投資先のライドシェア各社で乗車回数が急増していることを説明する孫氏

7月19日、都内において「SoftBank World 2018」(ソフトバンクワールド2018)が開幕した。ソフトバンクグループの幅広い取り組みをアピールする年に一度のショーケースだ。

開幕を飾る基調講演には、今年も孫正義氏が登場した。今年は特に投資家としての活動がクローズアップされることが多かったが、自動車関連でも、世界中のライドシェア大手各社(Uber、滴滴出行、Grab、OLA)や自動運転の「Cruse」(GM系)に多額の出資をしている。そのなかで孫氏は何を語るのか、注目が集まった。

■AIが産業を再定義する

今年の基調講演のキーワードはAI(人工知能)だった。孫氏は「AIがあらゆる産業を再定義する」とし、ステージに登場した滴滴出行プレジデントのジーン・リウ氏もこう応えた。

「滴滴出行のAIは、膨大な集積データによって成長している。1日あたり1.2億マイルのマイレージ、走行軌跡データは一日100TB以上、経路探索リクエストは1日400億回以上のデータを蓄積している」

「これらのデータをもとに、AIによる精度の高い配車需要予測や、Car Pool(相乗り)による料金の抑制を実現している。また、都市の渋滞緩和にも貢献できる。実証実験では実際に10-20%の渋滞を緩和することができた。さらに、運転疲労度やスピード違反などを分析し、ドライバーにフィードバックして安全性を高めた」

このように、ライドシェア事業者が膨大なデータをAIで分析し、企業価値に還元している事実をふまえ、日本でライドシェアが認められていない現状について孫氏は「既存の業界を守り、未来を否定している」と強い口調で指摘した。

■自動車に乗ることは乗馬と同じ

続いて孫氏は、自動運転技術が普及すれば「自動車は趣味の乗り物になる。今でいう乗馬のようなものだ」と指摘し、GM本社プレジデントのダニエル・アンマン氏をステージに招き入れた。

アンマン氏は、GM傘下で自動運転車両の実用化を進める「Cruse」について、実験車両『ボルトAV』の車載映像を紹介しながら、開発が進んでいることをアピールした。

「単に道を走るだけなら簡単だが、実際の道路は、工事現場があったり信号機が故障したり、不測の事態が起きる。そういう状況の中でAIが自ら判断して、時にはイエローラインを踏み越えるなど、小さな交通違反を繰り返してでも進むという判断をAIが行っていく段階にきている」と説明した。

■信号機のない世界

アンマン氏の自動運転のプレゼンテーションに続いて、孫氏は、信号機のない街を想像してほしいと語りかけた。

「100%自動運転車の街が生まれたなら、そこにはもはや信号機はいらない。車がお互いの動きを事前に判断して交差点を通っていく。そして車は、街中でも事故を起こさずに200キロで走ることができるはずだ。そういう状況になれば、同じインフラストラクチャーの道路がはるかに多くのトランスポーテーションを提供できる」

今聞くと突飛な話に聞こえるが、孫氏の強みは、長期的な視点で来たるべき社会に向けて事業や投資を進めることができる実行力だ。そうやって結果を出してきたからこその説得力が感じられる基調講演だった。

滴滴出行プレジデントのジーン・リウ(Jean Liu)氏 リウ氏はAIによるサービス品質の向上をアピールした AIによって渋滞を緩和することができたとする Didi Mobility Japan の役割 GM本社プレジデントのダニエル・アンマン氏 将来、クルマは趣味の乗り物になると説明する孫氏