トヨタ・ランクルーザーの試験車両。EPS仕様に改造し、EPS用補助電源システムとして高耐熱リチウムイオンキャパシタを搭載している《撮影 丹羽圭@DAYS》

ジェイテクトは7月12日、同社の伊賀試験場(三重県伊賀市)でメディア向けに新製品の技術紹介と体験会を開催した。

同社がこうした体験会を開催するのは今回で4回目。戦前からある光洋精工と豊田工機が合併して2006年に誕生した同社にとっては、最新の事業内容を広く知ってもらう機会であり、メディアにとっては新製品をいち早く「体験」できる貴重なチャンスだ。

今回のテーマは、自動運転に対応した電動パワーステアリング(EPS)の諸技術、高耐熱リチウムイオンキャパシタ、新開発の高剛性ハブ、新型トルセンLSD「タイプD」の4つ。いずれも市販車には現時点で未採用だが、すでに完成車メーカーなどに売り込み中の新製品だ。

伊賀試験場は、深々とした森が広がる伊賀の丘陵地帯に、直線とワインディング路を組み合わせた全長2200mの総合周回路や5.4万平方mのダイナミクスパッド(平坦面)を備える。27ホールあった近隣のゴルフコースから9ホール分を譲り受けて建設され、2012年に開所している。


■自動運転対応EPS…ハンズオン/ハンズオフ検知、権限移譲技術など

開発中の自動運転対応EPSは、現行トヨタ『カムリ』の試験車両で体験した。カムリのステアリングシステムには同社のRP-EPS(ラックパラレルEPS)が採用されているが、試験車両のEPSにはさらに、開発中の自動運転関連技術が搭載されている。体験試乗の趣旨は、総合周回路を自動操舵および手動で走り、その際の「ハンズオン/ハンズオフ」ディテクション、つまりドライバーがステアリングを保持しているかどうかの検知技術や、ドライバーとクルマとの間の操舵権限の移譲技術、そして正確な操舵制御を体感すること、などだ。

その印象は、まずハンズオン/オフの検知については、ステアリングホイールの静電式タッチセンサーと、EPS本体のトルク&舵角センサーを併用したもので、最新の運転支援装備を備えた市販車と比べても確かにより検知精度が高い印象だった。市販車にもタッチセンサーを使用したものはすでにあるそうだが、ジェイテクトではさらに誤検知のない判定を目指しているという。

操舵権限移譲制御については、市販車でも輸入車の一部には操舵の主導権をクルマ側からドライバー側に取り戻す際、強めの力で手動操舵する必要があったりするが、これはドライバーの意思を読み取るようにスムーズに権限移譲を行ってくれる。

舵角制御の正確さ、スムーズさは文句なしだった。コースにはステアリングを180度以上回す鋭角コーナーもあったが、問題なく「手放し」でクリアしてくれた。路面からの外乱があった場合も、補正制御を行うことで自動運転時のライントレース性を向上させているという。


■高耐熱リチウムイオンキャパシタ(EPS用補助電源システム)

ジェイテクトの高耐熱リチウムイオンキャパシタは、いま話題の製品だ。様々な利用方法が検討されているが、まずは大型車向けEPSの補助電源としての採用が期待されている。省燃費や自動運転化の要請から、今後は車重が2トンを超えるような大型SUVでも油圧パワステの代わりにEPSを採用したいという状況にあるが、そうすると通常の12V車両電源では電圧不足に陥るからだ。

今回はそれを現行トヨタ『ランドクルーザー』の試験車両で体感した。ノーマルの油圧パワステはEPSに変更され、さらにEPS用補助電源として高耐熱リチウムイオンキャパシタが搭載されている。

このランドクルーザーで、まずはステアリングの「据え切り」を体験する。通常の12V車両電源だけで据え切りを行うと、ややステアリングが重く、アシスト力も不安定でぎごちない操作になってしまうが、キャパシタ電源をオンにすると、2直列にしたキャパシタ電源(3V)の6Vが加わって計18Vとなり、軽くスムーズに操舵できるようになる。この後、パイロンスラロームでもキャパシタのあり/なしを試してみたが、印象は同様だった。

また、このシステムにもう一つ期待されているのが、車両電源そのものが落ちた時(故障した場合)のバックアップ電源としての役割。来るべき自動運転時の故障に備えたもので、ジェイテクトではこうした冗長化をJFOPS(ジェイテクト・フェイル・オペレーショナル・システム)と呼んでいる。EPS用の補助電源システムは、キャパシタ電源を4直列にして12Vとし、クルマを安全に止めるまで電動パワステを動かし続ける。

これについては、定常円旋回中に通常電源をオフにすることで体感した。キャパシタなしでは当然ながら急に「重ステ」になるので、ステアリングを適切に操作することは極めて困難になるが、キャパシタありの場合は、間髪を入れず補助電源がオンになるため、問題なく操舵できた。

また、このキャパシタ自体にも、他社製品にはない優れた点がある。それは耐熱性の高さだ。従来のリチウムイオンキャパシタや、電気二重層キャパシタ(別名スーパーキャパシタ。マツダが減速エネルギー回生システム「i-ELOOP」で採用)は、許容される動作温度が−40度Cから60〜70度Cあたりまでで、車両に搭載する場合は車室内でも何らかの冷却システムが必要になる。それに対してジェイテクトの高耐熱キャパシタは85度Cも大丈夫で、上限電圧を制限すれば105度Cまで使用可能だ。

であれば、例えばスズキ車のマイルドハイブリッド(Sエネチャージ)車に搭載されているような小型リチウムイオン電池との置き換えも可能に思えるが、現時点では蓄電容量がリチウムイオン電池に比べて3分の1程度と少なく、コスト面でも置き換えは難しいという。

ただし、建設機械、航空機、医療機器など、非自動車分野からの問い合わせは多数あるようで、今後はキャパシタ単体のほか、モジュール(キャパシタ+バランス回路)、あるいは充放電システム(キャパシタ+バランス回路+充放電コントローラー)といった形での販売も行う予定だという。すでに事業化の目途は立っており、2019年には量産開始予定だ。

自動運転対応EPSを搭載したトヨタ・カムリの試験車両《撮影 丹羽圭@DAYS》 自動運転対応EPSを搭載したトヨタ・カムリの試験車両《撮影 丹羽圭@DAYS》 自動運転対応EPSを搭載したトヨタ・カムリの試験車両《撮影 丹羽圭@DAYS》 自動運転対応EPSを搭載したトヨタ・カムリの試験車両《撮影 丹羽圭@DAYS》 トヨタ・ランクルーザーの試験車両。EPS仕様に改造し、EPS用補助電源システムとして高耐熱リチウムイオンキャパシタを搭載している《撮影 丹羽圭@DAYS》 トヨタ・ランクルーザーの試験車両。EPS仕様に改造し、EPS用補助電源システムとして高耐熱リチウムイオンキャパシタを搭載している《撮影 丹羽圭@DAYS》 高耐熱リチウムイオンキャパシタ《撮影 丹羽圭@DAYS》 トヨタ・ランクルーザーの試験車両。EPS仕様に改造し、EPS用補助電源システムとして高耐熱リチウムイオンキャパシタを搭載している《撮影 丹羽圭@DAYS》 トヨタ・ランクルーザーの試験車両。EPS仕様に改造し、EPS用補助電源システムとして高耐熱リチウムイオンキャパシタを搭載している。キャパシタのオン/オフで据え切りの感覚を比較する《撮影 丹羽圭@DAYS》 トヨタ・ランクルーザーの試験車両。EPS仕様に改造し、EPS用補助電源システムとして高耐熱リチウムイオンキャパシタを搭載している。《撮影 丹羽圭@DAYS》 トヨタ・ランクルーザーの試験車両。EPS仕様に改造し、EPS用補助電源システムとして高耐熱リチウムイオンキャパシタを搭載している。《撮影 丹羽圭@DAYS》