フェリックス・キルバータスはオーストリア生まれの44歳。ルノーやピニンファリーナ、フィアット、ロールスロイスでエクステリアデザイナーとして活躍。4月からピニンファリーナのチーフクリエイティブオフィサーを務める。

ピニンファリーナは2月27日、フェリックス・キルバータスがチーフクリエイティブオフィサー(CCO)に就任すると発表した。昨年12月に退職したケビン・ライス(元マツダ)の後任として、4月17日に着任する予定だ。

フェリックスの前職はロールスロイス。2016年から6年余りエクステリアデザインの責任者を務めた。ロールスは同社初のEVである『スペクター』のプレスリリースにデザイナーの個人名を記載していないが、在任期間から考えて、フェリックスがそれを手掛けたことは間違いない。その前はフィアットのチーフデザイナーとして、『124スパイダー』などのエクステリアを担当した。

イタリアのトリノを本拠地とするピニンファリーナだが、上海とフロリダにもデザインスタジオを持ち、自動車から船舶や鉄道、家具や建築まで幅広くデザイン活動を展開している。それらを統括するのがCCOの役割だ。

フェリックス・キルバータスはオーストリア出身の44歳。パリでカーデザインを学び、2003年にルノーでプロのキャリアをスタートさせた。2008年から2年間はルノーと日産のデザイナー交換制度により、神奈川県厚木の日産グローバルデザインセンターで働いたこともある。

2010年にルノーに帰任するが、翌11年にピニンファリーナに移籍。これには同じくルノーから転じて、2011年から17年までピニンファリーナのCCOを務めたファビオ・フィリピーニが関わっていた。若い頃に日本で働いた経験を持つファビオはピニンファリーナを辞して以後、東京を拠点にカーデザイナー/デザイン戦略アドバイザーとして活動している。

「ピニンファリーナに来て半年後にフェリックスを雇った」とファビオ。ルノー時代に『メガーヌ』のデザインチームを率いていたとき、フェリックスはそのメンバーとしてワゴンを担当したという。彼をよく知るファビオに、フェリックスがどんなデザイナーかを聞くと…。

「分析や戦略立案に長けている。こういうタイプはカーデザイナーには珍しいけれど、今ではデザインマネージャーに欠くことのできない資質だ。それに、多くのカーキチのデザイナーと違って、彼の感受性や素養はクルマの範疇にとどまらない」

ファビオの下でリードデザイナーとして働くなかで、フェリックスは2013年のコンセプトカー、BMWグランルッソクーペなどのエクステリアを担当。そして2014年にフィアットに移り、ロールスロイスを経て、古巣のピニンファリーナにCCOとして迎えられることになった。ファビオはフェリックスの今後に、こう期待する。

「自動車業界の大変革に、会社も彼自身も適応していかなくてはいけない。変化を先読みし、手法やビジョンを変化させながら、デザインコンサルタントとしての役割を定義し直していくことが、今日のピニンファリーナのCCOの最も重要な責務だ。フェリックスならそれができると思う」

つい先日、ボルボは伝統的な自動車メーカーで働いたことのないデザイナーを、デザインのトップに据える人事を発表した。カーキチの英訳は“petrolhead”。100年に一度の変革期でCASEに取り組むカーデザインに、petrolheadだけでは対応できないということかもしれない。

クルマを越えてアンテナを張る戦略家のフェリックスと、さまざまな知見をミックスできる幅広い活動領域を持つピニンファリーナ。そこに化学変化が起きれば、創業93年の古豪はきっとさらなる新展開を見せてくれるだろう。

フェリックスは2011〜14年、ピニンファリーナで働いていた。その頃の代表作がこのBMWグランルッソクーペ。 2014年にフィアットに移籍し、124スパイダーなどのエクステリアを手掛けた。 ロールスから公式発表はないが、同社初のBEVのスペクターはフェリックスが同社でエクステリア責任者を務めていた時期にデザインされた。