#30 佐藤琢磨は連覇ならず14位(写真はスタート前。琢磨のマシンは向かって左。向かって右にあるのは別選手のマシン)。《Photo by INDYCAR》

エリオ・カストロネベスが史上最多タイとなる通算4勝目をあげた第105回インディ500(現地5月30日決勝)。連覇を狙った佐藤琢磨の陣営は終盤に燃費作戦へと舵を切ったが、展開の利は得られず“作戦不発”、14位という結果だった。

昨年8月に開催された第104回インディ500で、佐藤琢磨(#30 Rahal Letterman Lanigan Racing=RLLR/エンジンはホンダ)は自身通算2度目の制覇を成し遂げた。現所属のRLLRとともにインディ500に勝つのは初めて、もちろん大歓喜の優勝ではあったのだが、惜しむらくは無観客開催であったこと。人数制限付きながらも有観客開催となった今年、“ファンの見守る前では自身4年ぶり”となる勝利を狙って琢磨は戦った。

13万5000人と伝えられる決勝日観衆が見つめた伝統の一戦、第105回インディ500(今季NTTインディカー・シリーズ第6戦)は、大きなアクシデント等あまり多くはない流れで進んでいく。

ただ、それでもやはり波乱はあり、ポールポジション発進で大本命と見られていたスコット・ディクソン(#9 Chip Ganassi Racing/ホンダ)が最初のルーティンピット時期に発生したフルコースコーションの影響を受けた上に、ピットでの“臨時給油”時において大幅タイムロスする状況も重なり、ラップダウンに陥ってしまう(ディクソンはレース後半にトップ同一周回へと復帰、作戦の絡みもあり一時はトップにも立ったが、最終結果17位)。

そんななか、予選15位だった琢磨はこの最初のルーティンピット時期の混乱をうまく乗り切り、ここからトップ10圏内に地歩を固めてレースを進めていく。そして150周目前後、残り約50周の時期にあった(王道作戦の場合の)4回目のルーティンピット時期には、他のドライバーたちよりもタイミングを引っ張り、この日初めてのトップ走行を6周にわたって経験した。

上位の主なメンバーは燃費的に見て残りあと1回のピットストップが必要と考えられる戦況、琢磨もそのなかの1台だった。しかし残り40周を切って少しした頃から、7番手あたりに位置していた琢磨の順位がどんどん下がっていく。トラブル発生かと思うくらいの下がり方だったが、ここで陣営は“燃費作戦”に切りかえ、もうピットストップしないでゴールを目指す方針を採ったのである。

最終盤、予定通りに最終ピットストップを終えたアレックス・パロウ(#10 Chip Ganassi Racing/ホンダ)とエリオ・カストロネベス(#06 Meyer Shank Racing/ホンダ)が“このままなら実質トップと見られる位置”で順位を入れかえながら走り、さらに僅差でパトリシオ・オワード(#5 Arrow McLaren SP/シボレー)が続くあたりを中継カメラはメインにとらえていた。この面々より琢磨は20秒弱ほど前にポジションしている。琢磨のすぐ前には、琢磨と同じ狙いと見られるフェリックス・ローゼンクヴィスト(#7 Arrow McLaren SP/シボレー)がおり、彼が180周目からトップを走っていた。

ここでフルコースコーションが出れば、おそらくローゼンクヴィストと琢磨に有利に作用しただろう。しかし、それは起きなかった。“エコラン勢”は限界を迎え、ローゼンクヴィストが193周目にピットへ。ここで琢磨は再び首位に浮上したが、翌194周目にやはりピットへ。作戦は奏功せず、琢磨は14位でのチェッカーになる。連覇の夢は叶わなかった。通算3勝目は2022年以降にお預けとなっている。

#30 佐藤琢磨のコメント
「今日のインディアナポリス・モーター・スピードウェイには本当に信じられない雰囲気が満ちていました。以前のインディ500に戻ったと感じました。ただ、レースは厳しいものになりましたね。最終盤を燃費作戦で戦うという決断は苦しいものでした。奇跡的なタイミングでフルコースコーションが出されることでしか勝機はなく、実際にレース展開はそうなりませんでした」

「あの(作戦変更の)決断がなされる前、自分のポジションは6、7番手でエリオ(カストロネベス=優勝者)たちのすぐ後ろにつけていたんです。チームは本当に一生懸命、勝利を実現するべく(作戦変更を考えて)頑張りましたが、今日は勝利を達成することができませんでした。とてもガッカリしています。でも、ここからまた何かを学び、前へと進むのみです」

コクピットの琢磨としては、カストロネベスらに近い作戦をキープしたまま勝利を狙いたかった、というところもあったようだが、チームは作戦を大きく変えることに勝機を見出そうとした、そんな局面だったのだろう。しかし今回、勝利の女神は微笑まなかった。あらためてインディ500で勝つことの難しさ、偉大さを証明するかたちになった、といえるかもしれない。戦前に琢磨が語っていたように、連覇のハードルは高かった。

勝ったのはカストロネベス(予選8位)。琢磨が2017年にインディ500を初制覇したときに最後のライバルとなったドライバーで、琢磨より2歳年長の46歳、大ベテランである。パロウ、オワードといった今季のシリーズ戦でインディカー初優勝を飾ったばかりの若手との争いを制して、カストロネベスは自身通算4度目のインディ500制覇を成し遂げた(最終結果は2位パロウ、4位オワード。3位にはシモン・パジェノー=#22 Team Penske/シボレーが入っている)。

かつては名門ペンスキー(Penske)の主戦ドライバーとして長く活躍したカストロネベスも今はシリーズにレギュラー参戦しているわけではなく、今回のインディ500はMeyer Shank Racingからのスポット参戦。Meyer Shank Racingにとってはインディ500初制覇、シリーズ戦初優勝とのことである。カストロネベスにとっては2001、02、09年に続く4回目の制覇で、歴代最多タイ記録に並ぶこととなった(過去の4勝達成者はA.J.フォイト、アル・アンサー、リック・メアーズの3人)。

カストロネベスは「ホンダは素晴らしい。私は以前にも3年間、HPD(Honda Performance Development)とともに仕事をした。今年、久しぶりにホンダと一緒に仕事をすることになったのだが、プラクティスからの共同作業は本当にうまくいったよ。HPDのエンジニアたちは、とても長い時間を私のために使い、話を聞いてくれた。それが勝つために必要なことなんだ」と、ホンダや陣営への謝意をコメントしている。

また、「これで終わりじゃない。始まりなんだ」ともカストロネベスは語っており、先日の男子ゴルフ・メジャー大会「全米プロ選手権」(PGAチャンピオンシップ)を50歳で制したフィル・ミケルソンら他競技におけるベテランの活躍も引き合いに出した談話を残している。どうやら、前人未到、単独の史上最多記録となるインディ500通算5勝目を目指す意欲は満々のようだ。

優勝直後には金網フェンスを登るパフォーマンスで「スパイダーマン」の愛称もあるエリオ・カストロネベス。それを披露し、会場を興奮のるつぼにしてもいた。敗れた琢磨も「エリオの優勝を大いに讃えたいと思います。インディ500で4回も優勝するなんて、彼は生きる伝説です。驚くべき偉業です」と、ライバルに最大級の賛辞を贈っている。

今年のインディ500は幕を閉じたが、NTTインディカー・シリーズの今季の戦いはまだまだ続く。次なる大会は「シボレー・デトロイト・グランプリ」、第7&8戦の市街地ダブルヘッダーだ。現地6月12日と13日に決勝レースが開催される予定となっている。

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