ボルボカーズ、デザイン部門のグローバル・ヘッドに5月1日付けで就任するジェレミー・オファー氏《photo by Volvo Cars》

1月31日、ボルボカーズはデザイン部門のグローバル・ヘッドに5月1日付けでジェレミー・オファーが就任する人事を発表した。現在その職にあるロビン・ページはシニアアドバイザーとしてボルボにとどまる予定だ。

「ジェレミーをボルボカーズに迎えてとてもハッピーだ」と、昨年3月にCEOに就いたジム・ローワン。「迎えて」の言葉からわかるように、内部昇格ではない。しかも既存の自動車メーカーで働いた経験もない。ブラックベリーやダイソンなどの経営に携わってきたジム・ローワンと同様に、ジェレミー・オファーは異業種でキャリアを重ねてきたデザイナーだ。

ジェレミー・オファーは3次元CADソフト会社、デザイン会社、大手コンサルティング会社などで工業デザインやインターフェイスデザイン、ビジネス開発、クリエイティブディレクションを歴任。そして2016年、ロンドンに本拠を置く投資会社のキネティックのチーフデザインオフィサーに就任した。彼のLinkedInページによれば、「起業家のアイデアに投資し、コンセプトから製品まで起業家と協業する投資会社」だという。

キネティックで彼はロンドンのEVスタートアップ、アライバルとの協業を担当。アライバルのチーフデザインオフィサーとしてデザイン組織を編成し、デザインDNAを設定し、さらにデザインから設計、製造に至るプロセス革新を率いた。ここでの6年余りが、彼の唯一のカーデザイン・キャリアである。

アライバルはこれまでに商用バン、バス、小型乗用車を開発し、英米に「マイクロファクトリー」と呼ぶ小さな工場を建設している。しかし製品はまだ運送会社が試験運用した程度だ。2021年に米国NASDAQに上場したものの、その後は株価が低迷し、人員整理も進めるなど、スタートアップの試練に見舞われているようではあるが…。

自動車メーカーの経営トップが交代すればデザインのトップも代わるというのは、とくにヨーロッパではよくあること。ジム・ローワンCEOがジェレミー・オファーに期待するのは、美しいフォルムだけではないだろう。コネクティビティなど、いわゆる「ソフトウエア・ディファインド・ヴィークル」のデザインにはソフトウエアやインターフェイスの知見に加えて、事業開発できるビジネスセンスが求められる。おそらくジェレミーは、それに相応しい幅広いキャリアの持ち主だ。

自動車業界が「100年に一度」の大変革に向かうなか、デザイン部門を率いるのが必ずしもカーデザインのベテランである必要はないことを、今回のボルボの人事が示唆しているのかもしれない。カーデザインの世界にも大きな変革が押し寄せている。