これは別のアクティビティだ……。国宝松江城(島根県松江市)の堀を巡る遊覧船事業に電動遊覧船が導入される。内燃機関エンジンで推進する遊覧船と乗り比べると、その違いは想像以上だった。
ホンダは8月より、小型船舶用の4kW電動推進機プロトタイプを用いた実証実験を、島根県松江市にて開始する。松江市観光振興公社が運営する堀川遊覧船に電動推進機プロトタイプを搭載し、商品性を検証する。検証開始に先駆けて7月28日、メディア向けの試乗会が開催された。
■脱炭素先行モデル地域に選定された松江市
試乗会にあたって松江市の講武直樹副市長が、市のカーボンニュートラルの取り組みについて説明。松江市は環境省による脱炭素先行地域の公募に応募し、初回と2回目には選ばれなかったが、3回目の応募で認定を得ることに成功したという。
脱炭素先行地域とは、2050年カーボンニュートラルに向けて、国全体の2030年度目標(対2013年度比46%削減)を地域特性に応じて実現するモデル地域だ。第3回までの募集で、全国32道府県83市町村の62提案が選定されている。
講武副市長によると、3回目の公募では自治体と民間との連携が不可欠となっており、その際の提案内容には、すでに堀川遊覧船の電動化が含まれていた。堀川遊覧船は乗客数がコロナによって落ち込んだ状態だが、「カーボンニュートラル観光」をテーマとしつつ、今回の電動化によってブランド力を向上していきたいとのこと。
■電動船とエンジン船を実際に試乗して比較
試乗はエンジン船外機を使った従来型の船と、電動推進機をつけた船のそれぞれに分けて行われた。まずはエンジン船に乗船し出発。
堀川遊覧船は開業当初からホンダ製のエンジンを利用しているそうだ。静粛性もあって選ばれたという話だが、正直言って大きな音と感じる。船頭さんがスピーカーを使っての観光案内をしながら船は進んでいくのだが、エンジン音のため乗客から話しかけられても気づきづらいとのこと。船全体の振動もかなり大きい。
次に電動推進機の船に乗船。おどろくほど静かだ。ちゃぷちゃぷと川面が波立つ音や、蝉の鳴き声などもはっきり聞こえて、もはや別物のアクティビティになっていると感じる。船頭さんの案内も今度はスピーカー無しで、乗客との間の会話も自然に行うことができていた。船体の振動も無く低ストレスであり、自然と堀川の情景を楽しむ余裕ができた。
開発責任者の高橋能大氏から伺ったエピソードの中で、特に印象に残ったのは、堀川遊覧船の船頭さんや運営サイドとのコミュニケーションを重視しながら、仕様や要件を決定していったという点。実際に搭載されているモーターは見た目もスタイリッシュで、未来を感じさせるデザインだったのも印象的だった。
??電動化によって新たな展開を期待
江戸時代の風景をそのまま維持した城下町の風景を楽しむことができる堀川遊覧船は、松江市民にとって身近な存在だ。冬季限定の「豆炭こたつ船」や「グルメ船」なども個性的で楽しまれている。
松江市観光振興公社によると、運航開始当初にはそれなりに地域との間で摩擦もあったとのことで、騒音などの問題もあり、現状では夜間の運行などは行われていないが、電動化によって新たなアクティビティが生まれる期待もあり、この先の展開がとても楽しみだ。
今回の実証実験は、カーボンニュートラルな社会への一歩を示すものとなり、ホンダと松江市の環境への取り組みをより強固なものにするだろう。今後の実験結果に期待が寄せられる。
もはや別の乗り物---ホンダが電動遊覧船を島根県松江市で運航開始
2023年08月01日(火) 12時30分