1962年の『356 Bカレラ2』《photo by Porsche》

ポルシェは、初期の顧客の要望から工場でのワンオフ品まで、特別注文プログラムの歴史を紹介している。

今日では、工場から同じ仕様のポルシェが出ることはほとんどないほどカスタマイズが進んでいるが、その始まりは1955年、実業家アルフリート・クルップ・フォン・ボーレン・ウント・ハルバッハ氏の『356 Aクーペ』にリアワイパーを取り付けたことに遡る。

当時、カーラジオすら贅沢品とされる時代に、リアワイパーは非常に珍しいオプションだった。工場はリクライニングシートやグラブハンドル、回転計、ラゲッジラックなどのアクセサリーを拡充し、カスタマイズ需要に応えた。

1962年の『356 Bカレラ2』では、リアガラスが大きくなったためワイパー設置に苦労し、何度もガラスが割れるトラブルを乗り越えて実現した。こうした個別の顧客要望は70年以上にわたり伝統となり、ポルシェはカスタマイズの専門知識を蓄積してきた。アレクサンダー・ファビグ副社長は、初期は例外的だった特別注文が現在では「ゾンダーヴンシュ」や「ポルシェ・エクスクルーシブ・マヌファクトゥール」プログラムの人気商品となっていると説明する。

1968年にはロンドン・シドニーマラソン用に『911』をラリー仕様に改造。屋根まで伸びる排気管や外部のロールケージなどが装備され、1973年のカスタマー・レーシング部門設立の基礎となった。1975年にはイタリアのグレゴリオ・ロッシ・ディ・モンテレラ伯爵の依頼でレーシングカー『917』の「クルツヘック」を公道仕様に改造。外部ミラーや方向指示器、マフラーを装着し、米国アラバマ州で公道走行許可を得た。

1983年にはサウジアラビアの実業家マンスール・オジェ氏のために『911ターボ』を「935レーサー」仕様に改造。フォーミュラ1用エンジンプロジェクトも含む大規模なカスタマイズで、1980年代の象徴的なモデルとなった。これが1986年のポルシェ・エクスクルーシブ設立のきっかけとなった。

1989年にはカタールの王族向けに7台限定の『959』を製作。特別なストライプやカスタムカラー、24金メッキの排気管、家紋をあしらったエンブレムなど豪華な仕様が特徴だ。1974年には指揮者ヘルベルト・フォン・カラヤンの依頼で軽量仕様の『911ターボ3.0』を製作。これらの特別注文は1978年にゾンダーヴンシュ部門設立へとつながった。

現在、ポルシェ・エクスクルーシブ・マヌファクトゥールは約1000の事前定義されたオプションを提供し、ペイント・トゥ・サンプルプログラムでは190色以上のカラーが選択可能だ。最も人気のあるオプションはLEDドアプロジェクターのポルシェロゴ、次いで強化されたテールライトとヘッドレストのエンブレムだ。こうしたカスタマイズ文化は、創業者の夢を実現するというブランドの理念とともに、今後も進化し続けていく。

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