてが完結するウーバーなどのサービスがほとんどの街であるので、問題はないのです。ところがその国の地方に出張する時などにレンタカーを利用しようとすると、やたら手続きが多くて結構な時間がかかってしまいます。きっと日本に訪れる外国人も立場は同じはず。訪日外国人向けにレンタカーの貸出を簡単にしたらいいんじゃないか。そう考えるようになったのが、この事業を始めるきっかけになりました」と話す。

では、非対面でレンタカーが借りられる『JCOレンタル』はどんなものなのか。ポイントは大きく3つある。

一つは、予約や滞在期間をwebで申し込んだあとに、LINEやWhatsAppのメッセンジャー上で、来日する前に手続きが終了できることだ。言語は英語や中国語、韓国語などに対応し、チャットで運転免許証やパスポート、顔の写真などを送ってもらう。これにより、来日前にレンタカーが借りられるかどうかまでのチェックを済ますことができる。webの予約システムだけでなく対人によるチャットサービスにより不安面を解消しスムーズにクルマが借りられるわけだ。

二つめは、車両の解錠にはスマホのアプリを使った「バーチャルキー」を活用していることにある。そのため、リアルキーの受け渡しは不要となり、利用者は日本に到着後、指定された駐車場へ向かってスマートフォンの専用アプリを使ってクルマのドアを解錠できる。その後はスタートボタンを押してエンジンをスタートさせるだけだ。

三つ目は、レンタカーを借りている間も、バイリンガルのオペレータによるチャットおよびコールセンターの24時間サポートが受けられることだ。日本の習慣に不慣れな外国人にとって、トラブルが発生した際の対応は何かと不安がつきまとう。万一事故が発生した時の対応では、警察や消防への連絡すらままならないこともあるだろう。そんな中で母国語でいつでもサポートが受けられる。

つまり国外からの予約から、空港での貸出および返却までを、すべてスマホでのチャットやコールセンターがサポートするので、その場限りの対人受付が不要となるわけだ。非対面ではあるけれど、訪日ドライバーにとってはワンストップのフルサポートが寄り添ってくれる、安心でスピーディなサービス体系である。

借りられる車両は、トヨタ自動車のミニバン『ノア』を5台用意した。レンタル料金は1日あたり2万4000円を予定し、その他、必要に応じて『プリウスα』などを同2万円で貸し出す準備も整えているそうだ。また、対象とするインバウンドは、免許証の関係も踏まえ、米国や台湾、韓国、香港を想定。それ以外のエリアに対しては需要動向を見ながら対応していくことにしているが、これで「インバウンド訪日客の96%はカバーできる」という。

◆レンタカー利用でスルーされていた房総半島への訪問にも期待
そして、このサービスにおける副産物は房総半島のど真ん中である成田から、これまで素通りされて東京や横浜、関西方面に流れていた訪日観光客に対して、房総半島の魅力に気づいてもらうことだった。実際に利用者が走行した履歴からどんな場所に訪れたなどを把握できるのも大きな特徴とする。このデータをインバウンドによる観光需要を模索する地方自体と共有することで、新たな観光への道筋を見出すことにつなげることができるのだ。

佐々木さんは「これを千葉県や房総半島の人たち、もしくは茨城県から東北地方の方々と話してみると、非常にポテンシャルがある事業であると、応援してくれる人が多いことに気がついた」とプレゼンした当時を振り返る。

この事業のメリットはそれだけにとどまらない。このデータには急ブレーキの記録も保存されるため、日本のドライバーとは違う訪日ドライバーならではの危険箇所として蓄積できれば、今後増えてゆく日本での運転に不慣れな人にとってもメリットは大きい。これは結果として訪日外国人の交通事故低減にもつながる有効な手段につながっていくだろう。

佐々木さんはこの事業について、「単にレンタカーだけの事業ではなく、データを活用したプラスアルファのサービスとして、生まれた資源をインバウンドに特化した形で整理していきたい」との考えを示した。

この事業計画に反応したのが千葉市だ。千葉市には“優れた事業を展開するスタートアップ企業の事業拡大や成長を、短期集中型支援プログラムで強力にサポート”する『千葉市アクセラレーションプログラム(C-CAP)』が用意されている。これに本事業が採択されたことで「日本政策金融公庫と千葉銀行からの総額1490万円の協調融資につながった」(佐々木さん)のだ。スタートアップが事業を始める際は資金調達に苦しむことが多いが、Strive Tradingの場合はこの後押しによってスムーズな事業計画が立てられたという。

千葉県とって空の玄関口である成田空港を抱えながら、訪れた外国人が向かう県内の施設といえば浦安のテーマパークか、せいぜい成田山新勝寺ぐらい。これはインバウンドが利用する交通機関が電車である状況を踏まえるとやむを得ないことでもあった。それがレンタカーならその行動範囲は広がり、今までスルーされていた千葉市だけでなく房総半島方面にも目を向けてもらえるチャンスにつながっていく。その利便性向上は大きなメリットをもたらすと受け止められたのだ。

◆ターゲットは“スマホネイティブ”な若い世代が中心
一方で、インバウンドで訪れた外国人にとって、スマートフォンやバーチャルキーによってレンタカーを借りることへの不安はないのだろうか。

佐々木さんによれば、これを検証するための実証実験を2回ほど行っているそうだ。それによると「1回目は日本在住歴が長い台湾の50代女性にお願いすると、スマホでLINEは使っているものの、LINEの中にチャットボットを入れて予約する流れが上手く使いこなせなかった。一方で2回目の実証実験に参加した日本語がほとんど話せない30代の中国籍の方では、そのあたりが上手く使いこなせた。この結果から“スマホネイティブ”な世代に相性が良いサービスであることを実感した」という。

サービスを展開するには認知度を高めることも重要だ。佐々木さんによれば、まずは台湾で広告を展開することになっていて、予約は基本的にWebからの申込みを想定している。そこには、予約を事前に済ましておけばカウンターに立ち寄らずにクルマが借りられることや、スマホのアプリを使ってクルマのドアを解錠できることが記載してあるそうだ。

また、クルマを借りてからのサポートセンターとのやり取りは基本的にLINEかWhatsAppで行うことになっているが、すべてが母国語で行え、24時間いつでも対応可能であることを特徴としている。特に文字上でやり取りができるので、内容も確認しやすいのも使いやすさを感じる部分だ。そして、ここでは様々な質問に答えられるだけでなく、トラブル発生などにも応じることにしており、特にこの母国語で行えることへの評価はかなり高いという。

また、貸し出しについては時間貸しは想定しておらず、1日以上の1泊2日からの貸し出しを考え、そこには車両の回送や清掃に必要な時間も考慮していく。佐々木さんは「イメージとしてはレンタカーとカーシェアの中間ぐらいのサービスを想定している」と説明。

まずは成田空港からスタートする『JCOレンタル』だが、今後は羽田空港や関西国際空港などにも対象エリアを広げていく計画。佐々木さんによれば、観光地が近いショッピングモールなどにも展開することも考えている最中だという。円安によってインバウンドは今後も好調を維持するのは間違いない。そういった状況下で訪日外国人の利便性向上にとどまらず、日本全国の観光地へくまなく訪問する状況を作り出せるサービスとして注目していきたいと思う。

LINEやWhatsAppのチャットでのサポートはコールセンターよりも敷居が低くスマホ世代には好評だ 多くのレンタカー業者がひしめく成田空港だが、この視点はとてもユニークである。 『JCOレンタル』のWebサイトのトップページ 言語を選ぶところからJCO Rentalは開始する 『JCOレンタル』のWebサイト。ここに記入して申込みを終了する 千葉銀行、千葉市、そして日本政策金融公庫が応援する座組ができたのは、房総半島にインバウンド客を増やす可能性に期待が集まった。