ボルボは5月11日、エクステリアデザインの新しいディレクターにT.ジョン・メイヤーが就任したことを発表した。これまで同職にあったマクシミリアン・ミッソーニは、兼任していたポールスターのデザインディレクターに専念する。メイヤーとはどんなデザイナーなのか? そしてこの人事にはどんな意味があるのか?
◆コンセプト・クーペの作者
「彼の業績がすべてを物語っている。電動化するボルボの未来に向けて、チームを引っ張っていくのに最適な人材だ」とデザイン本部長のロビン・ページが語るように、メイヤーは近年のボルボのデザイン改革に大きく貢献してきた。なかでも重要なのは、2013年の『コンセプト・クーペ』のエクステリアを創案したことだ。
コンセプト・クーペは現行世代ボルボ・デザインの先駆けとなったコンセプトカー。35案ものスケッチ提案から4案を選び、さらに2案に絞って原寸大クレイモデルを作った結果、メイヤーが手掛けた案が晴れて2013年フランクフルトショーに出品されることになった。
実はコンセプト・クーペは、それに続く『コンセプト・XCクーペ』、『コンセプト・エステート』を含めた三部作企画の第一弾だったので、もちろんメイヤーはそれらのエクステリアも担当。そしてこの三部作に携わったチームがそのまま『S60』/『V60』/『V60クロスカントリー』を手掛けた。その開発を終えて、メイヤーはアメリカに転勤。今年4月までカリフォルニアのデザイン拠点の責任者を務めていた。
◆ポールスター・ブランドの存在
ボルボは2017年、傘下のポールスターを電動化パフォーマンス・ブランドにすると発表。その第一弾として2019年に発売されたのがPHEVクーペの『ポールスター1』だが、これはコンセプト・クーペのデザインをベースに生まれたものだ。
メイヤーによれば、「コンセプト・クーペをデザインするとき、SPA(60系/90系用プラットホーム)のハードポイントをすべて織り込んでいた」という。「だからポールスター1はコンセプト・クーペによく似ている。最初からパッケージ要件に載せてデザインした結果、それが可能になったのだ」
第二弾となった2020年の『ポールスター2』はBEVの5ドア。こちらのデザインは2016年に『コンセプト40.2』として発表されたコンセプトカーのデザインを、量産に向けてリファインしたものだ。当然ながら、ボルボらしさが色濃く漂う。
ちなみにトールハンマー(ヘッドランプ内のT字型DRL)はコンセプト・クーペに端を発する現行ボルボの目印のひとつだが、ポールスター1/2もそれを備えている。つまりそもそもボルボは、ポールスターのデザインを積極的に差別化しようとは考えていなかったわけだ。
◆ボルボとポールスターの差別化
電動化ブランドとしてスタートしたポールスターだが、ボルボ本体も電動化を急いでいる。今年3月、2030年までにEV専業になる経営計画を発表した。どちらも電動化を掲げるボルボとポールスターが棲み分けていくには、デザインの差別化が必須だ。今回の人事はそれが狙いだろう。
ポールスターに自前のデザインスタジオはないので、そのプロジェクトも実務はボルボのデザイナーやモデラーが担う。それを統括管理するのは、ボルボのチーフデザインオフィサーとポールスターのCEOを兼務するトーマス・インゲンラートと、ボルボ・デザイン本部長のロビン・ページだ。
ページの下にエクステリア、インテリア、カラー&マテリアル、ユーザーインターフェイスのディレクターがいるわけだが、以前はポールスターのプロジェクトでも各ディレクターはページにレポートしていた。しかしメイヤーが新たにエクステリア・ディレクターになり、彼はボルボのエクステリアについてページにレポート。ポールスター専任になったミッソーニは、CEOのインゲンラートに直接レポートする。レポートラインが整理されたので、少なくともエクステリアに関しては、ボルボとポールスターがそれぞれの独自性を発揮しやすくなるはずだ。
◆メイヤーという逸材
T.ジョン・メイヤーは米国コネチカット州生まれ。名門カーネギーメロン大学で工業デザインを専攻すると共に、副専攻では経営管理を学んだ。さらにカリフォルニアのアートセンター・カレッジでカーデザインの専門教育を受け、2006年にフォードに入社。そこで上司のアンドレアス・ニルソンに出会ったことが、ボルボで働くことになるきっかけだった。
ニルソンはボルボがフォード傘下だった時期にフォードに異動したデザイナーで、中国のジーリー・ホールディングスがボルボを買収した2009年にボルボに戻った。メイヤーはそのニルソンに誘われて、2011年にボルボに移籍したのである。
2011年当時のボルボのデザイン本部長はピーター・ホルバリーだったが、彼がジーリーのデザイン統括役員に転身したため、その後任として2012年にインゲンラートがVWから移籍。彼はVWグループのベントレーからページを、VWからミッソーニを招き、ページがインテリア、ミッソーニがエクステリアを担当する体制を構築した。ページが本部長に昇進したのは、インゲンラートがポールスターのCEOに就任した2017年のことだ。
ちなみに前出のニルソンはボルボに戻ってショーカーやデザイン戦略を手掛けた後、2017年からジーリーのスウェーデン・スタジオでLYNC & COブランドのデザインディレクターを務めている。ホルバリーが雇ったデザイナーで、ボルボ本社のディレクターの座にいるのはメイヤーだけ。インゲンラートやページにとって、メイヤーがいかに大事な逸材であるかがわかるというものだ。
ボルボのデザインに新ディレクター、狙いは「ボルボとポールスターの差別化」か?
2021年05月19日(水) 11時30分
関連ニュース
- ポールスター初の電動SUV『3』、生産開始…航続610km (03月02日 09時00分)
- リアウィンドウがない! 新型電動SUVクーペ『ポールスター4』 (02月05日 12時15分)
- [15秒でわかる]ポールスターがグーグル搭載EVの新機能を披露…CES 2024 (01月17日 10時30分)
- EVセダン『ポールスター2』、グーグルの新機能を採用…CES 2024 (01月10日 16時50分)
- 884馬力の高性能4ドアEVクーペ、ポールスター『5』…市販モデル発表 (11月10日 19時30分)