オンデマンドバス車両《写真撮影 坂本貴史》

長野県白馬村でのAIオンデマンド乗合タクシー「白馬ナイトデマンドタクシー」を活用した実証実験は、新型コロナウィルスの水際対策が大幅に緩和されたこの冬、約3年ぶりのインバウンド受け入れに向けた取り組みとして注目される。

白馬村の課題は大きく2つあり、1つは基幹産業の中核を担う宿場産業の活性化、そして村内での移動手段が主に路線バスに限られるなどの交通課題だ。この地域課題を解決するため、2021年に長野県主催のオープンイノベーション推進プログラム「おためし立地チャレンジナガノ」を通して、白馬村、アルピコ交通、BIPROGY、SWAT Mobilityの4社が連携して提案し、事業化第2号として選定され本実証に至る。

白馬へ向かう長野駅東口にあるアルピコ交通の特急バス長野・白馬線の停留所には、大きな荷物を抱えた訪日外国人観光客で長蛇の列ができていた。統計によると、白馬に訪れる観光客のうち約8〜9割が外国人、オーストラリア・香港・米国・シンガポールの順に英語圏がほとんどだ。このときの大型バスは2台あったが、どちらも外国人観光客で満席だった。

こうした観光地において外国人観光客の場合、夕食は宿泊場所で取らずに外に出歩くことが一般的だという。そのため、夕方から夜にかけて宿泊エリアと飲食エリアを結ぶモビリティは以前からも重要視されており、これまで路線バスに限られた移動手段にデマンド交通を取り入れて最適化しようというのが本実証の取り組みとなる。

白馬村内で営業しているタクシー事業者は白馬観光タクシー、アルピコタクシー、アルプス第一交通の3社で、各社からマイクロバス1台とドライバーを提供してもらっている。これまで村内では路線バス4台で運行していたが、時間帯や区間に偏りがあったため、効率化の面でデマンド交通を取り入れ3台にしており、コスト軽減にも貢献できている、と白馬村役場の太田課長は説明する。

事実、路線バスで運行していた30カ所以上あったバス停を、本実証では22カ所に選定し直して、偏りもなく最適な運行ができているという。実証期間中は乗車無料だが来年度は有料化し台数を増やす方向で検討を進めていると太田課長。路線バスとデマンド交通の組み合わせも検討の余地はあるのでは、と話す。

実際、これまでのナイトシャトルの実績から想定していた目標数値(KPI)の2倍は超えており、乗客数は1日150人〜200人超の間で推移している。今回の実績から「三次交通やデマンド交通はインバウンド向けにうまく活用できることがわかったので、一次交通や二次交通とうまく連携して、観光客を連れてくるモデルを検討していきたい」とアルピコ交通 経営企画室の上嶋圭介課長は説明する。

また今回の実証期間中に、信州大学助教の勝亦達夫博士(工学)を中心に「白馬若者会議2022」が開催され、県外の大学も含め20名程度の学生が参加した。自治体の地域課題を解決すべく、地域企業、地元の大学が取り組んでいるという点も注目だ。

本実証のターゲットは、先述した外国人観光客が約50%、観光従事者や住民が30%、残りの20%には、この学生たちにも共通するマイカーに依存しない観光客を想定している。このワークショップで考えられたアイデアから、未来のサービスが生まれることを期待したい。

HNDアプリの受付画面《写真撮影 坂本貴史》 長野駅バス停《写真撮影 坂本貴史》 信州大学助教の勝亦達夫博士(工学)による説明風景《写真撮影 坂本貴史》