低偏平のIG60を装着した718ケイマンを駆り総合圧雪路でスラロームを試した《撮影 中野英幸》

横浜ゴムが毎冬開催している恒例のタイヤ勉強会・試乗会に参加した。スタッドレスタイヤの歴史やグリップするメカニズムを復習したほか、日本で発売されて間もないオールシーズンタイヤの詳細を学び、テストコース「TTCH」において、試乗し、体感した。

内容としては、
・オールシーズンタイヤとスタッドレスタイヤの違い
・新品と経年したタイヤの性能の違い
・低偏平スタッドレスタイヤの性能
・トラックバス用タイヤの性能
などだ。

◆雪にも強いオールシーズンタイヤ「BluEarth(ブルーアース)4S AW21」


オールシーズンタイヤ『ブルーアース4S AW21』(以下「AW21」)のコンセプトはズバリ、「雪に強いオールシーズンタイヤ」だ。「4S」は「Four Seasons」を意味する。このところ各メーカーが新しい製品を市場に送り込んでいて、舗装路重視のものから雪上性能重視のものまでいろいろ見受けられるが、AW21は後者となる。

スノー性能とともにウェット性能にも力を入れており、排雪と排水を効率的にこなすべく、主溝から分岐し、あらゆる方向からエッジ量を確保した「V字ダイバージェントグループ」や、交差溝で雪柱せん断力を確保した「クロスグルーブ」、シリカ分散を向上しゴムのしなやかさを維持する末端変性ポリマー、スノーグリップポリマーとウェットグリップポリマーをバランスよく配合した他、ウェット性能を高めるマイクロシリカを配合するなどしている。


屋内の氷盤路と屋外の総合圧雪路で、AW21とスタッドレスタイヤの『アイスガード6』(以下「IG60」)を『プリウス』に履かせて乗り比べたところ、氷盤路で20km/hからのフルブレーキングを試すと、予想どおりIG60のほうがだいぶ短く止まることができた。Uターンする際のフロントタイヤの横滑りもIG60のほうが小さい。やはり氷上ではスタッドレスタイヤが頼りになるといえそうだ。

ところがスノー性能は予想よりもずっと差が小さいことに驚かされた。圧雪路で発進加速性やフル制動、スラロームなどを試したところ、やや速めにステアリングを切ってみると、全体的にIG60のほうが応答遅れは小さく、グリップが高いことが感じ取れたが、AW21も後半はやや発散気味になったものの、思ったよりもずっとしっかり操舵についてくる。

中でも印象的だったのが、雪道でもっとも重要といえる制動力の高さだ。同等とまではいわないが、それほど遜色ない感覚で止まってくれることに驚いた。

これだけ走れるのなら、横浜ゴムとしてはオススメしていないがアクセスの整備されたスキー場ぐらいなら行けそうだし、都市部で年に1回あるかないかの降雪に備えるには十分ではないかと思う。今度はぜひ舗装路で試してみたい。

◆4シーズン経過しても、性能の劣化はほとんどなし


次いで、「長く効く」性能を体感。公正取引委員会では、適正な環境で保管していれば2シーズン(実質3シーズン)前のタイヤでも新品同等の性能を保つとしており、さらに横浜ゴムでは4シーズン前でも問題ないことを確認したというので、それを試してみた。

屋内氷盤路で新品と4年経過に相当する経年劣化した状態を人工的につくったIG60を装着したカローラを乗り比べたのだが、走る前に両方のタイヤを見たり触ったりしてみても、とくに違いは感じられず。そして実際に走らせてみても、氷上での制動感、発進性や加速性ともほとんど差といえる差は本当になかった。適正に保管されていれば4年ぐらい経ってもぜんぜん大丈夫と思ってよさそうだ。

◆スタッドレスタイヤ「アイスガード6」は高性能スポーツカーとも相性よし


つづいては、低偏平スタッドレスタイヤとミッドシップスポーツカーの相性を体感した。IG60は、19インチや40〜35偏平という欧州の高性能スポーツカー向けのラインアップも充実しているのだが、これまであまり訴求できていなかったとのこと。そこで今回、低偏平のIG60を装着した『718ケイマン』を駆り総合圧雪路でスラロームを試した。

ドライブすると、ステアリングを素早く切ったときにノーズが向きを変える感覚が、舗装路で走らせたときのまさに延長上にある印象で、スライドさせたときのコントロール性の高さにも感心しきり。むろんクルマもよいのだろうがタイヤがなおよい。アイスガードはこうしたスポーツカーに履かせても、ポテンシャルを最大限に引き出すことができるわけだ。


そして今シーズンより稼働しはじめたという新ハンドリング路へ。従来のハンドリング路では高速域のテストを行なっていたが、新しいコースはもう少し中速域の50〜70km/h程度も想定して設計したとのことで、反時計回りが国内向け、時計回りが高速主体の欧州向けのレイアウトとなっている。コースは高低差や段差を設けてあえて荷重が変動しやすいようにされており、テストドライバーはここで直線でのフラつき、操舵時の応答性、ビルドアップ感や抜け感、滑る早さと大きさやコントロール性、全体の安定性などを見ているという。

同コースで、まずアイスガードSUV G075を装着した『RAV4』に筆者が乗り、反時計回りで走行した。圧雪ぐらいのミューの路面だと荷重変動の影響は小さくなく、ましてや重心の高いSUVとなればなおのことだが、十分に確保されたグリップにより下り勾配も含め安定して走ることができた。上り勾配や段差を越えて荷重が抜けたときでも、思ったよりも舵が利き、横浜ゴムの他のラインアップにも共通して感じられる、舵角の浅い領域でのスッキリとした回頭感も心地よい。横浜ゴムは雪上においても「走る楽しさ」を追求しているようだ。


さらに、ラリードライバー奴田原文雄選手の駆る『マカン』と『ランサーエボリューション』のラリーカーに同乗し、アイスガードのパフォーマンスをフルに引き出した卓越したドライビングを味わわせてもらうことができた。いろいろ新しい発見もあり、横浜ゴムの実力の高さを再認識した、実り多き2日間であった。



岡本幸一郎|モータージャーナリスト
1968年、富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報映像の制作や自動車専門誌の編集に携わったのち、フリーランスのモータージャーナリストとして活動。幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもスポーツカーと高級セダンを中心に25台の愛車を乗り継いできた経験を活かし、ユーザー目線に立った視点をモットーに多方面に鋭意執筆中。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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