シティサーキット東京ベイ《写真撮影 中野龍太》

東京臨海都心に新しく誕生した『シティサーキット東京ベイ』を早大自動車部OBの中野龍太がインプレッション。同サーキットが謳う「都市型モータースポーツ」とは何なのか、レポートをお届けする。

◆りんかい線から徒歩3分、お台場の真ん中にサーキット現る
今年の夏、気になるニュースがネット媒体に掲載された。曰く、日本を代表するレーシングチーム「TOM’S(トムス)」が、東京・お台場地区にカートサーキットをオープンさせるという。しかも使用するマシンはEVカートで、新技術を活用した今までにないドライビング体験を演出する……、という。

是非ともインプレッションしたいと思いながら、中々都合が合わないまま12月を迎えてしまった。そんな折、大学自動車部の名門、慶應義塾體育會(体育会)自動車部が「EVカートによる次世代モータースポーツ体験会」を主催するという情報をキャッチ。ついに念願叶ってEVカートをドライブすることができたので、その模様をお伝えしたい。

りんかい線東京テレポート駅、出口Aから歩くこと2分。トヨタ自動車がかつて運営していた大型ショールーム、「メガウェブ」があったまさにその場所に、シティサーキット東京ベイが見えてくる。東京23区唯一というこのサーキットは、レンタルカートを楽しめる屋外コースと、小さい子どもでも安心して運転できるコンパクトな屋内コースを併せ持つ。屋内エリアではドライビングシミュレーターを楽しむこともできるとのこと。

サーキットに入場すると、まず明るい雰囲気のウェイティングルームが目に入る。操作方法などのレクチャーをこの建物で受けることができるわけだが、清潔感のあるお手洗いはもちろん、パウダールームやシャワールームまで兼ね備えているというから驚きだ。モータースポーツ初体験! という人でも、安心してサーキットデビューが飾れるのではないだろうか。

◆カートはモータースポーツの「入門編」! だけど…
そもそも「カート」とは、パイプでできたフレームに動力源やタイヤなどを装着したシンプルなクルマのこと。今回ドライブするカート、『KS-22』は「レーシングカート」と呼ばれる競技用車両の一種で、遊園地にあるゴーカートとは一線を画した動きが特徴。通常のカートはバイクのエンジンのような50cc程度のエンジンを積んでいることが多いが、このKS-22は軽量なフレームに5kW(約7馬力)を発揮するモーターを搭載。最高時速はなんと約80km/hにも達する。

これまでのレーシングカートは、モータースポーツの入門カテゴリーとして親しまれてきた一方で、走行する場所、サーキットの立地に制約があった。というのも、エンジンが放つ騒音や排ガス、においなどが足かせとなり、人気の少ない郊外でしか走行機会が得られないというケースがままあったのである。EVカートはこれらの問題が少ないため、都心部や屋内での走行が容易となった。これにより、今までモータースポーツに触れる機会が無かった人にも、競技の面白さや運転の楽しさ、ひいてはクルマの魅力を伝えることができるようになると考えられる。

さて、ここまでEVカートが持つ魅力について触れてきたが、気になる点が1つある。「結局のところ、EVになってカートは何が変わったのか」と。

◆結局、モーターで何が変わったのか?
走行順が回ってきたが、すごいものに乗れるという期待と、上手く乗りこなせなかったらどうしようという不安が入り混じった状態で乗車。スタッフがハンドルに備え付けられた電源をオンに。すると「ピー」という小さな電子音が聞こえ、始動が完了。普通のエンジンにはあるアイドリングという概念がないため、「本当にもう走れるのか?」と疑問に思うほど静かだ。だが、アクセルペダルを踏みこむと、EVらしい滑らかで静かな発進をしてくれた。

ピットロードからコースインし、早速アクセル全開。すると鋭い加速を見せ、数秒もしないうちに第1コーナーに到達してしまった。恐る恐る右に180度回り込むヘアピンコーナーに進入したが、そこはさすが競技用カート。普通の四輪車とは全く異なるクイックな動きを見せ、難なくクリアしてくれた。

実は事前情報として、EVカートはエンジンカートに比べ、車重が重いと聞いていた。EVはモーターに加え、重量物であるバッテリーが必要になるからだ。この重さが仇となり、カートならではのクルマの動きが失われてしまうのでは? と懸念していたが、全くの杞憂に終わる。ハンドルを切ればダイレクトにマシンが反応するというカートの魅力は、EVになっても健在だった。

◆本質的に「変わらない」ことにEVカートの強みがある
周回を重ねていくと、EVとエンジンでそこまで大きな差はないということに気が付いた。モーターだから加速感が段違いという事もないし、ハンドリングで車重を感じる部分は少ない。マニアックな部分に触れるならば、失速するとスピードを取り戻しづらいというのも、エンジンカートと一緒だ。アクセル・ブレーキ・ステアリングという3つの装置だけで運転するシンプルさが、カートという乗り物の本質なのかもしれない。

では、EVカートならではの強みというものは、一体どのようなものだろうか。答えはやはり、カートの持つ楽しさをより広い人に届けられる、という点になるのではないかと思う。

今回のイベントでは、学ラン姿の学生や、スーツに身を包んだ紳士淑女がカートに興じるという場面が見られた。通常営業でも、流行りのファッションを着こなす若者の集団や、小さな子どもを連れた家族など、幅広い層が利用しているとのこと。これは今までのエンジンカートをメインにしたサーキットでは、中々見られなかった光景だ。

また、先述した立地の自由度も、これからのモータースポーツを大きく変える可能性がある。カートはただ運転するだけでも非日常を味わえるのは確かだが、「上手くなりたい」と思うと途端に難しくなる。1回の走行でミスをした時、「次こそは」と思っても、これまでは家からサーキットの距離が心理的なハードルになり、中々「次」に繋げられないケースがあった。しかし、電車で通える距離にサーキットがあったらどうだろうか。モータースポーツが持つ「試行錯誤の魅力」にハマってしまう人が増えるかもしれない。

KS-22に乗ってみて唯一気になったのが、配線のレイアウトだ。フロア上にはモーターやバッテリーなどを接続するやや太めのケーブル類が、アクセル/ブレーキペダルとシートの間を横切るように置かれている。当然、踏んでしまうと断線の恐れがあるという事で、乗降時にはかなり気を遣った。カート経験者ならば、「シートに足を乗せてから体を滑り込ませる」という乗り方で対応できるが、これからより多様なユーザーが使うかもしれないカートだからこそ、「乗りやすさ」が文字通りの意味で重要になってくるのではないだろうか。

シティサーキット東京ベイ《写真撮影 中野龍太》 シティサーキット東京ベイ《写真撮影 慶應義塾體育會自動車部》 シティサーキット東京ベイ《写真撮影 慶應義塾體育會自動車部》 シティサーキット東京ベイ《写真撮影 中野龍太》 シティサーキット東京ベイ《写真撮影 中野龍太》 シティサーキット東京ベイ《写真撮影 中野龍太》 シティサーキット東京ベイ《写真撮影 中野龍太》 シティサーキット東京ベイ《写真撮影 中野龍太》 シティサーキット東京ベイ《写真撮影 中野龍太》 シティサーキット東京ベイ《写真撮影 中野龍太》 シティサーキット東京ベイ《写真撮影 中野龍太》 シティサーキット東京ベイ《写真撮影 中野龍太》 シティサーキット東京ベイ《写真撮影 中野龍太》 シティサーキット東京ベイ《写真撮影 中野龍太》 シティサーキット東京ベイ《写真撮影 中野龍太》 シティサーキット東京ベイ《写真撮影 中野龍太》 シティサーキット東京ベイ《写真撮影 中野龍太》 シティサーキット東京ベイ《写真撮影 中野龍太》 シティサーキット東京ベイ《写真撮影 慶應義塾體育會自動車部》 シティサーキット東京ベイ《写真撮影 中野龍太》 シティサーキット東京ベイ《写真撮影 中野龍太》 シティサーキット東京ベイ《写真撮影 中野龍太》 シティサーキット東京ベイ《写真撮影 慶應義塾體育會自動車部》 シティサーキット東京ベイ《写真撮影 中野龍太》 シティサーキット東京ベイ《写真撮影 慶應義塾體育會自動車部》 シティサーキット東京ベイ《写真撮影 慶應義塾體育會自動車部》