これ、『5シリーズ』ベースですよね?「いえ、基本7シリーズベースとお考え下さい」。そぉ〜なの?なんか、このやり取りだけで、このクルマが妙に贅沢に感じてしまったわけである。
『7シリーズ』と言えば、BMWの最高峰。つまりはメルセデス『Sクラス』のライバルだ。それを、BMW流にファーストバックボディをかぶせて、テールゲートを作ったクルマがこれ。6シリーズというのは、これまでクーペとカブリオレだけで、非常にパーソナル色の強いモデルだと思っていたが、超が付くほど立派な後席を備え、さらに巨大なラゲッジスペースまで有するとなると、形こそフォーマルではないけれど、デッカイセダンが欲しい人には重宝するクルマだなぁ…っていう印象である。
搭載しているエンジンだって、BMWお得意の3リットル直列6気筒ツインパワーターボ。そもそもBMWを有名にしたのは、何と言ってもスムーズな直列6気筒エンジンで、その滑らかさからシルキー6などと呼ばれたものである。70年代初頭に初めてこのシルキー6のエンジンに接した時、比較しちゃ悪いが、当時のメルセデス製6気筒と比べたら、その回転の滑らかさは段違いであったことを思い出す。その伝統は今も息づいていて…と言うより、直列6気筒の火を消さなかったのはBMWであって、他がすべて直6をやめても、BMWだけはこのエンジンを作り続けた。最近ようやくというか、再び直列6気筒に脚光が浴びそうな気配だが、この直6エンジンだけは恐らくどのメーカーもBMWに勝てないと思う。
それはともかくとしてこのクルマ、デカい!全長5105×全幅1900×全高1540mm。3サイズからしてこれだ。そして車重はというと、2トンを超える。まあ、xDrive(4WD)だからある程度重いことは仕方がないが、とにかく威風堂々としているわけだ。
そもそもBMWにおけるGTの位置づけであるが、ワゴン並の収容能力を持っていながら、セダンの快適性と運動性能を備え、なおかつ抜群にスタイリッシュ。肝は最後のスタイリッシュに尽きるだろう。ただ、そのスタイリッシュという部分には、少し引っかかるものがある。
似たようなコンセプトは例えばアウディ『A7スポーツバック』や、車格は下がるがVW『アルテオン』などがあって、どうも単純にスタイルだけを見たら、アウディやVWの方がスムーズでスタイリッシュに見える。ではどこが違うかというと、それは車高。BMWは1540mmあるのに対し、アウディとVWはそれぞれ1430mmと1435mmだから、何と100mm以上低い。まあスタイリッシュに見えるのは当たり前だけど、その分室内及びラゲッジのボリュームは損をしているわけだ。
GT(グランツーリスモ)を名乗るのは、快適なロングドライブを可能にする空間が必要というわけで、そこに妥協せず作り上げたクルマがこれだということで、BMWのGTと呼ばれるモデル群は、単にスタイリッシュなことだけを追求したモデルではない、ということなのである。
だから乗り出してみると、まず感じるのは室内空間の広さ。「広ぉ〜い!」と一人で室内でつぶやいてしまうほど。そして巨体を静々と走らせることが出来るのだが、いざ高速に出ると、直6の力強さをしみじみと味わうことが出来る。性能的には340ps、450Nmだから、超が付く高性能なら4気筒でもこのくらいは出せる。パワーはともかく、トルクならディーゼルにとって当たり前の数値だ。しかし、ガソリン6気筒というのは、それこそ無限に伸びていくのではないかと思うほど、スムーズでしなやかな加速感が持ち味で、4気筒の瞬発力と比べたら、やはり糸を引く印象の加速感がたまらない。今となっては4以上のマルチシリンダーは高級車の証である。
ラゲッジスペースも610〜1800リットルと下手なワゴンを優に凌ぐ。横方向もちゃんと抉られているからゴルフバッグだって楽に横に詰めそうだ。今度これをお借りしてゴルフに出かけてみよう。さぞ、スコアが良くなることだろう。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来39年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
【BMW 6シリーズ グランツーリスモ 試乗】まあ、何と贅沢なクルマなんでしょ!…中村孝仁
2018年08月17日(金) 12時30分
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