ITRのゲルハルト・ベルガー会長《撮影 石川徹》

SUPER GTのGT500とDTMに共通の「クラス1」テクニカルレギュレーションは、SUPER GTを取りまとめるGTアソシエイションとDTMのオーガナイザー「ITR」が中心となって完成させた。ドイツ側の中心人物が、元F1ドライバーのゲルハルト・ベルガーITR会長だ。

F1時代は長くホンダと共に戦った同氏は、常々日本には特別な思い出がある、と語る。ホッケンハイムリンク、そして富士スピードウェイでの交流戦を前に、「クラス1」の立役者であるベルガー氏に話を聞いた。

◆「日本人と一緒に仕事をするのには慣れている」

----:昨年6月に、ノリスリンクで「クラス1」レギュレーションの合意が発表されましたね。それから1年、いよいよ交流戦が迫ってきました。色んな苦労があったのでは?

ベルガー氏(以下敬称略):かなり中身の濃い仕事ではあったけど、苦労はなかったね。日本の自動車メーカーや(GTアソシエイション会長の)坂東さんとの共同作業はすごくにスムーズに進んだよ。最初は信頼関係を築き上げる必要があったけど、ミーティングを重ねながらお互いを理解し、譲歩すべき所はして、一緒に一つのモノ、「クラス1」レギュレーションをつくったんだ。(F1の)現役時代はホンダで走ってただろ? 知ってるよね(笑)だから、日本人と一緒に仕事をするのには慣れているし、いつもいい印象を持っているから大きな問題は無かったよ。

----:以前お会いした時も「過去の経験から、時間をかけて相互理解を深めていった」とおっしゃっていましたね。

ベルガー:日本人のやり方って、最初はすごく注意深くゆっくり始めるだろ。で、いったん決まると、スピードアップする。そういうものだと理解してる。

----:およそ7年の準備期間を経て、いよいよ2つのシリーズのマシンが「クラス1」としてホッケンハイムでの交流戦に臨みます。今のお気持ちは?

ベルガー:今年はまだ、2つのシリーズのマシンに(テクニカル)レギュレーション上、比較的大きな違いがあるけど、来年は(SUPER GTのレギュレーションが新しくなって)ほぼイコールになる。日本では長距離を走るので大きな燃料タンクを搭載しているけど、それ以外は同じ規格のマシン。そうなると、マニュファクチャラーは1台分の開発コストで日本/アジアと欧州、2つの大陸で使用できるマシンを開発できる。これは、我々の努力の大きな成果だ。ここまで来られて、本当に嬉しいね。

----:今後「クラス1」は、グローバルに広がっていく可能性があるわけですね?

ベルガー:色々なアイディアを持ち寄って、我々はその(クラス1という)基礎を用意した。まず今年、交流戦を2回やってみよう。次のステップについては、その結果を見て考えるのがいいね。

----:「クラス1」に関わって、一番難しいと感じたのはどういった部分でしょうか?

ベルガー:それは、「ネクストステップ」だね。これからが最も難しいステップなんだと思う。たくさん努力をして「クラス1」レギュレーションという一つの結果を生み出した。今後、それを上手く機能させて、実際にレース行う。そしてシリーズを運営する仕事が待っている。どんな活動であっても、投資をしたらそれに見合う見返りを得なくちゃいけないだろ。「クラス1」も、これまでの我々の努力と言う投資に対するリターンを得るのはこれからで、それが一番大変なんだと思う。

----:なるほど。では、ベルガーさんの期待する「リターン」とはどんなものですか?

ベルガー:色々あるけれど、まずはできるだけ多くのレースを(DTMとSGTで)一緒にやる事だね。ヨーロッパのメーカーのマシンが日本でレースに出たり、日本のマシンがヨーロッパに来たり。色々な可能性のための基礎を我々がつくり上げたから、それを基に色々な活用をしたいと思っている。

----:「クラス1」をもっとグローバルにする希望も持っていますか?

ベルガー:とにかく、「クラス1」によって新しいアイディアの基礎ができたんだ。これからは、日本のパートナーがどのような希望を持っていて、それをDTMの方向性とどう融合できるか。良く考えて、方向性を話し合っていきたいと思っている。

◆開催国はステップバイステップで

----:DTMについて聞かせてください。メルセデスが撤退してアストンマーティンが新規参入しました。DTMの現状には満足していますか?

ベルガー:新しい2リットル4気筒エンジンの採用など、今シーズンはDTMにとって過渡期。チームは信頼性やバイブレーションの問題など、解消すべき課題を抱えており、このエンジンの使い方も学習しているところだと思う。アストンマーティンは参戦を始めたばかりで、最初はラップタイムが1周当たり2秒も遅かったりしたけど、その差はコンマ6秒ほどに縮まって戦闘力が上がっている。良い事だね。だから、全般的にいいシーズンだと思う。観客も増えたし、TVの視聴者数も増えているしね。

----:来シーズンはDTMのモンツァでの開催が発表されましたね

ベルガー:ヨーロッパでの地位をより強固にするのも、今のDTMにとって大切なんだ。ドイツをはじめ、ヨーロッパの国々では既に人気のあるシリーズに成長したけど、イタリアではもっと認知度を上げないといけない。だからモンツァでの開催は(これまでのミサノよりも)重要なステップになる。あと、モンツァには長いストレートがあるから、レース自体もエキサイティングになるよ。

----:すでに、DTMはイギリス、オランダ、ベルギー、イタリアで開催されていますね。過去にはロシアでも行われていました。今後、フランスはいかがですか?

ベルガー:もちろん検討のリストには上がっているけど、ステップバイステップでやっていくよ。

----:アジアは考えていませんか?

ベルガー:日本を含めアジアでは、「クラス1」のシリーズとしてSUPER GTがあるから、DTMは開催しないと思う。アウディ、BMWやアストンマーティンが日本でレースをする場合は、「クラス1」のマシンでSUPER GTに出られるわけだから。

----:では最後に、日本のSUPER GTとDTM、それから、あなた自身のファンにメッセージをお願いします。

ベルガー:まだ僕のファンは日本にいるよね? 歳をとった世代のみなさんかもしれないけど…(笑) みなさん、富士でお会いしましょう! そして、昔の(F1時代の)ように僕を応援してください。僕たちが一緒に行くDTMのマシンと、SUPER GTのマシンが一緒に走るレースを観て過ごす週末は、素晴らしい時間になるでしょう。それから、歴史的な出来事でもあります。その日は、僕も日本からヨーロッパのファンに、素晴らしい興奮を伝えられるようがんばります!


F1の現役時代はその明るいキャラクターとアイルトン・セナのチームメイトとして、日本でも人気のあったゲルハルト・ベルガー「選手」。現役を退いて、DTMのオーガナイザーである「ITR」の会長になった今も、その気さくで明るい笑顔は変わっていない。日本人を知り、日本人を信頼できる彼が「クラス1」の成立に果たした役割は、計り知れないだろう。11月の富士では、またゲルハルト・ベルガー氏の笑顔を見られるだろう。過渡期を経て新しいメーカーも参入し、ますます発展しているDTM。「クラス1」レギュレーションの成立によって、SUPER GTもますます大きくなってくかも知れない。

DTM ニュルブルクリンク《撮影 石川徹》 DTM ニュルブルクリンク《撮影 石川徹》 DTM ニュルブルクリンク《撮影 石川徹》 DTM ニュルブルクリンク《撮影 石川徹》 DTM ニュルブルクリンク《撮影 石川徹》 DTM ニュルブルクリンク《撮影 石川徹》