トヨタ自動車の豊田章男社長《写真 トヨタ自動車》

トヨタ自動車は5月12日、2019年度の決算会見をオンラインで行った。その中で豊田章男社長は国内生産300万台体制について触れ、改めてそれを死守し続けることの重要性を強調した。

トヨタは1980年代から需要のあるところで生産するという方針で海外生産を加速してきたが、円高になってもこだわり続けてきたことがある。それは国内生産300万台体制を維持するということだ。歴代の社長はそれを事あるごとに強調してきた。

「超円高をはじめ、これまでどんなに経営環境が厳しくなっても、日本にはモノづくりが必要であり、グローバル生産を牽引するために競争力を磨く現場が必要だという信念のもと、石にかじりついて守り抜いてきた」と豊田社長。その裏には膨大なサプライチェーンと、そこで働く人たちの雇用を守り、日本の自動車産業の要素技術とそれを支える技能を持った人を守り抜く必要があったからだ。

「今回のコロナ危機に際し、必要なときに必要なモノが手に入らないというじたいに世界中が直面した。ある方がこの事態を“マスク現象”と言っていたが、マスクのほとんどを国内で調達できなくなっていたということだそうだ。より良いものをより安くつくる。これはモノづくりの基本だが、安くつくることだけを追求してしまうと、このような現象が起こるのではないか」と豊田社長は話し、こう付け加える。

「雇用を犠牲にして、国内でのモノづくりを犠牲にして、いろいろなことを“やめること”によって、個社の業績を回復させる。それが批判されるのではなく、むしろ評価されていることが往々にしてあるような気がしてならない。それは違うと私は思う。企業規模の大小に関係なく、どんなに苦しいときでも、歯を食いしばって、技術や技能を有した人財を守り抜いてきた企業が日本にはたくさんある。そういう企業を応援できる社会が今こそ必要だと思う」

新型コロナウイルスの感染が拡大するなか、多くのものづくり企業が医療用フェイスシールドやガウン、マスクなどの生産に乗り出した。トヨタもすぐに3Dプリンターを使い、医療用のフェイスシールドをつくった。

豊田社長によれば、こうしたことができるのも国内生産300万台体制にこだわり、日本にモノづくりを残してきたからだという。守り続けてきたものは、世の中が困ったときに必要なものをつくることができる、そんな技術と技能を習得した人財だいうわけだ。

そして豊田社長は「人類に乗り越えられない危機はない。コロナ危機を“ともに”乗り越えていくために、私たちがお役に立てることななんでもする覚悟だ」と強調した。

オンライン決算会見の様子《写真 トヨタ自動車》 フェイスシールド《写真 トヨタ自動車》