交通事故による死者数をどこまで減らすことができるか。運転の「心理的適正」への対応がカギとなる(写真はイメージ)

2019年、始まりました。今年も読者のみなさんが、安全に楽しくクルマと過ごせますように。よろしくお願いいたします。

◆運転の心理的適性

2019年1月4日、警察庁から、昨年一年間の交通事故統計が発表された。これによると死者数は前年に比べて162人減って3532人。これは統計を取り始めてから最少の数字である。発生件数は4万1820件減って43万0345件、負傷者数は5万6155人減って52万4695人である。

私の大好きなクルマでいまだに3500人もの人が亡くなり、52万人を超える人が傷ついていることを思うと気が重くなるけれど、それでも着実に減ってきている事実は人・道・車・医の努力の賜物だと思う。

若者のクルマ離れが進んでクルマに乗らなくなったからじゃんと言う人もいるけれど、その分、高齢化が進んでいるのだから、この際、そのあたりのプラマイは無視したい。

さらに、「警察庁のデータは事故後24時間。1分後に亡くなった人は入っていないからずるい」という声も聞くけれど、30日後の数字も24時間後の数字とほぼ同じベクトルで下がっている。そもそも、本当に車両でどこまで守れたか正確なデータをとろうとしたら、事故直後の予測生存率をとるべきだろうし。警察庁の発表データは、ドクターヘリやドクターカーを含め、医療の早期介入〜その後の治療体制を含めて改善されたひとつの数字だと思う。

◆人・道・車・医の「人」をどうするか

さて、3532人まで減ってきた死者数を、今後、どこまで減らすことができるのか? スウェーデンではビジョンゼロを掲げて、交通事故死者数ゼロを明確な政策として打ち出している。やる気まんまんなのだ。

ただ、思うのは、飲酒で酩酊状態とか、タコ乗りして暴走する人たちとか、そんな人が起こす事故まで、どこまで面倒みなくちゃいけないのかということだ。それこそ、人・道・車・医の最初の人の部分なのだから、指導と対策(車両の技術的? 道の構造的?)でなんとかせいよという話なのかもしれないけれど、そんなバカちんのために、高度な技術が搭載されて車両が高額になったり、道路建設費に税金がわっさわさ使われたりするのはイヤだなあと思う。

飲酒事故なくすために、車両に呼気検査器を標準装備しろという声もあるけれど、お酒ほとんど飲まない私にしてみれば「ちょっと待った!」なのだ。

◆「運転適性」の3要素

ところで、クルマを運転するためには、運転免許が必要で、取得する際には技術を習得するほかに「運転適性」というものが重要になってくる。そういえば私も受けたっけ、この試験(遠い昔すぎて記憶は霞のなか)。ここからは、科学警察研究所の岡村和子氏の研究をもとに進めたい。

運転適性は大きく3つに分かれていて、わかりやすい1つ目は身体的適正。見える聞こえる扱えるといった、視力聴力・四肢機能などだ。

2つ目は、医学的適正。認知症、睡眠障害、アルコール使用障害がこれらにあたる。最近、話題になる脳疾患や心疾患、糖尿病の低血糖で意識を失うケースなどもここに含まれると思われる。

そして3つ目は、心理的適正である。いわゆる暴走しちゃうバカちんはこの適正の欠如である。他人に迷惑かけても構わないとか、少しくらいの飲酒なら平気とか、暴走してストレス発散したいとか。あおり運転なんかもこの適性がないんでしょうね。

これらの適正は、全員が3つとも完璧に有しているわけではなく、岡村氏によると「相互に補完しあい、一つに弱点があっても、ほかでカバーできることが多い」という。

なんとなくわかる。知り合いの男性は、自身の反射神経(身体的適正)が落ちてきたことを自覚して、夜は運転しないし、一時停止はこれでもかというくらいきちんと止まって安全確認をする(心理的適正による補完)ようになった。

◆交通事故死者数ゼロに向けて

ただ、「相互に補完しあい……カバーできる」と言っても、心理的適正の欠如はかなりカバーにしにくいんじゃないだろうか。「暴走しても事故を起こさず運転できるもーん」というバカちんが、身体的適正(運動神経がいいとかね)によって補完されたとしても、たかが知れているわけだし。っつか、そんなもので補完したと言うこと自体、心理的適正欠如だし。

高齢化ニッポン。報道では高齢者が起こす事故が大々的に取り上げられて、だから高齢者は、とか、免許を取り上げろとか、身体的&医学的適正に対する厳格化が叫ばれているけれど、でも、交通事故死者数ゼロに向けてもっと対応しなくちゃいけないのは、3つめの心理的適正なんじゃないのかなって、ちょっと思う。

心理的適正こそ、もっと注目して改善させていかないと、死者数ゼロはあり得ないと思うんだよね。

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。主にコンパクトカーを中心に取材するほか、最近は ノンフィクション作家として子供たちに命の尊さを伝える活動を行っている。レスポンスでは、アラフィー女性ユーザー視点でのインプレを執筆。コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。