トヨタ車体「コムス」をベースにコネクテッドカー向け開発キットを搭載した

ルネサスエレクトロニクスは10月16日、東京都内で開発者向けイベント「R-Carコンソーシアムフォーラム2019」を開催。それと併せてメディア向けに車載半導体を取り巻く現状についての説明会を開き、パートナー作りに重きを置いた新たなプログラムを開始したと説明した。

◆コネクテッドカーやHMI、電動車などの開発期間短縮に向けた開発キットを披露

「R-Carコンソーシアムフォーラム」は、オープンなプラットフォーム環境を自動車市場へ提供する顧客視点のエコシステムとして2005年に設立されたもので、現在252社のコンソーシアムパートナー企業と共にソリューション提案活動を推進している。今回はそれらのパートナー企業が会場に出展し、様々なデモ展示を展開した。その中でメディア向けに披露されたのは、コネクテッドカーやHMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)のほか、電動車などの開発期間の短縮に向けた開発キットなどだ。

コネクテッドカーについては、昨今のあおり運転によって生まれたイベントをきっかけとして、フロントカメラや車両情報のデータをクラウド上にアップする流れを一例として披露した。この場合、カメラで捉えた映像はクラウドへ送られることが基本だが、すべてをクラウドへ送ればデータは膨大なものになってしまう。そこでクルマ側にエッジコンピュータを置いてここで送るべきデータを整理し、その上で必要なデータとして適宜送っていく。これによってクラウド側の負荷を抑え、システムの最適化が図れるようにする。

HMIでは、一つのECUで複数のコックピットが制御できる統合コックピットECU向けのソリューションを紹介した。ここでも開発期間の短縮を図れることを最大にポイントとしており、デモで紹介した展示システムはわずか3週間で開発を終えることができたという。見逃せないのはハイパーバイザーの搭載で、これにより異なるOS、たとえばインフォテイメントシステムはLinuxで、メータークラスターはGreen Hills SoftwareのリアルタイムOS 「INTEGRITY」だったとして構わない。担当者によればAndroidの製品を組み合わせてもOKなのだという。

ルネサスが昨年から今年にかけて相次いで買収した「インターシル」や「IDT(Integrated Device Technology)」とのシナジー効果を活かした新たなソリューションも提案していた。それが電源管理システムだ。ADASの高度化に伴って、それを管理するSoCは電源設計が難しくなる一方。そこでインターシルのパワーマネジメントICをR-Car向けに活用するのだという。これまではECUに電源ネットワークが接続されているが、同社によれば今後は機能ごとにパワーデバイスを設け、階層化・冗長化による高い安全性を保ちながら電力を緻密に制御できるようになるとする。

◆新プログラム「プロアクティブパートナー」として55社を選定

メディア向けに行われた説明会で示されたのは、「R-Carコンソーシアム・プロアクティブパートナープログラム」と呼ばれる新プログラムだ。前述したように、コンソーシアムのパートナー企業は252社にのぼり、その規模は当初の想定を大きく上回るまでに拡大している。これによって情報量は増えたものの、必要な情報がたどり着きにくい、またはシステム検証に必要なコンサルタントパートナーが明確になっていないという課題も浮かび上がってきた。

そこで、これらの課題解決のためにルネサスは、R-Carコンソーシアムの活動を発展させた「プロアクティブパートナー」企業を認定することを決定したのだ。これらの企業はより戦略的に協業することを前提としているが、車載ビジネスでの実績や技術力、ソリューション提案力などをルネサスが評価し、戦略パートナーとして認定した。第1弾として55社を選定した。

車載半導体市場の今後についてルネサスは、車両1台あたりに搭載される半導体の価格が2018→25年までに平均で4%の成長が見込む。とはいえ内訳を見ると市場の拡大を牽引するのは自動運転と電動化の分野で、同社はこの2本柱が今後も市場の拡大を牽引していくと予測する。こうした中で同社が特に力を入れるとしているのがADAS(先進運転支援システム)やコネクテッドカー向けのSoC事業だ。

そしてR-Carのセグメント別戦略として同社は、「IVI/コックピット」「スマートカメラ」「セントラルADAS」「コネクテッド/ゲートウェイ」の4分野に絞り込んだ。これを基本に可変的で再利用可能なオープンプラットフォームを備え、量産に最適な製品展開で成長市場を獲得していくことにしている。執行役員常務兼オートモーティブソリューション事業本部長の山本信吾氏は、「ハイエンドからローエンドまで対応可能なスケーラビリティに力を注ぎ、その中で利便性や効率性も併せて追求していきたい」と述べた。

◆自動運転は簡単ではない? その解決に向けてAVCCへの参加を目指す

一方で執行役員兼CTOの吉岡真一氏は、「自動運転はそう簡単には実現できないことがわかってきた。これが今や業界の共通認識だ」とする。その理由として「法律上の問題や社会の受容性といった問題もあるが、現状では自動運転システムのコストと消費電力が高過ぎる」と話す。

たとえばコストについては「300万円の自家用車で許されるオプション価格は30万円が限度で、例えば自動運転システムが70万円だったらは受け入れられない」(吉岡氏)。消費電力の問題については「チップの消費電力が多くなると水冷化も必要となり、部材コストが高くなるだけでなく、装備することで車両側のスペースも圧迫してしまう」(吉岡氏)との見解を示し、これらがテクニカルな面で自動運転を阻んでいる要因だとした。

この課題解決に向けた動きとしてイギリスのアーム(Arm)社は10月8日、トヨタをはじめとする大手自動車メーカーを巻き込んだ自動運転のコンソーシアム「Autonomous Vehicle Computing Consortium(AVCC)」を立ち上げて注目を浴びたばかり。2025年には各社が車載コンピュータを共通化することで開発コストを下げるのが目的とされるが、これは明らかにインテル(Intel)/モービルアイ(Mobileeye)をライバル視した動きに他ならない。ところがこの発表時点でルネサスの社名はなかった。

これについて吉岡氏は「R-CarはすべてArmコアを使っており、Arm社との関係も深い。社内の手続きが終わらず間に合わなかっただけ。AVCCには参加する方針だ」と説明した。ルネサスのR-Carは低消費電力で動作することで知られる。フォーラムの会場にいた担当者によれば「ハイパフォーマンスを追求すればアピール度は高いが、消費電力が高くなって使ってもらえなければ意味がない。我々は普及させられるパフォーマンスがどこなのかを着実に狙って開発を進めていきたい」とのことだった。

ドラレコとしてのカメラの基板の裏側に、R-Car V3Hを搭載した別のボードが組み込まれている カメラの裏側に組み込まれたR-Car V3H トヨタ車体「コムス」をベースにコネクテッドカーとしての様々な機器を組み込んだ カメラなどの周辺監視用のセンサーを処理するSoCがカーゴルーム内にセットアップされていた 監視カメラごとに専用のR-Car用ボードがセットされていた 統合コックピット向けのリファレンスECUの開発キットのデモ機。通常なら3ヶ月かかるところを3週間で開発を終えたルネサスが参照設計(リファレンス)を用意することで、通常は数カ月かかる開発期間を3週間に短縮できたという。メータークラスターは米Green Hills SoftwareのリアルタイムOS「Integrity」、センターコンソールはAGL(Automotive Grade Linux)ベースで動いており、ハイパーバイザーで統合している。 ルネサスが買収したインターシルのチップを使うことでシナジーを活かそうと用意された電源ソリューション 執行役員常務 兼 オートモーティブソリューション事業本部長 山本信吾氏 執行役員 兼 CTOの吉岡慎一氏 車載半導体市場は自動運転と電動化関連が特に伸びていく ルネサスはADAS/コネクテッドカー領域でSoC事業を拡大する R-Carのセグメント別戦略は全部5つある 自動運転の実現に向けてはハード面でも課題は山積み ルネサスは自動運転時代に向けたコンセプトとしてトータルなソリューションで対応を図る 自動運転のレベルに合わせたR-Car投入のロードマップ EV向け電源ネットワークソリューション R-Carコンソーシアムの新パートナープログラム