トヨタのセバスチャン・オジェ(右端)が2020年のWRCドライバーズチャンピオンに(左端はコ・ドライバーのジュリアン・イングラシア、中央はトヨタ陣営を率いたトミ・マキネン)。《写真提供 TOYOTA》

世界ラリー選手権(WRC)最終戦「ラリーモンツァ」が6日にフィニッシュし、トヨタのセバスチャン・オジェが自身2年ぶり7回目のドライバーズタイトル戴冠を果たした。マニュファクチャラーズタイトルはヒュンダイが2年連続で獲得。勝田貴元が初のステージウインを成している。

やはりコロナ禍に影響されつつ進んできたWRCの2020年シーズン。カレンダーは変更また変更という流れを余儀なくされ、10月に前戦、イタリア・サルディニア島での第6戦を終えた段階では2戦が残っていたのだが、その後で11月のベルギー戦がキャンセルになり、今回のラリーモンツァ(イタリア)が最終戦としての位置づけは変わらずも第7戦としての開催という格好になった。

ラリーモンツァはF1イタリアGP開催サーキットとして知られる「アウトドローモ・ナツィオナーレ・ディ・モンツァ」を中心に実施されるラリーで、もともとはショー的要素も強い、シーズン末の単発ラリーイベントとしての伝統を有するという。

今年はWRC最終戦として、近郊の山岳路でのスペシャルステージ(SS)も設けられることになった。基本的にはターマックラリー(舗装路戦)とされるが、サーキット施設内の非舗装路等も走っている(古いオーバルコース跡地=舗装路も組み込まれている)。

ドライバーズチャンピオン争いは、前戦終了時点で数字的には5人に可能性が残っていたが、1戦減ったことでポイントランキング5位、トヨタ(TOYOTA GAZOO Racing WRT=マシンはヤリスWRC)勢のひとり#69 カッレ・ロバンペラは脱落。上位4人の戦いに絞られたが、ヒュンダイ(HYUNDAI SHELL MOBIS WORLD RALLY TEAM=マシンはi20クーペWRC)勢のランキング3位#11 ティエリー・ヌービルと同4位#8 オット・タナクもかなり厳しいところに追い込まれた。WRCは個人の一戦あたり最大獲得ポイントが30で、ヌービルは首位と24点差、タナクは28点差だ。

ランキング1〜2位はトヨタ勢。自身初王座を目指す#33 エルフィン・エバンスが111点で首位、これを14点差の97点で過去6冠の#17 セバスチャン・オジェが追う。実質的にはこのふたりの戦いか。ヒュンダイとしては、208対201でトヨタをリードしているマニュファクチャラーズタイトル争いの連覇の方が最終戦の主眼といえるかもしれない。

ドライバーズタイトルのトヨタ同門対決に話を戻すと、仮に追う#17 オジェが最終戦モンツァでフルマーク30点(優勝25点+最終パワーステージ1位の5点)をゲットした場合でも、逃げる#33 エバンスはラリーの2位(18点)を得さえすれば初戴冠が決まる。ラリーで3位(15点)、パワーステージ4位(2点)で計17点獲得でもOK、#33 エバンスが有利なことは間違いない(なお、マニュファクチャラーズタイトル争いにパワーステージのポイントは入らない)。

注目のラリーモンツァは現地12月3〜6日に開催された。雨や雪、そして低温に悩まされるラリーとなり、アクシデントやそれに起因するトラブル等が多く見られる展開となっていく。タイトルの可能性を残すひとり、ヒュンダイの#11 ヌービルは早期に王座戦線脱落確定ということに。

そして、最大級の衝撃を伴うアクシデントが土曜(5日)、雪に見舞われたSS11で起きる。ここまでラリーの順位で3番手(首位#17 オジェから7.5秒差)につけていた選手権リーダー、#33 エバンスがコースオフしてデイリタイアに……。彼の初戴冠の可能性は大きくしぼみ、トヨタにとっても逆転でのマニュファクチャラーズタイトル奪還(2018年以来の獲得)が難しい状況となった。

競技最終日の日曜(6日)、ラリーの首位でこの日を迎えたのは#17 オジェである。2番手との差は17.8秒。#33 エバンスも再出走したが、もはやラリーの順位でのポイント獲得は事実上不可能であり、最終パワーステージ(SS16)で最大の5点を狙うしかない。ただ、仮にそれを果たしたとしても、今や#17 オジェがこのままラリーで優勝しさえすれば戴冠決定の状況である。

2013〜18年にWRCで6年連続王座獲得の実績を誇る#17 オジェは最終日をしっかり走って今季2勝目、自身2年ぶり7回目のドライバーズタイトル獲得を達成した。オジェの長年の相棒、ジュリアン・イングラシアも2年ぶり7回目のコ・ドライバー部門王座を獲得している。

2020年WRCドライバーズチャンピオン:セバスチャン・オジェ
「もちろん、今日はとても良い日だ。信じられないような週末だったし、本当に、本当に難しいラリーだった。ここに来た時、我々はこのラリーで勝つことだけを考えていた。序盤はかなりの接戦だったが、自分たちの計画に従って攻めの走りを続け、(ヒュンダイ勢に)プレッシャーをかけ続けた」

「エルフィン(エバンス)に起こったことは、マニュファクチャラーズタイトル獲得を狙う我々(トヨタ)にとって非常に大きな事件だったし、素晴らしいシーズンを戦ってきた彼とスコット(マーティン=コ・ドライバー)に同情を禁じ得なかった」

「私が獲得した7回目のドライバーズタイトルはチームが成し遂げたものでもあり、彼らなしでは実現できなかったことだ。感謝している。そして、キャリアの延長として戦う2021年が今から楽しみだ」

12月17日で37歳となるオジェは、2013〜16年にフォルクスワーゲン、17〜18年はMスポーツ・フォードで戴冠を果たし、19年は古巣でもあるシトロエンに移って7連覇を狙ったがこれは成し遂げられず。今季に向けてトヨタに加入した(オジェ離脱により、シトロエンはワークス撤退を決めたとされる。その後オジェのトヨタ入りが発表された)。

同じフランスのセバスチャン・ローブの9回に次ぐWRC王座獲得回数をオジェは7に伸ばした。オジェには今季限りでの引退の意向があったとされるが、最近、来季もトヨタで現役を続けることを表明している(1年契約といわれる)。

最終戦モンツァの2〜3位はヒュンダイ勢で、2位が#8 タナク、3位は#6 ダニ・ソルド。ヒュンダイは2年連続のマニュファクチャラーズタイトル獲得を達成した。タナクに関してはわずかに逆転ドライバーズタイトル(トヨタ在籍時の昨季に続く自身2連覇)の可能性も残されての最終日だったが、ヒュンダイ勢として初のドライバーズタイトル獲得は叶わなかった。

最終的な今季ドライバーズランキングの2位はエバンス、3位がタナク。

日本の#18 勝田貴元(トヨタ・ヤリスWRC)は競技初日の木曜(3日)、唯一実施されたSS1を完走できず、翌日から再出走してラリーの最終結果は20位だった。ただ、最終パワーステージで1位となり、自身初のWRCステージウインを果たしている。

今回の最終パワーステージに関しては、タイトル戦線にあるトヨタやヒュンダイの強豪たちがラリーの順位を守る必要に迫られるなどしており、マキシマムアタックモードではなかった選手もいたと見られる、などの“背景”もあるが、これは殊勲といっていいだろう。来季以降の飛躍につなげていってほしいところだ。

例年のほぼ半分程度のラウンド数で終わった2020年のWRC。続く2021年シーズンは例年通り、1月にラリーモンテカルロで開幕し、“復活新生”ラリージャパンを含む全12戦の予定が現段階で組まれている。

(順位等は日本時間7日朝の時点のもの)

左がコ・ドライバーの今季世界王者ジュリアン・イングラシア、右がドライバーの今季世界王者セバスチャン・オジェ。《写真提供 TOYOTA》 最終戦優勝、王座も獲得した#17 オジェ(トヨタ)。《写真提供 TOYOTA》 オジェとイングラシアの王座を喜ぶトヨタ陣営。《写真提供 Red Bull》 最終戦2位の#8 タナク(ヒュンダイ)。《写真提供 Red Bull》 マニュファクチャラー部門王座を2年連続で獲得したヒュンダイ陣営。《写真提供 Red Bull》 #18 勝田貴元(トヨタ)が初のステージウインを達成した。《写真提供 Red Bull》 残念な結果になったエバンス。来季以降の王座獲り再挑戦に期待。《写真提供 TOYOTA》