今季で“WECレギュラー勇退”の中嶋一貴が優勝、まさしく有終の美を飾った。《Photo by TOYOTA》

世界耐久選手権(WEC)最終戦の決勝レースが現地6日、バーレーンにて実施され、ハイパーカー・クラスの「トヨタGR010 HYBRID」8号車が優勝、WECレギュラー勇退の中嶋一貴が有終の美を飾った。ハイパーカーのドライバーズタイトルは同7号車・小林可夢偉組が獲得している。

バーレーン・インターナショナル・サーキットにおける2連戦の2戦目、今季最終戦(第6戦)は前週より2時間長い決勝8時間戦である。今季(2021年シーズン)からの新・最高峰クラス「ハイパーカー・クラス」の出走は前戦に続いて3台。LMH(ルマン・ハイパーカー)規定車のトヨタGR010 HYBRIDが2台(#7、#8)に、旧LMP1規定のノンハイブリッド車、アルピーヌA480-ギブソン(#36)が1台となっている。

最終戦を前に、ハイパーカーの世界チャンピオンはチーム部門がトヨタ(TOYOTA GAZOO Racing=TGR)に決定し、ドライバー部門もトヨタ勢の王座獲得が決定済み。焦点はトヨタGR010のシーズン6戦全勝なるかと、トヨタ同門対決のドライバー部門王座の行方である。そこに、突然といっていい「今季限りでのWECレギュラードライバー勇退」を発表した中嶋一貴(#8 トヨタ)の“WECラストラン”という注目要素も加わっている。

予選でポールポジションを獲得したのは、小林可夢偉がアタッカーを務めた#7 トヨタ(可夢偉 / M. コンウェイ / J-M. ロペス)。予選前の3回のフリー走行では#8 トヨタ(一貴 / S. ブエミ / B. ハートレー)が3回ともトップタイムをマークしていたのだが、予選で#7 トヨタが“逆転”した格好である。#8 トヨタは予選2位(#8の予選アタッカーはハートレーが担当)。

ポールポジションを獲得すると選手権ポイントが1点入るが、今回この1点はトヨタ勢同士のドライバーズタイトル争いにおいて大きな意味をもつ1点だった。前戦で3連勝(今季3勝目)を決めたポイントリーダーの#7 可夢偉組が優位な状況で最終戦を迎えていたなか、この1点を彼らが獲ることは、より一層の優位構築につながるからである。

#7 可夢偉組と#8 一貴組は前戦終了時点で15点差。8時間レースの今回は決勝結果に対するポイントが優勝38点、2位27点、3位23点だ。#7 可夢偉組はポールの1点の行く先がどうあれ、決勝2位で自力戴冠という有利な状況をつくっていたわけだが、ポールの1点を獲ったことで(目下16点差)、計算上、決勝3位でも自力王座というかたちになった(#8か#36がポールを獲得した場合、#7の決勝自力戴冠条件は2位だった)。

しかも決勝3位(クラス3位)というのは、実質的には「決勝完走でOK」という状況を意味する。

前季までのLMPドライバーズ部門世界タイトルはLMP1とLMP2の両クラスを対象にしていたが、最高峰クラスがLMP1からハイパーカーにかわった今季はハイパーカーのみでの世界タイトルとしてその座が争われており、ハイパーカー・クラスの出走が3台である以上、クラス順位に4位以下は存在し得ない。つまり、完走すれば最低でもクラス3位は手中にできるのだ。

WECの完走基本要件は、レース総合優勝車の70パーセントの距離を走り、チェッカーフラッグを受けること。#7 可夢偉組が王座獲得にかなり近づいたことがわかる。#8 一貴組の逆転王座獲得条件は、「#7 がリタイア(完走不認定)、かつ自身が完走」というかたちになった(#7がリタイアした場合、#8 は優勝もしくは#36 アルピーヌに負けて2位でもチャンピオンになれる。以上はすべて、手元の計算と理解に基づく)。

決勝レース(路面ドライ)は序盤に予選3位の#36 アルピーヌ(A. ネグラオ / N. ラピエール / M. バキシビエール)がトップを走るシーンも見られはしたものの、20分しないうちにトヨタが1-2態勢にもちこむ。#36 アルピーヌはスタートから1時間が経たない段階でギヤのトラブルらしき状況でガレージインして大きく遅れ、この時点でトヨタ今季6戦全勝の現実味は相当なところまで増した(#36 アルピーヌは最終的にこのレース、6周遅れで総合&クラス3位)。

#7 が先行していたトヨタの1-2ランは、スタートから1時間20分が経過した頃に#8の先行へとかわる。そして8時間レースの最前線は概ねそのままの流れでフィナーレへと収束していくことになる。途中、#8にギヤシフトの問題が出てピットストップ時にステアリング交換をするという場面はあったが、大勢には影響しなかった。

#8 トヨタは4戦ぶりの今季3勝目を達成、中嶋一貴はWECラストランを勝利で飾り(自身通算17勝目とされる)、チェッカードライバーとしてまさしく有終の美に花を添えた。そして#7 トヨタは2位でゴールし、可夢偉、コンウェイ、ロペスはハイパーカー初代のドライバー部門世界チャンピオンに輝いた。#7 トヨタの3人は2019/2020シーズンのLMPドライバーズタイトルに続く“連覇”となっている。

ドライバー部門世界タイトルを獲得した小林可夢偉(#7 トヨタ)
「今日の結果には満足しています。1回目と2回目(のタイトル)を比べるのは難しいですが、再びマイク(コンウェイ)とホセ(ロペス)とともに勝ち獲った世界チャンピオンは最高です。このタイトル獲得を支えてくれたチーム関係者に感謝しています。特に日本からはとても大きなサポートをもらいました」

「8号車は今年毎回とても強く、彼らは最高のライバルでした。ずっとギリギリの戦いをしてきましたが、常にフェアに、お互いに敬意を払いながら戦ってきました。その素晴らしいチームワークが、最高のパフォーマンスを引き出したのだと思います。一貴はここでも最後まで集中を切らさず、素晴らしい走りでした。若い頃から一緒にレースをして育ってきたので、彼がWECキャリアを勝利で締めくくることができたことは嬉しく思っています」

“WECラストラン”を優勝で飾った中嶋一貴(#8 トヨタ)
「このような最高の結果でWECのキャリアを終えることができ、本当に嬉しいですし、最高のチームメイトに恵まれた自分は幸運でした。チームとして最後まで全力で、あきらめることなく戦い続けました」

「ファイナルラップでは、感情を抑えきれず、ドライビングに集中するのが大変でした。トップでチェッカーフラッグを受けることができ、自分自身はレースで勝利して、7号車がドライバーズタイトル獲得、TGRはチームタイトルを獲得(前戦で決定)という最高の結果になりました。本当にみんなの反応が嬉しく、感動しています。チームメイトやTGRの関係者、ずっと支えてくれたすべての人に本当に感謝しています」

中嶋一貴の今後の活動についての詳細は未発表だが、今後も日本、そして世界のモータースポーツやクルマ文化に対する大きな貢献を期待できることは間違いない人材である。WECレギュラードライバー勇退は観る者にとっては残念だが、あらためて今後の彼に期待するとともに、幸多かれ、と祈りたい。

トヨタGR010は6戦全勝でシーズンを終了。同一クラス出走台数の少なさやレース数の少なさという面はあるものの、1-2フィニッシュ4回、毎戦2台で高次元で争いつつのこの結果は讃えられて然るべきものであろう。また、一貴の勇退発表と有終の美に話題をもっていかれた感は否めないが、7号車・可夢偉組がルマン初制覇を含め見事な戦いぶりで果たした連覇であったことは強調しておきたい。。

最終戦におけるLMGTE-Amクラスの日本人ドライバー勢搭乗車の決勝成績は、木村武史の#57 フェラーリ(Kessel Racing)がクラス5位、藤井誠暢と星野敏の#777 アストンマーティン(D’station Racing)が同8位だった。

WECの2022年シーズンは全6戦で、3月に開幕予定。2019年以来となる富士スピードウェイ戦が9月にスケジュールされている。

(*本稿における順位等は、日本時間7日16時の時点でのWEC公式サイトの掲示内容等に基づく)

最終戦優勝の#8 トヨタ(中嶋一貴組)。《Photo by TOYOTA》 最終戦2位の#7 トヨタ(小林可夢偉組)はドライバーズタイトルを“連覇”した。《Photo by TOYOTA》 最終戦、トヨタGR010は1-2フィニッシュでシーズン全勝を達成。《Photo by TOYOTA》 中嶋一貴は“WECラストラン”を見事に優勝で終えた。《Photo by TOYOTA》 大いなる祝福を受ける中嶋一貴。《Photo by TOYOTA》 ハイパーカー初代のドライバー部門世界王者となったのは小林可夢偉らのトヨタ7号車トリオ(中央)。《Photo by TOYOTA》 仲間とともにタイトル獲得を喜ぶ小林可夢偉。《Photo by TOYOTA》