ジャガー Fタイプ Rダイナミック撮影 中村孝仁

ジャガースポーツカーの系譜…と言っても今の世代にとってジャガーのスポーツカーは今回試乗した『Fタイプ』しか思い当たらないかもしれない。

というのも、Fタイプ以前は『XK』であり『XJS』であって、それらはともにスポーツカーというよりも、むしろラグジャリークーペ的な性格付けがされたモデルであって、比較するならメルセデスの『SL』やBMW『6シリーズ』のような性格のモデルだったからである。しかし、1950年代から始まるXKを名乗ったジャガースポーツは、そのままルマン24時間レースに出場して優勝が狙えるような本格的スーパースポーツだったのだから、このXK、XJS時代との性格的乖離は大きかったのである。

Fタイプだってラグジャリークーペ的な要素を持っているじゃない?という突っ込みを受けるかもしれないが、そうはいってもメーカーが与えた性格ではかなりスポーツに寄っていて、現代風解釈ではスポーツカーと呼んで差し支えないと思うわけである。

特にこれまでのFタイプは、V6のスーパーチャジャー付きユニットもしくはV8のスーパーチャージャー付きユニットを備えたモデルがラインナップされていて、性能的にもかなり尖っていた。この種の性能は、正直言って日本の路上ではそのポテンシャルを如何なく発揮できる場所がない。そんなわけで、勿論デビュー時には試乗したのだが、積極的に長時間乗ってやろうという気にはなれなかった。

しかし、今回デビューした「Rダイナミック」はちょっと違う。それは、このクルマに新たに搭載されたエンジンが、2リットル直4ターボユニットだったからである。

実はこれまで、スポーツカーの世界は厳然と線引きされた何かがあったように思う。特にまだレーシングカーとスポーツカーの境目が曖昧だった60年代までは、ルマン24時間レース…というよりスポーツカーレースの世界では、オーバーオールウィンを狙う大排気量のビッグマシンと、クラス優勝を狙う小排気量のモデルがブランドごとに分かれていた。その大排気量オーバーオールウィンを狙うカテゴリーには、例えばフェラーリやアストンマーチン、フォード、それにジャガーなどが君臨し、小排気量クラスにはポルシェを筆頭にアルピーヌ、ロータス、ヒーレー、トライアンフ、アルファロメオなどがひしめいていた。こうした線引きを崩したのは言うまでもないポルシェである。

そして時代は変わり、レーシングカーとスポーツカーが明確に区別されるようになると、そんな線引きはどうでもよいものになったのだが、古い頭の中にはジャガーは大排気量のビッグマシンという印象が残っていたから、2リットル4気筒と聞いた時は少なからず違和感が残った。

では新しいインジニウム・ガソリンユニットを搭載したRダイナミックの、スポーツカーとしての資質は?というと、むしろオールラウンダーとしての性格はこちらの方が高くなった。勿論、果てしなくアクセルを踏み続けられるような環境下では、300psという性能に物足りなさを感じるドライバーが多いかもしれない。そもそも、V8スーパーチャージャーが発揮する最強のパフォーマンス、575psは、60年代にルマンに勝ったレーシングプロトタイプよりもパワフルなのである。そんな高性能モデルが今、路上にはゴロゴロしている。タイヤが良くなり、安全デバイスやコントロールデバイスが進化して、このパワーでも実際路上でそのパワーを路面に伝えることが可能になっているが、ではそのパフォーマンスを堪能できるのかというと、それはかなり刹那的に過ぎず、決して堪能できるとは言い難いのである。勿論300psだって十分刹那的ではあるけれど、575psと比べたら、現在ではかなり現実的である。

例によってメーカーから借り出し、路上に放ってみると、何と乗り易いことか。車幅こそ確かに1925mmもあって結構厳しいが、全長4480mmは、凄くコンパクトに感じられる。それに4気筒特有の非スポーツカー的イメージが皆無。特にそれはサウンドに表れていて、恐らくはスピーカー・サウンドチューンしていると思われるものの、すこぶるいい音が出る。レスポンスも極めてよく、思い描いていた4気筒エンジン搭載車とは別次元であった。それに、性能を引き出せるという点では5リットルの大排気量よりも、より多くの時間を費やせて楽しい。まさにコンパクトスポーツというイメージがそこにはあった。

改めて笑ってしまったのは、リアに付くスポイラー。手動でこいつを挙げることが出来るのだが、横から見るとまるで超コンパクトなトランクが開いたような格好になって、お世辞にもカッコいいとは言えなかった。

ライバルはポルシェ?彼らも4気筒の2リットルを搭載する。そしてアルピーヌも間もなく復活する。残念ながらアルファの『4C』は消えてしまったが、ロータス『エリーゼ』は健在だし、このコンパクトスポーツ(と、呼べるかどうか不明だが)のジャンルに戦国時代がやってくる予感もする。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来40年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。 また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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