2019年WRCドライバー部門王者のタナク(右)と、コ・ドライバー部門王者のヤルヴェオヤ(左)。《撮影 遠藤俊幸》

20日、2019年の世界ラリー選手権(WRC)でドライバーとコ・ドライバーのチャンピオンを輩出するなど活躍したトヨタ(TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team)の首脳や選手たちが、都内にて「シーズンエンド取材会」を実施した。

全14戦がスケジュールされていた今季のWRCは、最終戦オーストラリアが森林火災の影響で中止になり、そのまま終幕というかたちに。今季がワークス参戦再開3年目だったトヨタは、最終戦に逆転でのマニュファクチャラーズタイトル連覇を狙っていたが、そのチャンスは消滅し、ヒュンダイが初戴冠を果たすこととなった。

ただ、ドライバーとコ・ドライバーの両タイトルはトヨタ勢の獲得が第13戦スペインを終えた段階で決定済み。「ヤリスWRC」の8号車で戦ったオット・タナク(ドライバー)とマルティン・ヤルヴェオヤ(コ・ドラ)が戴冠を決めている。

今回の取材会にはチームを率いるトミ・マキネン代表(現役時は1996〜99年に三菱でWRCを4連覇)、タナク&ヤルヴェオヤの両王者、ヤリス10号車のドライバーであるヤリ-マティ・ラトバラ(コ・ドラのミーカ・アンティラは都合で欠席)、ヤリス5号車のクリス・ミーク(ドライバー)とセブ・マーシャル(コ・ドラ)、GR統括部モータースポーツ推進室長の市川正明氏、WRCエンジン・プロジェクト・マネージャーの青木徳生氏が出席した。

トヨタにとってWRCドライバーズチャンピオン輩出は1994年以来、四半世紀ぶりである。トヨタでの自身2シーズン目に頂点を極めたタナク(今季6勝)は、「自分のキャリアには困難な頃もあったが、トミ(マキネン代表)が率いるトヨタという素晴らしいチームに加入し、こうしてタイトルを獲得することができた。夢が叶い、幸せに感じている」と、あらためて自身初戴冠の喜びを語った。

タナクは「ヤリスWRC」の進化について、「この2年で、我々選手も含めた“パッケージ”としてすごく強くなったと思う。もちろんいろいろなこともあったけれど、今季は常に『勝てる自信』をもち続けて戦うことができた。ヤリスにはどこのラリーに行っても速さがあった」とコメントしている。

マキネン代表も「ヤリスには常にスピードがあり、ステージ勝率も高かったと思っています」と今季の自分たちの武器を評し、その上で「3年目も多くの“学び”がありました」と話す。市川氏は「もっといいクルマづくりに向けてのカイゼンの積み重ね」が奏功したことに言及、ただしマニュファクチャラーズ王座連覇がならなかったことについては「リタイア(デイリタイア含む)が少なくはなかった」との旨を語り、来季以降へのさらなるカイゼンを誓った。

エンジンを手掛ける青木氏は、「エンジンはクルマの一部、クルマとの一体感が大事だということがあらためて分かったシーズンでした。使いやすいクルマというところに貢献できるエンジンだったと思います」と今季を振り返る。王者タナクのコメントにも通ずる部分であり、やはりパッケージとしての全体進化がタナクのチャンピオンロードを強く支えたといえそうだ。

また、今季からトヨタに加入したミーク(#5)は、最終戦開催予定地だったオーストラリア東部を気遣う心情とライバル(ヒュンダイ)への敬意を踏まえた上で、「もし最終戦を戦うことができていたら、もうひとつのタイトル(マニュファクチャラーズ)もトヨタが(逆転で)獲得できていたのではないかと思う」と話し、チームの力の充実ぶりを強調している。

さて、既報だがタナクとヤルヴェオヤの王者コンビは来季2020年をヒュンダイに移籍して戦うことが決定済みだ。そのこともあってか、今回の取材会では「来シーズンについての質問はお控えください」とのお達しが質疑応答の前に為されている。まるで熱愛報道の渦中にある芸能人が映画やCMの発表会見に出た状況を思わせる一幕で、モータースポーツ関連の会見では珍しいといえるだろう。

タナク組の離脱はトヨタと日本にとってもちろん残念だが、こういうダイナミックな移籍劇が起きるのも世界のトップシーンの魅力だ。来季はライバルとして競うことになるタナク&ヤルヴェオヤとトヨタ陣営首脳らには、お互いの決意と敬意を確かめ合う雰囲気が醸し出されていたようにも思えた。

2020年はWRCに日本戦(ラリージャパン)が復活するシーズン。トヨタのお膝元ともいえる愛知・岐阜でのWRC開催は初めてだ。なおかつシーズン最終戦としての開催になる。

市川氏は「もっといいクルマづくりに役立て、ファンのみなさんに喜んでいただくのがトヨタのモータースポーツ活動です。来年のWRCは最終戦が日本ですから、そこで3つのタイトルを獲った祝杯をあげたいと思います」との抱負を語っている(豊田章男トヨタ社長も今季最終戦中止直後の声明で同義の内容を語った)。

2020年のWRCは1月23〜26日にモンテカルロ戦で開幕、11月19〜22日のラリージャパンまで全14戦で争われる予定だ。

2019年WRC王者 #8 オット・タナク(トヨタ・ヤリスWRC)。《写真提供 TOYOTA》 取材会の登壇者たち。左から市川氏、マキネン代表、タナク、ヤルヴェオヤ、ラトバラ、ミーク、マーシャル、青木氏。《撮影 遠藤俊幸》 2019年のWRCを戦ったトヨタ陣営の面々。向かって右の3人がドライバーで、左からタナク、ミーク、ラトバラ。《撮影 遠藤俊幸》 トヨタのドライバーズチャンピオン輩出は1994年以来。《撮影 遠藤俊幸》 王者タナク、来季はヒュンダイで走り、トヨタのライバルとなる。《撮影 遠藤俊幸》 来季はWRCラリージャパン復活元年に。《撮影 遠藤俊幸》 ワークス参戦再開4年目の2020年も、トヨタには多くの勝利を飾る活躍が期待される。《撮影 遠藤俊幸》