シカが出没する釧網本線。JR北海道ではさまざまな対応策を検討しているということだが、物理的な抑止策にはコスト面から限界がある。《写真撮影 大野雅人(GazinAirlines)》

JR北海道は11月28日、野生動物との衝突を防止するための減速運転を実施すると発表した。

シカなどの野生動物が多数線路上に出没する道東地方ではこの秋、夕方から夜間にかけて列車と衝突する事故が多発しており、2019年度と比べて2.5倍となる156件が発生。2021年度と比較しても1.5倍に上っているという。

鉄道車両のブレーキは一般的に、「踏面(とうめん)」と呼ばれる、車輪がレールと接する面に摩擦材(いわゆる「ブレーキパッド」)を押し当てる「踏面ブレーキ」が使われているが、その構造ゆえ、衝突回避のために急ブレーキを作用させすぎると車輪に基準値を超える傷を与えやすくなり、修繕のため多数の列車が運休を余儀なくされるケースにつながることがある。

釧路運輸車両所に14両が配置されている花咲線や釧網本線の主力車両・キハ54形500番台一般形気動車の場合、定期列車の運行に9両を要するところ、8両が使用できない状態に至ったこともあり、10月1日から11月17日かけて、両線合わせて、2021年度のおよそ14倍に相当する延べ94本の列車が運休している。

背景には車輪を削正する「在姿車輪旋盤」による作業を1日に1〜2両程度しかできないことがあり、JR北海道では車両を確保する意味で、12月5日から2023年3月31日まで根室本線(花咲線)釧路〜根室間の下り4本・上り2本、釧網本線東釧路(釧路)〜摩周間の上り1本で減速運転を行ない衝突回避に努める。

車両を載せた状態で車輪を削正できる在姿車輪旋盤。国内では京浜急行電鉄が1976年に新町検車区に導入したものが最初だという。《写真提供 北海道旅客鉄道》 車輪傷の例。《写真提供 北海道旅客鉄道》 減速運転の対象列車。《資料提供 北海道旅客鉄道》 減速運転列車の時刻。所定より1〜16分程度の遅れが見込まれる。《資料提供 北海道旅客鉄道》