中野車両管理所で点検整備が行われる丸ノ内線2000系。《写真撮影 関口敬文》

東京メトロは7月27日、東京大学との共同企画『鉄道ワークショップ2023〜車輪のしくみを科学しよう〜』を開催した。

このワークショップは、東京メトロと東京大学生産技術研究所(以下、「東大生研」)次世代育成オフィスが連携し、お互いのリソースを活用して次世代を担う人材を育成することを目的とした講座。対象は中学生と高校生で、2013年から毎年夏休み期間に開催し、今回で9回目(コロナ禍の期間は中止されていた)となる。

今回は、東京メトロ丸ノ内線の中野車両基地および東大生研 駒場IIリサーチキャンパスにおいて、実際の車輪・台車などの車両点検作業の見学、車輪・台車がレールに沿って走行するしくみなどに関する講義や実験、ディスカッションを行った。

◆東京メトロを楽しく学ぶワークショップ
ワークショップのスタートは4つのグループに分かれて、東京メトロについてのクイズが行われた。講義といえども参加者の学生が楽しめる形で進行し、ときには笑いありの和やかな雰囲気の中で進められていたのが印象的だった。

ちなみに、クイズの1問目は『日本で初めて走った地下鉄の色は?』、2問目は『東京メトロの保有車両数は?』、3問目は『東京メトロ線において駅間が一番長いのは?』だった。各問題の答えは『黄色』、『約2700両』、『南砂町〜西葛西間』。電車好きの学生が多いせいか、ほとんどのグループが正解していた。

続いて、中野車両基地についての説明は中野車両管理所主任の星野氏が解説。

東京メトロの車両管理所は、丸ノ内線と銀座線を管轄する中の車両管理所、東西線を管轄する深川車両管理所、千代田線、有楽町線、南北線、副都心線を管轄する綾瀬車両管理所、日比谷線、半蔵門線を管轄する鷺沼車両管理所の4つと、車両の改造工事、および資材の需給を管理する車両工事所に分かれている。今回のワークショップが行われた中野車両管理所は工場だけでなく、検車区、洗浄線、車輪転削庫、車両待機場所などがあり、敷地面積は59248平方メートル。東京ドームの1.26倍の広さとなっている。銀座線は240両あり、1000系が228両、1000系レトロ風車両は12両、丸ノ内線は02系が66両、2000系が258両、合計で564両が管理されている。

工場で働く作業員は8時30分が始業となり、終業は17時5分。休日は土日のみで、鉄道事業という性格上、祝日や年末年始でも休みとなることはない。工場では全般検査、重要部検査、臨時検査といった検査業務がおもに行われている。全般検査では電車の使用状況に応じ、8年を超えない期間ごとに制御装置、走行装置、ブレーキ装置、車体、その他車両装備品などの検査を行っている。重要部検査では、電車の使用状況に応じ、4年または走行距離が60万kmを超えない期間のいずれか短い期間ごとに制御装置、走行装置、ブレーキ装置など重要な装置の主要部分について検査を行うとのこと。ただし、銀座線、丸ノ内線では、4年以内に60万kmに達することはほぼないので、4年のサイクルで検査が行われるそうだ。臨時検査は、新車購入時や大規模な改造や修繕を実施した際に行う検査だ。

検査内容については、工場に入場した車両は、まず車体と台車(車輪が付いている部分)に分けられる。車体は運転室機器や床下機器などの検査、台車は車軸、台車枠などの検査、制御装置、ブレーキ装置、集電装置なども検査され、また車体と台車を合わせ総合検査、試運転を20日の間に行ない、出場していく流れとなっている。座学にて工場内の大まかな解説などもあったが、詳細については実際に見学する際に説明された。

銀座線、丸ノ内線の大きな特徴として車体の屋根にパンタグラフがないことが挙げられる。そのため動力を動かす電気は、レールのわきに設置された第三軌条(サードレール)から電気を取り入れる「第三軌条方式」が採用されている。見学の際の注意点として、工場敷地内の線路脇にも当然、第三軌条が設置されているため、直流600Vの高圧電気が流れ、触れると感電の恐れがあるとの説明があった。

次に台車と車輪についてのワークショップが行われた。台車の役割について、電車が曲がる仕組みについて、脱線係数といった少し難しい内容もあったが、図や写真を交えて紹介され、わかりやすくまとめられていた。

◆普段見られない工場内は目新しさいっぱい
座学の後は、2グループずつに分かれて、実際に整備点検などが行われている工場見学が行われた。普段では見られない現場の作業風景に興味津々な学生たちの姿が印象的で、スマホのカメラを片手に熱心に説明を聞いていた。

最後に東京メトロの担当者は、このような機会を通じて、東京メトロへの興味を持ってもらい、人材育成の機会のひとつになってくれればうれしいと語っていた。ちなみに、13年前から実施しているため、工場見学に来ていた学生が東京メトロに就職していてもおかしくないが、今のところ、新入社員で以前工場見学に来たことがあるといった社員はいないとのことだった。残念。

電車好きでもなかなか難しい問題かも?《写真撮影 関口敬文》 グループごとにディスカッションし、解答を考えていた。《写真撮影 関口敬文》 解答発表は盛り上がっていた。《写真撮影 関口敬文》 中野、深川、綾瀬、鷺沼に車両管理所がある。《写真撮影 関口敬文》 東京ドームの1.26倍の敷地面積。車両基地としてはそんなに大きくないとのこと。《写真撮影 関口敬文》 5つの部門にわかれている。《写真撮影 関口敬文》 所属車両は銀座線、丸ノ内線合わせて564両。《写真撮影 関口敬文》 定期検査だけで20日間をかけて行われている。《写真撮影 関口敬文》 第三軌条には直流の600Vが通電している。《写真撮影 関口敬文》 丸ノ内線2000系のパンフレットが配られていた。《写真撮影 関口敬文》 赤のイメージカラーと、丸いデザインが特徴的。《写真撮影 関口敬文》 懐かしい300形、現行の02系の車体も掲載されていた。《写真撮影 関口敬文》 実際に作業する方が使うものなので、一般の人が見てもわかりづらいかもしれないとのことだった。《写真撮影 関口敬文》 どのような配線となっているのかなど、作業のために必要な情報がボードに表示されている。《写真撮影 関口敬文》 細かいパーツをすべてバラして検査する。安全のためには労力を惜しまないということ。《写真撮影 関口敬文》 試験が終わったパーツなど、わかりやすく棚に配置されている。《写真撮影 関口敬文》 検査中の車体についての解説を受ける学生たち。《写真撮影 関口敬文》 黄色と黒のクレーンのような物は、車体と台車を分離するために使われる。《写真撮影 関口敬文》 車体下の制御機器部分も点検のため扉を外されていた。《写真撮影 関口敬文》 ブレーキについての解説を熱心に聞いていた。《写真撮影 関口敬文》 車輪だけ並んでいるところを見ることはそうそう無い経験。《写真撮影 関口敬文》 台車から車輪が外されて整備途中の台車。こんな台車の形を見られるのも工場見学ならでは。《写真撮影 関口敬文》 車体と台車が分離され、整備中の車体内部を見学できた。《写真撮影 関口敬文》 運転席を特別に見せて貰えることになり並ぶ学生の皆さん。「丸ノ内線はすべてワンハンドルなのか?」と質問する学生に、丸ノ内線はすべてワンハンドルになっていると伝えると、地元の高崎ではツーハンドルの電車がまだ走っていると語っていた。《写真撮影 関口敬文》 昼間はズラリと並ぶ丸ノ内線だが、ラッシュ時にはすべて出払ってしまうため、このように並んでいることはないとのこと。《写真撮影 関口敬文》 すでに引退した01系銀座線は動態保存のために整備された状態とのこと。丸ノ内線の500形も海外から里帰りし、動態保存のための整備が進められている。《写真撮影 関口敬文》