CODE-X《写真撮影  内田俊一》

BASFは3年から5年先の自動車に関するカラートレンドを毎年発表している。今回のテーマは“CODE-X”であるとし、穏やかなトーンでありながら、すごく複雑で中間的な色相とテクスチャーが中心になっていくという。

◆写本のフォーマットがいまに続く基準となるように

今年のテーマについて、BASFアジア・パシフィックデザイン責任者の松原千春さんは、「もともとコーデックスという単語がある。これは写本を意味しており、昔印刷がない頃は本を書き写し、それを糸で綴じて本の形にしていた。そのフォーマットは当時から左綴じや右綴じなどいまに続く基準になっている。それを踏まえ、これから変化していく基準になるものや、変化を加速していくような基準になるものを変数である“X”とし、CODE-Xとした」とその意味合いを説明。

昨年のテーマは“ACT/9”。「前向きに変わっていくアクションを取っていくというトレンドを紹介した。コロナ禍の前に分析をしたが、(コロナ禍になっても)その傾向は継続している」と継続性を強調。しかし、「コロナ禍の前であっても環境問題や天災も起きており、またデジタル化もどんどん加速していることから、人々は疲れて来てもいる。そこでトレンドとしては穏やかな方向の色、中間色が主流になるだろう」と分析。「色合い、色調、エフェクト、テクスチャー、いずれにおいても中間色がメインになる」と予測していた。

その一方でコロナ禍によって気づかされたこともあるという。例えば、「毎日会社に行って働いていたが、現在はリモートワークが推進されていたり、お客様とのミーティングもリモートになるなど、新しいやり方が導入されている。こういった新たなやり方や、時間をより有効活用出来るなどの様々な気づきも与えられた。それを未来の基準として取り入れていくことが出来るようになった」と今回のCODE-Xに繋がっていることを説明。

そこでカラーにおいても、「(見た目は)すごく穏やかなトーンではあるが、すごく複雑で、中間的な色相とテクスチャーをバランス良く保っているカラーがメイン」と話す。それと同時に、「いままで我々がしてきたこと、常識が通用しなくなってきている」ともいう。

例えば、「環境問題でも私たちがしてきたことが悪いことだったので、直さなくてはいけない。そういった考えを踏まえ、いくつかの色にはいままでにない、すごく不思議な色や、ありえなかった色のテクスチャーもある」と述べる。これは、「我々がいままで持っていた常識や考え方を払拭し、全く新しい、枠を外した考え方、生き方などのトレンドを反映したもの」とし、「自動車の色としての枠や概念を超えた色や、いままでであれば採用しなかったような色もある。そして、滑らかで親しみのある色として、メインはシルキーなテクスチャーが主流だが、アクセントとしては荒いものやザラザラしたようなものもある」と幅広いバリエーションになることが伺えた。

◆サブテーマ、“軸”は様々なテクスチャーのグレー系

CODE-Xという大きなテーマの中に、3つのサブテーマが置かれた。そのひとつはソサエティ&インタラクション・コミュニケーションで、“軸”と訳された。カラーとしては、色々なテクスチャーのグレーが多い傾向にある。

「緻密な表現が主流だが、粗いものやちょっとスモーキーなものもある。それからハイライトでは僅かにゴールドが感じられる落ち着いたトーンなどが見られる」と松原さん。このような、「かなり色味のついたグレー系のものが中心であると同時に、中間的なブルーグリーンやパープルといった少し強い色があるのは、社会を変えていくエネルギーと、新しい変化をイメージ。 “大容量のデータ”という名前のカラーは、データはすごく大事で貴重なもの。貴重なもの=ゴールドというイメージで、大容量とビッグデータは金にも勝る価値があるというネーミングだ。そういった枠を超えたこれからの新しい概念の色も含んでいる」と説明。

◆サブテーマ、“影響力”のカラーは柔らかく軽いもの

もうひとつはインディビジュアリティ&アイデンティティ、“影響力”だ。「特に若者とシニアを中心に“いまを生きる”傾向が高まる」と予測。「年齢や人の目を気にせず、やりたいことに挑戦し、自由に生きている。その行動力、影響力こそが新しいアイデンティティの定義になっていく」ことをもとに提案。

松原さんは、「いままで個性というと持ち物や、自動車などで表現していたが、人に与える影響力というところまで個性の定義が拡大するイメージだ」とし、例えば、「日本では、山を買ってソロキャンプをする人や、あまり人がいないところでキャンプしたいという人が増えている。人に見せるのではなく、自分がその空間や、体験を楽しみたい。そういったライフスタイルを見て、私もと影響が生まれてひとつのトレンドになっていく」と説明。

カラーとしては、柔らかく軽い印象で、色合いや衣装により、自分にとっての心地良いスタイルを表現しており、「ベージュ系の温かみのあるところやソリッド調のようなテクスチャー。また少しザラザラした感覚的なところも取り入れたカラーなど、割とリラックスしながら自分らしく生きていくイメージを表現。しかし、個性もきちんと持っているので少しキラキラしたり、オフホワイトのようなライトブルーでも、赤い反射が出るものもある」とのことだ。

◆サブテーマ、“複合”はブルーのバリエーション

最後はプログセス&イノベーション、“複合”と名付けられた。物理的な世界とデジタル世界の融合がますます深まり、私たちの生活に浸透していく。高度で複雑な技術や未来の理解出来ないことに不安を感じながらも魅了されていくというものだ。

具体的には、「バーチャルのコンサートやゲームの中に別の社会が出来たり、色々なテクノロジーが融合して全く新しい体験を我々に与えてくれる。そういったところから、今後ますますテクノロジーの融合、そして全く新しい体験を生み出してくれるというイメージ」と松原さん。

カラーは「多くのブルーのバリエーションが出ており、トーン、質感、色相いずれも中間色」という。「ソリッドから、マットカラーのネイビー、ソリッド調でハイライトはメタリック。またニュアンスがあって少し色が変化するグレイッシュブルーなどバリエーションがすごく多い」と話す。また、「ダークグレーから黒系の様々な表現も中心になる。ガラスフレークでグリーンのキラキラが出るものや、少しミステリアスで未知のテクノロジーをイメージするカラーが中心になっている」とのことだ。

◆アジアパシフィックはライフスタイルを楽しむカラー

こういった考え方やカラーを踏まえ、アジア太平洋、欧州、北米各地域それぞれにおいてキーカラーが提案された。アジアパシフィックは、“ソーシャルカモフラージュ”。「グリーン系なのだが、少しニュアンスがあり、陰ったところでは少しブルー味の方向に振れたり、角度によってはすごくスモーキーに見えたりする」と説明。

このカラーは、「若い人たちが特にデジタルを取り入れることで、フレキシブルで浮遊したようなライフスタイルが可能になってきた。例えばワーケーションという言葉があるようにリゾート地で仕事をしながら、レジャーを楽しむようなスタイルなど、様々なシステムやサービスもそれに合わせて現れ、選択の幅が出来、様々な経験や体験をしながら暮らすことが可能になった。そのような選択肢と自由度があるライフスタイルを楽しむような若者のイメージでデザインした」という。

今回色相としては、「あえて何色がトレンドになるということはいわないようにしている」と松原さん。「特定の色相を発信するよりも、中間色のムードというほうが今回は重要だと思った」とのこと。もちろん色は何でもいいというわけではなく、「グレー系とブルー系が重要なのはグローバルでも継続。しかし、全体の穏やかなトーンで曖昧な中間色が重要で、それが一番これから近未来の状況を示しているというほうが大事だというメッセージ」とコメントした。

また、「特に日本ではグリーン系も少し伸びてきているので、その辺りももちろん考慮して作っている。しかし、グリーンといえばナチュラル、自然の色ではあるが、そこに少し手を加えた感も表現している」とのこと。

さらに今回の全体のトレンドとしては、「地に足のついた前向きさなので穏やかなトーンだ。すごく浮かれた前向きさ、強いエネルギッシュな前向きさではなく、人それぞれのペースにあった、自分なりの前向きさということで、穏やかなトーンがメインになっている」と述べた。

またアジアパシフィックとしてあとふたつキーカラーがある。ひとつはドリームファイターという名前がつけられ、「オレンジ、カッパーのような少し穏やかなトーンで、ビビットではない。名前もドリームファイターと、自分に合った気持ちいいやり方で、プレッシャーを感じることなく自分のペースで自分の好きなことを挑戦していくイメージを表現している」。

もうひとつはグレーだが、“アンノウンメタル”と名付けられた。僅かにパープリッシュに表現されており、キラキラとしたアルミ感、メタリック感を表している。「普通のグレーよりはもう少しキャラクター性が強く、割とパープルの色味をつけた個性的な色。アンノウンメタルということで、未知の金属、これから何が起こるかわからない未来で、不安もありながらもそういう未知のものには魅力もあるイメージ。無彩色の枠を取り払い、無彩色の定義を拡張してもっと幅広いものを無彩色、中間色、グレーイッシュのものも含まれていくような感じで、いままでのグレーではなく、個性的なグレーももう少し出てくるだろう」と述べた。

◆欧州は新たなベージュ系

欧州からはベージュ系が多く提案。「伝統的に自動車の色として珍しい色ではないが、それをあえてテクスチャーと色合いとのバランスで、いままであまりなかった方向のテーマに取り組んだ」と松原さん。

ベージュの色域をどのように新たに作り直すかという点において、「ベージュといえばちょっと高級でラグジュアリーなイメージの自動車のカラーとしては定番だが、それをあえて新しいベージュとはどういうものなのか、そこに取り組んだ」という。

そこで、「ソリッド調、少しくどいぐらい色が下がった爽やかではないベージュや、光が当たるとハイライトにゴールドの粒子感がキラキラと輝くようなカラーなど、これまであるベージュの概念の枠を外して強いゴールドの輝き、ちょっと風変わりな不思議な感じを持たせるなど、いままでにないようなベージュにトライをしている」と説明。これは、「これまでの常識にとらわれず我々も新しい概念を色に限らず受け入れ、取り組んでいかなければならないというコンセプトを背景にしている」と話す。

その一例として、「機内アナウンスで、これまでであればレディースアンドジェントルマンズだったものから、性別が明確になるようなアナウンスはもうやめようとなった。つまりいままでの考え方が変化し、それが加速していくことから、色としても定番色であっても全く違う表現とがコンセプトになっていく」と語る。

◆北米は教会を押し広げるグレー系

北米のキーカラーはグレー系で“ダークセルツァー”。「ハイライトで少し赤みが見え、陰ったところでは少しスモーキー。ハイライトでの粒子感や、シェードでは少しソリッドっぽくなるなど、表情豊かなグレーで、いままでのグレーの無彩色の概念からは外れたもの」とし、「炭酸水のように少し泡がブクブクと出たようなイメージ。ハイライトはキラキラとして赤い粒子感が輝くことで、境界を押し広げるイメージだ。そして、グレー系の無彩色の概念の枠を取り払い、色としてはグレーなのだが粗く、ハイライトには赤みが出る二面性を持っている。テクスチャーにおいてもキラキラするが、シェードは少しスモーキーでソリッド感のあるような二面性を表現している。これは個性的なグレーの表現で、いままでの保守的なイメージの白黒グレーみたいなところを払拭し、新しい常識に取り組もうと、色もそのように表現していくという提案だ」と説明した。

アジア太平洋_Social Camouflageソーシャルカモフラージュ《写真提供  BASF》 EMEA_Pundits Solutionパンディッツ ソリューション《写真提供  BASF》 北米_Dark Seltzerダーク セルツァー《写真提供  BASF》 アジア太平洋地域 キーカラー《写真提供  BASF》 ソサエティ&インタラクション・コミュニケーション、“軸”《写真撮影  内田俊一》 インディビジュアリティ&アイデンティティ、“影響力”《写真撮影  内田俊一》 プログセス&イノベーション、“複合”《写真撮影  内田俊一》 BASFアジア・パシフィックデザイン責任者の松原千春さん《写真撮影  内田俊一》 大容量のデータ《写真撮影  内田俊一》 [カラートレンド予測]BASF…新たな基準が生まれてくるタイミング 2020-21年《写真撮影  内田俊一》