ナビタイムジャパン モビリティ勉強会 阪神電気鉄道編《写真撮影 大野雅人》

きっぷの販売の機械化は進んだが、決済・販売方法は、実は昔とさほど変わっていないという。鉄道で、交通系ICカードの先を行くシンプルなデジタル化に挑むのが阪神電気鉄道(阪神電車)だ。

阪神電鉄は2020年3月から、旅客の利便性向上や磁気券削減に向け、QRコードを用いた「QR乗車券」の実証実験に取り組み、その実用性などを評価。実験結果から、実現に向けた道筋がみえてきた。

ナビタイムジャパンは17日、同社が定期的に開催している「モビリティ勉強会」で、阪神電気鉄道編を開催した。阪神電気鉄道都市交通事業本部電気部の松本康宏勤務課長をパネリストに迎え、「きっぷをデジタルサービスの世界へ〜QR乗車券実証実験の結果を交えて〜」をテーマに、QR乗車券の最新事情を共有した。

◆あらためて、鉄道のきっぷについて知る

普段、何気なく使っている鉄道のきっぷ。この鉄道乗車券について、阪神電鉄 松本課長は「きっぷの販売の機械化は進んだが、検索・決済・販売方法は大昔とさほど変わっていない」と伝え、現状をこう説明した。

「有効日、発駅、運賃、チャージ額など、乗車券としての権利を示す情報を、紙のきっぷである磁気券や(Suica・ICOCAなどの)交通系ICカードに書き込み、それを読み取って処理しているため、駅に設置してある専用の券売機でしかきっぷを扱えず、ネット経由で売ることができない」

今回のQR乗車券実証実験の目的のひとつ、磁気券の削減について松本課長は、高額の初期投資・ランニングコストをあげる。

「磁気券の最大のデメリットは、磁気券を高速処理するための改札機に多額の投資が要る、磁気券処理ユニットの頻繁な保守に多額の経費がかかる、券詰まりトラブルが発生しその復旧に人件費もかかる、磁気券の媒体や機器の長期供給に懸念もある、などがあげられる」

◆低コストで脱磁気化100%を達成できる可能性

そこで阪神電鉄は2020年3月〜2021年2月、大阪梅田・野田・尼崎・西宮・神戸三宮の5駅でQR乗車券の実証実験を実施。QRコードを表示した紙の乗車券や、スマホにQRコードを表示するアプリなどを用意し、ナビタイム経路検索の結果からQR乗車券を購入できるようにもした。

SuicaやICOCAなどの交通系ICカードの次の手としてQR乗車券に目をつけた理由について松本課長は「デジタル対応と脱磁気化に同じ方式で対応できるから」「交通事業者が媒体を安価に発行でき、さらに脱磁気化100%を達成できるから」という。

「ひとつの駅に、磁気券対応改札機を2台・券売機2台・精算機1台というレベルに減らしていきながら、新たな非接触デジタル媒体の利用比率を100%に近づけていく。QR乗車券でいえば、鉄道会社などの交通事業者は、紙のQR乗車券を発行するシステムをつくり、乗客・利用者はスマホアプリでQR乗車券を発行できる。デジタル対応と脱磁気化に同じ方式で対応できる」

◆改札機ではなく、発券サーバ・改札サーバで処理する

阪神電鉄では、今回のQR乗車券をABT(Account Based Ticketing)、従来の磁気券・交通系ICカードをCBT(Card Based Ticketing)とわけ、「サーバ・ネットワークの性能や信頼性の向上で、QR乗車券はじゅうぶん実用的なツールになる」という。

「従来の磁気券・交通系ICカードは、乗車券の中に乗車権利の情報を記録・読み取り・書き換えするには専用の機器が必要だった。これからのQR乗車券は、乗車券のIDをキーとして乗車権利の情報をサーバで管理。インターネットを通じて、ほかのさまざまなサービスとも連携できる」

今回のQR乗車券実証実験の流れは、まずQR乗車券が発券されたさい、乗車券情報が発券サーバに登録される。その情報は改札サーバに即時に連携され、利用者がQR乗車券を改札口でピッとかざすと、改札サーバが乗車券の有効性を判定し、降りる駅の改札口で再びQR乗車券をピッとかざすとゲートが開くというイメージ。

◆店舗・施設のサービスや二次交通とQR乗車券のセット販売も

今回の阪神電鉄のQR乗車券実証実験では、磁気乗車券と同等の処理時間でさっと判定できるか、パッと読み取れるようにQRコードの位置を最適化できるか、QRリーダのサイズを最適化できるか、などが評価された。

また実験中、モバイル乗車券の誤反応や、各種プッシュ通知がQRコードと重複したり、スマホののぞき見防止フィルムで画面の輝度が不足するといった細かな課題もみえてきた。

いっぽうで、実験途中でサーバの処理を高速化し、とくに紙券では判定スコアが大幅にアップ。90%の参加者が「ICカードまたは磁気券と同等」という回答を得たという。そしてスマホの評価がやや低かったのは「表示させる手間」を感じていたようだ。

また、ナビタイム経路検索からQR乗車券を購入できる点などで、他のデジタルサービスとのコラボで「お出かけ」も創出できるといった期待感も得た。

実現にむけて一歩前進したQR乗車券。阪神電鉄 松本課長は、今後の展望と課題について、私見としながらも、「店舗・施設のサービスや二次交通とQR乗車券のセット販売」や、「デジタル上でお出かけ創出」「オフピーク回数券や土休日回数券に代わる、閑散を埋めるお出かけ創出」などをあげていた。

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