ヘルスケアモビリティと、左からフィリップス・ジャパンの堤浩幸社長、モネ・テクノロジーズの宮川潤一社長、伊那市の白鳥孝市長《撮影 山田清志》

フィリップス・ジャパンは11月26日、医療とMaaSを実現するためのヘルスケアモビリティを製作し、長野県伊那市と連携して12月から移動診療の実証実験を開始すると発表した。看護師を乗せた車両が患者の自宅を訪問し、車両内で医師によるオンライン診療を行う。

同社は「2030年までに30億の人々の生活を向上させる」をビジョンに掲げ、健康な生活、予防、診断、治療、ホームケアにいたるヘルスケア領域のすべてにおいて革新的なソリューションの構築を目指している。今回の実証実験もその一環で、「モバイルとモビリティ、これを医療の現場で具体化していこうというものなんです」と堤浩幸社長は強調する。

車両はトヨタ自動車やソフトバンクなどが出資するモネ・テクノロジーズと共同で、トヨタの『ハイエース』をベースに開発を行った。オンライン診療で使うビデオ会議システムをはじめ、心電図モニター、血糖値測定器、血圧測定器、パルスオキシメーター、AEDなどを搭載した。

その車両に看護師らが乗車して患者の自宅などを訪問し、車両内のテレビ電話により医師が病院から患者を診察して、看護師が医師の指示に従って患者の検査や必要な処置を行う。まずは慢性的な疾患を持つ人を対象にオンライン診療を行っていく。

「このクルマは第一歩で、まだヘルスケアという領域を越えていない仕様になっている。本当は移動型クリニック、移動型調剤薬局というところまでやりたい。いまはまだまだ規制が緩和されていないところがあるが、クルマがこれから自動運転の時代になり、クルマの中でやれることがたくさん増えていくと思う。その中で、過疎地の医療というものを本気で考えたい」とモネ・テクノロジーズの宮川潤一社長は意気込みを語る。

実証実験は2021年3月まで行われ、オンライン診療のほか、医療従事者の職種を横断した情報共有クラウドサービスの導入・運用、オンラインでの服薬指導(薬事法の改正後に実施予定)を実施する。そして、21年4月以降はオンライン診療や服薬指導・処方の高度化を進め、ヘルスデータの利活用による地域全体のシステムへと発展させる。

「今後、AIの活用なども出てくると思うが、まずはオンライン診療をやっていく。そして中期的にもっと最適化していく。データを分析しながら、もう一歩踏み込んだ患者目線の新しい医療を構築していく」と堤社長は説明し、「今回はトヨタのハイエースがベースだが、それぞれのニーズに応じて小さい車両から大きな車両まで用意していき、日本全国を走らせていきたい」と付け加える。

しかし、それを実現するにはいくつもの壁を乗り越える必要がありそうだ。今回の車両開発でも一番苦労したのが規制をクリアすることで、家庭で置けるような機器しか搭載できなかったという。

日本は現在、高齢化の加速、医療施設・従事者の不足、医療費の肥大化など深刻なヘルスケア課題に直面している。その課題解決のためにも、高度な医療ができる車両が運用できるように規制をもっと緩和するべきではないだろうか。

ヘルスケアモビリティの内部《撮影 山田清志》 フィリップス・ジャパンの堤浩幸社長《撮影 山田清志》 フィリップスのヘルスモビリティが目指す姿《撮影 山田清志》