マツダ 雪上試乗会《撮影 中野英幸》

スポーツモデルを数多く用意しているマツダは、1980年代からシートに強いこだわりを持っていた。この設計哲学は現在まで脈々と受け継がれている。注目したのは、人間が持っている動的バランス保持能力。『マツダ3』のプロトタイプ試乗で驚かされたことのひとつは、バランス保持能力を最適に引き出せるシートの開発と採用だ。

人間は歩くときに、骨盤と上体を自然に逆方向に動かし、頭部を安定させている。意識することなく、骨盤を立てて脊柱が自然なS字カーブを描くようにしているのだ。また、骨盤の動きの連続性と規則性を保つために、下肢が地面からの反力を整えて骨盤へと伝えている。規則的に、連続的に滑らかに動かす理想の状態を、クルマでも実現しようとマツダのエンジニアは、歩行時と同じように動的バランス保持能力を発揮できるシートの開発に乗り出し、次期マツダ3に採用した。

シートの理想は、バネ上と一体で“動く”ことだという。そこで骨盤を立たせた状態で座らせるのがいいことを証明するために、新型マツダ3の助手席に体幹を鍛える健康器具を接置し、ジャーナリストを座らせたのだ。これはバランスボールのようなもので、慣れないと不安定になる。低速で走ったが、5km/hくらいの超低速でも体を安定させるのは至難の業だった。わずか1分ほど走っただけで足がパンパンになっている。

この理論から生み出された新型マツダ3のフロントシートは、背骨がきちんとS字カーブを描き、骨盤をきれいに包み込んでくれるから座り心地がいい。運転席に座り、ふたつのドライビングポジションを試してみた。ひとつはS字カーブが描ける適正な運転姿勢だ。もうひとつは、背もたれから腰を前にずらし、そっくり返った姿勢での運転である。きちんとした姿勢でないとステアリング操作に遅れが出たり、切るのが甘くなった。また、ペダル操作にも若干のタイムラグが出る。また、頭部の揺れや視線の動きも大きい。

データロガーで比較したが、ルーズな姿勢で運転したときときちんと骨盤を立ててバランス保持能力を引き出せる着座姿勢とでは明らかに違いが出た。ルーズな座り方だとステアリングを切ったときにスムースさを欠くし、ブレーキを踏むタイミングも少し遅れたり、操作が雑になったりする。ちなみに後席にも座ってみたが、現行モデルより座り心地、ホールド感ともによくなっていた。

マツダ3の助手席に体幹を鍛える健康器具を接置《撮影 中野英幸》 マツダ 雪上試乗会《撮影 中野英幸》 マツダ 操安性能開発部の虫谷泰典氏《画像  マツダ》 マツダ 雪上試乗会《撮影 中野英幸》 マツダ 雪上試乗会《撮影 中野英幸》 新型 マツダ3(欧州仕様)《画像  マツダ》 マツダ 雪上試乗会《撮影 中野英幸》 マツダ 雪上試乗会《撮影 中野英幸》 マツダ 雪上試乗会《画像  マツダ》 マツダ 雪上試乗会《画像  マツダ》 マツダ3比較試乗のデータ《撮影 中野英幸》