日本からの中古部品《撮影 川崎大輔》

マレーシアは、アセアンの中で最大の自動車中古部品の流通国となっている。しかし、最近マレーシアに変化の波が押し寄せてきている。新しい局面へ入ろうとしている中古部品流通市場の今後を考えてみる。

◆アセアン最大の中古部品流通国、マレーシア

マレーシアはアセアン最大の自動車中古部品の集積地であり再輸出国となっている。中古部品の多くは日本から輸入される。マレーシアに集約された後、世界各国へ再輸出されている。

マレーシアが大きな再輸出拠点としてのハブになっている理由としては、アフリカや中東なの中間に位置しているという地理的要因がある。更に、アジアの中でのムスリム(イスラム教徒)国といった理由があげられる。ハンチントン著『文明の衝突』でも言われているように、共通の文化を持つ国家・人々は、互いにより理解し合い、信頼し合う傾向がある。アフリカや中東(ちゅうとう)に住むムスリムにとって文化理解やモスクなどの礼拝堂、そしてハラルと言われる食事などに不自由しないことによって、容易な取引が可能となった。マレーシアは、文化文明的なつながりから中古部品のハブとして確固たる地位を築いていった。

◆中古部品は日本から世界へ

マレーシアの首都KLには、最も大きな中古車部品集積地であるKlang(クラン)、次に大きなKepong(ケポン)という2大集積地がある。KLの西と北に位置し、共にツインタワーから車で45分ほどのところに存在する。

このエリアに足を踏み入れると道の両わきに騒然と山積みされた自動車のエンジン、ハーフカット、ノーズカットの景観に圧倒される。鉄屑やエンジンがずらっと並ぶ。海外からのバイヤーは「目移りする。宝の山のようだ」とつぶやく。

マレーシア自動車リサイクル協会(MAARA)のデータによれば、マレーシアに集まる自動車中古部品の80%以上が日本からの部品となっている。ハーフカット、ノーズカットでの輸入も多いが、中古エンジンが主要な商品となっている。ほかにも変換機、オルタネータ、スタータの需要が高い。なぜ、日本からの中古部品が人気なのか。当然、世界中で日本メーカーの車が走っているというのもある。しかし一番大きな理由は日本で発生した中古部品は走行距離や使用年数が少ないためだ。日本は、優良な中古部品発祥地という世界共通の認識を持たれている。

日本での引き渡し時からみて1.5〜3倍程度で現地では販売されている。マレーシアに入ってきた中古部品全体のうち20%ほどはマレーシア国内での需要となる。しかし、それ以外の80%ほどは海外へ販売される。再輸出先としてはUAE(シャルジャ)、パキスタン、南アフリカ、ナイジェリア、タイ、ミャンマーなど、中東(ちゅうとう)、アフリカ、更に近隣のアセアン諸国に輸出されている。一方で、UAE(シャルジャ)、南アフリカ、ナイジェリアは更なる再輸出拠点となっており、アフリカ諸国へと再々輸出されている。

◆変化するマレーシアの中古部品市場

中古部品流通市場の業界関係者の話によれば、直近のマレーシア中古部品市場が縮小に向かっている。「自動車中古部品の市場の縮小感を感じています。真剣に今後の中古部品業界の将来について考えなくてはいけない時期にきています」(マレーシアに進出した日系中古部品企業)。更に「日本における中古部品が減ってきていますし、中古部品の発生源が日本以外にも出てきてます」と指摘する。

今までの中古部品のビジネスは、日本で商品価値がなくなった商品(中古部品)をマレーシアで販売をするというモデルであった。日本からの中古部品であれば何でも仕入れていた。

しかし中国が自動車中古部品の輸入をしなくなったため、細かい中古部品が販売しづらくなってきている。更に、日本のマーケットではHV(ハイブリッド)車などが売れ筋となってきている。また、車全体の中で、軽自動車の保有台数が増えてきている。日本の独自規格である軽自動車部品の商品価値はあまりなさそうだ。またメーカーは同じ車種であっても日本仕様とアセアン仕様で分けて、少しずつ仕様が異なる車を販売するようになってきたため、日本からの部品では規格が合わなくなった。つまり、日本からの輸入される中古部品と世界で求められる中古部品需要とにギャップが生まれてきた。

変化の流れはプレーヤーの行動にも表れている。元々中古部品ビジネスを始めたマレーシアチャイニーズは、中古部品市場の変化とともに今後の方向性を模索している。彼らは、一気に大きな利益を上げるビジネスを求めている。そのため、利幅が薄くなりつつあるこの業界から離れていく経営者も出てきた。

◆日本からの中古部品ビジネスの可能性

マレーシアは、日本から中古部品における重要な国際流通を担っていた。しかし外部環境の変化により市場規模と流通形態が変化してきている。情報の量とスピードが変化し、今までのビジネスモデルから新しいモデルへ変化していく時代が来たといえよう。

中古部品の流通に関する情報の蓄積は充分ではなく課題も多く残されている。しかし日本メーカーの努力による高い国際競争力と品質によって、日本が優良な中古部品の発祥地であることには変わりはない。更には日本での適正な自動車リサイクル法、リサイクル関連企業の先進技術、海外での日本車市場の増加に伴う盛んな中古部品需要、などやり方次第では更なる需要を見いだし、新しいビジネスを構築する可能性を持っている。日本にある中古部品会社は、よりグローバルな視野にたった中古車部品流通を再構築とし、新しいビジネスを考える段階に差し掛かっているのかもしれない。

<川崎大輔 プロフィール> 大学卒業後、香港の会社に就職しアセアン(香港、タイ、マレーシア、シンガポール)に駐在。その後、大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年より自らを「日本とアジアの架け橋代行人」と称し、Asean Plus Consulting LLCにてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。専門分野はアジア自動車市場、アジア中古車流通、アジアのアフターマーケット市場、アジアの金融市場で、アジア各国の市場に精通している。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。

解体作業《撮影 川崎大輔》 ストックヤード(ハーフカット、ノーズカット)《撮影 川崎大輔》 日本からの中古部品《撮影 川崎大輔》 中古エンジン《撮影 川崎大輔》