進行方向に照射エリアを拡大、縮小、変形させる≪photo by Audi≫

自動車の灯火(ヘッドライト)は、カーバイトから始まり、電球・シールドビーム電球、ハロゲンヘッドライト、HID(キセノンランプ)へと進化し、現在はLEDが車両内外装の照明・灯火に広がっている。

ハロゲンランプそのものは1960年代には実用化されていたが、車のヘッドライトとして普及し始めたのは1980年代だろう。90年代にはHIDやHIDを利用したプロジェクターヘッドライトがブームとなる。LEDヘッドライトは、2010年12月にグローバルデビューした日産リーフから市場に広がりだした。ヘッドライトの光源に関しては、アウディがレーザー方式の長距離ハイビームを2014年にR8 LMXに採用している。

LEDがヘッドライトに利用できるようになると、レンズやリフレクターといった配光を制御する方法にも変革をもたらした。ハロゲンやキセノンは、フィラメントの発熱や電極の放電火花が光源の元だが、ランプを構成するガラス電球が必要となる。LEDは小さいチップが面で発光するので、光源の大きさ、形がデザインしやすい。

LEDヘッドランプはチップの形状や配置で配光パターンの自由度を各段に向上させる。単純にはLEDマトリックスで文字や絵を表現するように、配光パターンをマトリックスセルごとのON/OFFで任意の光の形状が作れる。もちろん細かいパターン生成には、プロジェクターの技術を応用した物理的なシャッターや液晶シャッターを利用することもある。

現在、アダプティブヘッドライトと総称されるしくみは、LEDヘッドライトによって実現されている。以前は、機械的にランプやリフレクターの向きを変えて光軸をずらすだけだったものが、カメラ画像やセンサー情報を利用して、自動的にハイビーム/ロービームの切り替えを行ったり、対向車・先行車、歩行者だけを避けた配光を作ったり、進行方向に自動的に配光エリアを広げたりが可能になっている。

アウディは2013年にフルLEDヘッドライトをA3に搭載し、A8にはマトリックスLEDによるアダプティブヘッドライト(ハイビーム)を実用化している。2019年にはデジタルマトリックスLED(DML)のヘッドライトをe-tronおよびe-tronスポーツバックに採用した。DMLはヘッドライトで壁に記号や特定の形状を投影できる(ほとんどプロジェクターである)ほど、プログラマブルかつインテリジェントなヘッドライトだ。

このようなヘッドライトは、これまでのクルマでは見えなかったところ、照射できなかったエリアを見やすくし、安全性を向上させるのはもちろん、周囲に自車の存在を気づかせる、自車の操作や挙動を知らしめる機能もある。一種のコミュニケーション機能といってよいだろう。たとえば、隣車線から自分の車線に配光が広がってきたら車線変更をしようとしている合図にもなる。簡単な文字や記号を路面に投影できれば、横断歩行者に合図やガイダンスを与えることができる。

アウディは2020年にDMLの技術をOLED(有機LED)に応用したライトをQ5に採用した。OLEDを使ったリアコンビは2016年のTT RSで実用化されているが、アウディは、DMLやデジタルOLEDをストップランプやターンシグナルランプ、ヘッドライトの意匠(アイコン)にも利用している。これらは、流れるウインカーやストップランプの点滅パターンにオリジナリティを出したり、ヘッドライト部分のデザインを特徴づけるだけではない。

点灯シーケンスやヘッドライトの意匠を変えることに、メッセージや意味を持たせることができる。ストップランプの点滅パターンで急ブレーキを知せるという応用が考えられる。

OLEDは、半導体チップを使う通常のLEDと違い、極めて薄いフィルムで面発光させることができる。そのため、テールランプ本体を薄く作ることができる。発光素子がフィルム状なので、折り曲げや立体的な形状にも適合しやすい。フェンダーやリアクォーターに回り込むようなデザインも可能で、ターンシグナルの視認性向上にもつながる。

設計の自由度も上がるが、さらにデザインと開発や製造技術との距離も縮める。複雑な形状や限られたスペースでも、ランプやリフレクターを埋め込む位置を気にせず車体設計・製造ラインの構築ができる。

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