トヨタGR010が1-2フィニッシュを達成。《Photo by TOYOTA》

世界耐久選手権(WEC)第2戦の決勝レースが現地13日、ポルトガルのアルガルベ国際サーキットで実施され、「トヨタGR010 HYBRID」8号車の中嶋一貴組が開幕2連勝を飾った。小林可夢偉組が2位に続き、トヨタGR010は初の1-2フィニッシュを達成している。

WECポルトガル戦の舞台は、ポルティマオ近郊のアルガルベ国際サーキット。ここ2年、F1ポルトガルGPも開催しているコースだ。決勝レースの時間設定は開幕戦スパ・フランコルシャンより2時間長い8時間である。

今季からの新たな最高峰クラス「ハイパーカー・クラス」に今回、新顔が登場した。グリッケンハウス・レーシングの「グリッケンハウス 007 LMH」が1台参戦し、LMH(ルマン・ハイパーカー)規定のマシンとしては「トヨタGR010 HYBRID」に続くWEC実戦登場となっている(グリッケンハウス 007 LMHはノンハイブリッド)。

トヨタ2台、旧LMP1規定ノンハイブリッド車で参戦しているアルピーヌ1台、そしてグリッケンハウス1台が加わり、今回のハイパーカー・クラスは開幕戦より「1増」の出走4台となった(グリッケンハウス参戦により、各車のBoP=バランス・オブ・パフォーマンス、いわゆる性能調整措置には“継続的変更”が出ているという)。

ハイパーカー、LMP2、LMGTE-Pro、LMGTE-Amの各クラスをあわせた今回の総出走台数は32台。

予選では#36 アルピーヌA480-ギブソン(A. ネグラオ / N. ラピエール / M. バキシビエール)がポールポジションを獲得し、僅差の2-3位にトヨタ勢が#8 トヨタGR010(中嶋一貴 / S. ブエミ / B. ハートレー)、#7 トヨタGR010(小林可夢偉 / M. コンウェイ / J-M. ロペス)の順で続いた。#709 グリッケンハウス 007 LMH(R. ブリスコー / R. デュマ / R. ウエストブルック)は予選総合11位。

#709 グリッケンハウスはやはり、トヨタ、アルピーヌとはまだ同じ土俵にいるとはいえない。決勝でも接触アクシデントなどを経つつの展開となり、他のハイパーカー・クラスが最終的に300周するところを246周しかできなかった。だが、スタート8時間後のチェッカーフラッグを受け、全体最下位の30位ながら完走順位認定も得ている。2台に増えるという展望もあるグリッケンハウス、今後の躍進とそれによる戦線活性化に期待したい存在だ。

ドライの8時間戦、アルピーヌ1台とトヨタ2台の最前線バトルは、航続距離が短い#36 アルピーヌの方がルーティンピットストップの時期が先、やがて回数的にトヨタ勢より多くなる、という、見た目には正確な戦況が把握しにくい前提条件のもとで進んでいった。レース前半はアクシデント要素の多くない流れでもあったのだが、残り2時間45分頃にセーフティカー(SC)導入があり、残り約2時間30分でのSC退去時には3台が4秒以内に近接した位置関係での戦闘再開となる。

この段階でトヨタ勢の2台は5回のピットストップを終えており、#36 アルピーヌは6回のそれを終えていた。残り2時間15分頃に#36 アルピーヌが7回目のピットストップを敢行、#36 アルピーヌはあと2回のピットが予想される。

#7 トヨタは残り2時間1分というところで6回目のピットストップをし、#8 トヨタは少し遅れて残り1時間58分頃に同じく6回目のピットストップをこなした。トヨタ勢はあと1回のピットで(燃費的に)ゴールまでいけるのかどうか、実に微妙に思えるタイミングであった。優勝争いは緊迫の度を強める。

#36 アルピーヌが僅差首位の状況から8回目の、残り2回のうちの1回目となるピットストップをしたのは残り1時間28分の頃合い。そして残り1時間5分というところで、#7 トヨタが7回目のピットストップへ。#8 トヨタは残り55分まで引っ張ってから7回目へ。この時点で#36アルピーヌは残りピット1回が確定的。トヨタ勢の方は、#7はあと1回の給油が必要そうだが、#8はこのままゴールまでいけそうか。

残り約39分、#36 アルピーヌがトップ差約15秒の3番手から最後の(9回目の)ピットストップへ。これで1-2のトヨタ勢とは1分以上の差になった。

残り約29分、フルコースイエロー(FCY)が発動される。これはアクシデント等の際に各車が定められた速度でゆっくり走ることになる措置で、SCのように各車の差が変動することは基本的にない。だが、ロスタイム少なめにピットに入れるタイミングであり、ここで首位の#7 トヨタが8回目のピットストップ、最後の給油へと動いた。2番手の#8 トヨタはステイアウト(8回目のピットストップをせず)。

#8 トヨタがトップになり、#7 トヨタが約4秒差で追う最後の同門優勝争いがFCY明けの残り25分で展開されることとなった(#36 アルピーヌは約1分後方の3番手、ほぼ圏外に去ったと見ていい)。

8時間のレースは残り20分を切って1秒以内のトップ攻防という局面を迎える。残り17分と残り12分に順位入れかわりもあったが、最終的には#8 トヨタ(ブエミ)が1.8秒差で#7 トヨタ(ロペス)を従えてトップチェッカーを受ける。トヨタGR010にとっては初の1-2フィニッシュ達成となった(3位は#36 アルピーヌ)。

優勝した#8 中嶋一貴(トヨタ)のコメント
「非常に接近した戦いで、誰もが勝利を目指し、これ以上ないほど全力で走り続けました。1-2フィニッシュを成し遂げた8号車と7号車の両チームを祝福します。そして、こんな大変なレースで勝てるのは本当に最高の気分ですね。タイトル争いについて語るのはまだ早いですが、少しでもポイント差を広げられたのは良いことです。今日のチームの働きと結果には満足しています」

2位の#7 小林可夢偉(トヨタ)のコメント
「自分のスティントは好調で、ペースも良かったです。練習走行で若干苦戦し、決勝でレースペースをつかむための努力をしてきただけに、今日発揮できたスピードには満足しています。我々7号車はチェッカー目前で少しだけ給油をする必要があり、勝利を逃してしまったのは残念ですが、チームは素晴らしい仕事をしてくれました。1-2フィニッシュできたというのは良い結果です」

どうやら、#8 トヨタはレース序盤から燃費セーブの面で僚機に対し少しずつ優位を築いていたらしく、それが活きた勝利のようであった。これで#8 トヨタは開幕2連勝となっている(#7 トヨタは3位-2位)。

LMGTE-Amクラスの日本人選手勢は、木村武史が乗るケッセル・レーシングの#57 フェラーリ488がクラス5位で完走。星野敏、藤井誠暢らのD’station Racing、#777 アストンマーティン・ヴァンテージはリタイアだった。

さて、WEC/ルマン24時間と米国のIMSA/デイトナ24時間の両トップカテゴリー(最高峰クラス)に参戦可能となる新規定「LMDh」を巡る動きが最近あり、BMW(BMW M モータースポーツ)がLMDhのマシンを2023年のIMSA/デイトナ24時間に投入する旨を発表した(WEC/ルマンに関しては触れられていない)。

また、トヨタ(TOYOTA GAZOO Racing WECチーム)は今回のレース後の6月15〜17日にアルガルベで実施予定のテストに、日本のトップシーンで活躍している平川亮を参加させることを発表している(平川は6月19〜20日のスーパーフォーミュラSUGO戦は欠場となり、チームIMPULの代走は高星明誠)。

WECの次戦、第3戦は7月18日決勝の日程で、イタリアのモンツァにて開催予定となっている(6時間戦)。今年は8月に延期開催される予定のルマン24時間(WEC第4戦)が後ろに控えているため、当然ながらモンツァ戦はルマン前哨戦的位置付けのレースになりそうだ。

(*本稿における決勝順位等は、現地時間のレース当日に発行された「Final Classification」に基づく)

優勝した中嶋一貴組の#8 トヨタ。《Photo by TOYOTA》 優勝した#8 トヨタの(左から)ハートレー、ブエミ、中嶋一貴。《Photo by TOYOTA》 1-2を飾ったトヨタ勢。#7 トヨタの面々が2位のトロフィーを掲げる。《Photo by TOYOTA》 #36 アルピーヌがポールポジションからスタート(決勝リザルトは3位)。《Photo by TOYOTA》 優勝した#8 トヨタ。《Photo by TOYOTA》 2位の#7 トヨタ。《Photo by TOYOTA》 WEC初実戦を戦った#709 グリッケンハウス 007 LMH。《Photo by FIA-WEC》