NTTル・パルク「ノッテッテ」《画像提供 NTT東日本》

NTT東日本とその関連会社であるNTTル・パルクは、グループが保有する社有車やビルのスペースを活用し、業務で空いた時間に地域企業や自治体、住民の方向けにカーシェアリングサービス「ノッテッテ」を5月21日よりスタートさせた。NTT東日本が取り組む、そのサービスの目的や将来への可能性を担当者にオンラインインタビューで取材した。《会田肇》


時代は所有することから使うことを重視する考え方にシフトが進み、特に現在はソーシャルメディアの普及を背景に遊休資産を活用するシェアリングエコノミーの普及・拡大が世界的に進んでいる。一方で自動車を取り巻く環境が“100年に一度の大変革期”にあると産業全体がザワザワしている。そうした中で、今回、NTT東日本がカーシェアリングサービスに参入した理由はどこにあったのだろうか。

今回のサービスについてお答えいただいたのは、NTT東日本、経営企画部シェアリングエコノミー推進PT担当課長の北島友貴さんだ。北島さんがその回答としてまず語ったのが、「重視したのは“地域への貢献”」ということ。北島さんによれば、「NTTグループは各地域に拠点を多く持っているが、これまでは空いているフロアをコンビニに貸し出す程度のことで、(地域貢献という視点では)十分ではなかった」と振り返る。そうした状況下で「我々が持っている資産を地域の貢献にもっと活用していくべき。通信分野以外の貢献にも目を向けていこう」というビジョンを紹介してくれた。

歴史を振り返ると、NTT東日本は旧日本電信電話公社時代の資産を引き継いだこともあり、各地域の一等地に数多く保有している。それだけに“NTT”の存在感は全国レベルに高い。NTTが地域に貢献するサービスを行っていると知れば、多くの人に安心して利用してもらえるはずだ。そこでその第一弾として2019年10月からはNTT東日本グループの各拠点の駐車場を使い、車中泊スポットとして貸し出すサービスに参入した。今回のカーシェアリングサービスはその第二弾としてスタートさせるものとなる。

実はNTT東日本グループが保有する業務用車両は約8000台にも及ぶ。この中には高所での作業を行うバケット車なども含まれるが、誰でも運転できる車両が大半だ。北島さんによれば「平日こそ業務で使われるが、土日祝日となればただ駐車場に留まっているいることがほとんど」だという。この時間帯に業務車両を各地域の人たちの利用してもらえば、“地域の足”として還元できるのではないか。今回のサービスを開始するに当たってNTT東日本はそう考えたのだ。

今回のサービスをスタートさせるにあたってはNTT川崎北ビル(神奈川県川崎市/最寄り駅:武蔵小杉)1カ所のみだが、北島さんは「今年度中に首都圏を中心に50台程度を配備するべく、運営するNTTル・パルクと話を進めているところ」と話す。首都圏で先行するのは需要の高さを踏まえた上で決められたものだが、「決して地方で展開しないというわけではなく、状況を見ながら対象エリアを広めていく」(北島さん)と話す。

となると“NTT”のビッグネームを活かしてNTT東日本としてカーシェアリングの大手を目指す、そんな構想はあるのだろうか。そんな疑問に対して北島さんは「いいえ、目指すのはあくまで地域への貢献。利益ありきでこのサービスを展開するのではなく、極端に言えば収支がトントンでもいいと考えている」と答えた。

今回のコロナ禍でマイカーを手放した人も少なくないと聞くが、それでも公共交通機関が脆弱な地方では日常の足となるクルマは欠かせない。かといって、収益を重視するカーシェアリングサービスではこうしたエリアでの展開は難しいかもしれない。そこにNTT東日本の“地域への貢献”が生きてくる。

また、環境負荷の低減にも貢献するためにNTT東日本では現在、EVをはじめとする低炭素車両の導入を進めている。これはカーシェアリングにも適用する予定で、北島さんによれば「全体の半数近い4000台前後はEVないしPHEVの導入を想定している」という。さらに新型コロナウイルス流行下においては不特定多数が利用する公共機関を避けたいと考える人も多く、一方でシェアリングに対する衛生管理も求められる。そこで今回のカーシェアリングサービスでは除菌スプレーを車内に配備し、定期的な清掃による除菌作業等も行うことで、そうした不安を取り除くことにした。

そして、カーシェアリングサービスで避けて通れないのがクルマを動かすために必要となる鍵の受け渡しだ。大手ではあらかじめ会員に専用カードを渡しておき、予約したときにそのカードをかざすことで利用できる。しかし、社用車として業務に使っている車両を混在しながらシェアする今回のサービスでこの方法は馴染まない。そこで採用したのがスマホをクルマの鍵としてつかう「バーチャルキー」だ。この鍵は専用アプリ上で展開できるため、思いついたときに会員登録し、そのまま予約すればすぐに利用が可能となる。

北島さんはバーチャルキーを採用したメリットとして「社員が出張先でクルマを使いたくなったとき、社員用のアプリで空き状況を確認して予約するだけで他の拠点の社用車でも使うことができる。車両を管理する総務担当の介在なしでフレキシブルな使い方が可能になる」と、業務の効率化につながることを挙げた。実際に「ノッテッテ」アプリをダウンロードして会員登録後に、バーチャルキーでのクルマの借り出しを行ってみたが、アプリ上の指示に従っていけば簡単に解錠し、そのままEVの電源スタートもできた。アプリ上ですべてが完結するので、利用上での迷いも一切なかった。むしろ、あまりにスムーズなことに驚いたほどだ。

これから先、人口の減少によって地域の公共サービスはますます苦しくなっていくと言われる。特に利用者減少に伴い、バスやタクシーなど公共交通機関は補助金なしで運営するのは困難な状況だ。そんな中で、NTT東日本が展開するカーシェアリングサービスが“地域への貢献”に果たす役割は大きいはずだ。北島さんは「カーシェアリングが各地域でのインフラとして根付いてほしいと思っている」と話し、そのために「地域の要望を聞きながら進めたい」と締めくくった。

NTTル・パルク「ノッテッテ」《画像提供 NTT東日本》 NTTル・パルク「ノッテッテ」《写真撮影 三浦和也》 NTT東日本では現在、EVをはじめとする低炭素車両の導入を進めている。《写真撮影 三浦和也》 NTTル・パルク「ノッテッテ」《写真撮影 三浦和也》 NTTル・パルク川崎小杉町第1駐車場《写真撮影 三浦和也》 NTTル・パルク「ノッテッテ」《写真撮影 三浦和也》 NTTル・パルク「ノッテッテ」《写真撮影 三浦和也》 NTTル・パルク「ノッテッテ」《写真撮影 三浦和也》 ノッテッテ