自動車の生産ライン《写真撮影 山田清志》

2023年は卯年だが、卯年は相場の格言によると「跳ねる」である。つまり大きな跳躍が期待できるということだ。実際に過去6回の卯年相場を見ると、うち4回で株価が大きく上昇している。

例えば、1951年はなんと61%も上昇し、1999年についても、バブル崩壊後の「失われた20年」のど真ん中にあったにもかかわらず、32%も上昇した。1975年と1987年も13〜15%の上昇となっていて、卯年はまさしく「跳ねる」という格言通りだったと言えるだろう。

ちなみに2022年は寅年だったが、相場の格言は「千里を走る」。この千里を走るとは、政治や経済で波乱が起こりやすいということだが、確かに格言通りに22年はロシアによるウクライナ侵攻が起こり、エネルギー価格をはじめとした物価が高騰し、世界的な金利の急上昇を招いた。また、中国のロックダウンや半導体不足によって、サプライチェーンが混乱して多くの工場が生産停止に追い込まれた。

「昨年は、新型コロナウイルスについては世界各国で行動規制の緩和が見られた一方、出口の見えないロシア・ウクライナ情勢や、エネルギー価格の上昇、急激な円安による原材料価格の高騰、かつてない水準でのインフレ、そして、これを抑制するための急激な金利上昇、将来の景気後退懸念など、当社を取り巻く環境の不確実性は増している」と三菱自動車の加藤隆雄社長は2023年の年頭所感で述べているが、他の自動車メーカーの経営者も同様な思いだろう。

ただ、業績については、円安のメリットと品不足による台当たりの収益性改善で、乗用車メーカー7社の2022年度上期の売上高は全社が大幅な増収で、営業利益についてもトヨタ自動車以外は増益だった。そのため、2022年度の通期業績予想を上方修正する企業が続出した。

◆世界のEV化の流れがさらに加速
そんな中、新たなモビリティ社会の実現に向けて、新しい動きも出てきた。昨年9月に、日本経済団体連合会の十倉雅和会長、日本自動車工業会の豊田章男会長、日本自動車部品工業会の有馬浩二会長を3委員長とする「モビリティ委員会」が始動した。

これは、GX(グリーン・トランスフォーメーション)やDX(デジタル・トランスフォーメーション)、CASE、カーボンニュートラルの実現といった100年に一度と言われる大変革期の諸課題に取り組み、日本のモビリティ産業の国際競争力強化を図ろうというものだ。11月初旬には、岸田文雄総理および関係閣僚との「モビリティに関する懇談会」も開催された。文字通り、政官財が連携して新たなモビリティ社会を実現しようというわけだ。

2023年はその具体的な動きが加速すると思われる。特にGXやカーボンニュートラルについて、日本は欧州などから取り組みが遅れていると見られており、何か施策を打ち出さざるを得ないと言っていいだろう。それに合わせて、自動車各社もEV化を前倒しするような動きが相次ぐはずだ。

なにしろEVシフトは世界の大きな流れになっているからだ。欧州では、昨年6月に「2035年までにすべての新車をゼロエミッション化する」という世界に先駆けた方針を打ち出した。そして10月には、欧州連合(EU)理事会と欧州議会で、この方針を盛り込んだ「自動車の二酸化炭素排出基準に関する規則の改正案」が暫定合意された。

しかも、この改正案には、30年に21年比で新車の二酸化炭素排出量を55%削減するという内容も盛り込まれた。これによって、自動車メーカーは欧州市場において、より早急なEV化対応が求められることになる。

また、米国でも、カリフォルニア州が35年までにすべての新車について、EVなど温暖化ガスを出さないゼロエミッション車(ZEV)にする規制案を決めた。これには日本メーカが強いハイブリッド車(HV)は含まれず、同様な動きが他の州にも広がる可能性が高い。

さらにアジアでもEV化が加速している。例えば、インドではタタ自動車が低価格EVを武器に販売を伸ばしている。話によると『ティアゴ』は、10月の予約開始の初日だけで1万台を超える注文が殺到し、11月下旬までに2万台を超えたそうだ。東南アジアでは、BYDや奇瑞汽車などの中国勢がEV車で攻勢をかけており、特にインドネシアでは奇瑞汽車が生産能力20万台規模のEV工場を現地に建設し、23年後半にもEVは販売する計画だという。

ここまで世界のEV化の流れが加速すると、EV化への取り組みの遅れは大きなリスクとなり、世界から取り残される可能性が高いだろう。それだけに、EVで重要な電池の調達を含めて、23年の日本メーカーの動向には要注目だ。

◆自動車用の半導体不足は継続
部品の調達で言えば、2022年に大きな問題となったのが半導体不足だ。トヨタ自動車は11月の決算会見で、22年度通期の世界生産見通しについて、半導体不足により970万台から920万台に下方修正した。10〜12月の世界生産台数についても、平均月85万台程度と当初計画していたが、実際には10月約75万台、11月約80万台、12月約75万台だったようだ。

また、ホンダも半導体不足の影響で、4〜9月グローバル販売が前年同期を下回り、特に米国での販売台数は前年同期比44.5%減と大幅に落ち込んだ。竹内弘平副社長は22年度の販売見通しについて「需要は堅調に推移するものの、半導体の供給不足による影響などにより、前回見通しを下方修正した」と話し、「特定の半導体がまだ不足している」とこぼしていた。

自動車の半導体については、23年も引き続きタイトな状況が続きそうで、各社の幹部からはこんな声が聞かれた。

「半導体リスクは続き、いつ解消するのかわからない」(トヨタ自動車調達本部の熊谷和生本部長)
「半導体については楽観できない。特に車載の半導体は厳しい。来期の上半期まで続くのではないか」(日立製作所の河村芳彦副社長)
「パワー半導体やアナログ半導体は自動車関係を中心に旺盛な需要が続き、特にアナログ半導体については不足感がある」(ロームの松本功社長)

どうやら世界全体では半導体不足は解消され、供給過剰に向かいつつあるが、自動車用の半導体不足だけが解消しないようだ。半導体メーカーに言わせると、自動車用半導体は種類が非常に多く、しかも1種類ごとの生産規模が小さく、信頼性基準が他の半導体よりも桁違いに厳しいので、割の合わないビジネスになっているのだ。

しかも、自動車メーカーが半導体のサプライチェーンの仕組みを理解せず、コストやリスクを共有しなかったことが、今回の半導体不足の原因だと見ている。半導体メーカーにすれば、他の業界で高い半導体を買ってくれるので、わざわざ自動車用の安い半導体をつくるメリットはないということなのだろう。自動車メーカーが半導体業界にとって最重要顧客とは言いがたい状況が続く中では、何か思い切った対策を打っていく必要がありそうだ。

EVシフトや自動運転の進化により、駆動用のモーターを動かす高電圧・大電流の電気を制御するパワー半導体、自動運転を可能にする高度な演算を高速で処理するロジック半導体、車外情報を取り込むセンサーの情報をデジタル信号に変換するアナログ半導体など多くの半導体が搭載される。自動車にとっての半導体の重要性は、今後さらに高まるのは間違いない。

いずれにしても、EV化への積極的な取り組み、そして半導体不足の解消、この2つをできた自動車メーカーが、卯年の2023年に格言通り“跳ねる”ことができ、その後も発展することができるだろう。

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