【フォーミュラE】ピットから「プッシュ!」の指示もあった珍しい展開 … 第14戦レビューFormula E

バッテリーとモーターを搭載した電動マシンによって行われる、モータースポーツの「フォーミュラE(FE)」世界選手権シリーズ。今シーズンの第14戦は、前日の第13戦に続き7月31日(日)にロンドン市内で開催された。

今季は勝ちに恵まれていなかった「シーズン3(2016/2017)」の王者、ルーカス・ディ・グラッシ(ブラジル)が今回は速さを見せて優勝。シリーズランキングトップのストフェル・バンドーン(ベルギー)は予選で13位と苦戦したものの、4位でゴールし2位とのポイント差を36に広げて初タイトルにまた一歩近づいた。

◆FEには珍しい攻防が中盤から見られた第14戦
今回2連戦が行われたコースは、テムズ川沿岸のイベント会場「エクセル(ExCeL)ロンドン」内の通路と周辺道路を結んで造られた。これまで紹介してきたように、FEではバッテリーの過熱によるパワーダウンや過剰なエネルギー(充電量)消費を避けるため、終盤までペースを抑えて一列で走行し、お互いの出方を探る様なレース展開が多く見られる。

だが、ロンドン市内に造られたこのコースは比較的「電費」に優しいサーキットのようで、レース中盤から上位陣によるバトルが見られた。

◆スピードに乗るディ・グラッシが完勝
激しいトップ争いを演じたのは、前日に行われた第13戦の勝者ジェイク・デニス(イギリス)とディ・グラッシの2人。デニスは2戦連続のポールポジションから連勝を狙ったが、この日の決勝レースではディ・グラッシが速さを見せつけた。4分間 X 3回に設定された「アタックモード(AM)」の使い方も一枚上手で、終盤にデニスに対して2秒以上のギャップを築くFEには珍しい展開だった。

決勝レース中にモーターの最高出力を220kWから250kWに上げることができるAMだが、使うためにはレコードラインから外れた場所に設けられる「アクティベーション・ゾーン」を通過しなければならない。後続に抜かれるリスクが高いため、「アクティベート」するタイミングが難しい。またパワーを使えばバッテリー残量の減りも進むため、「電費」とのバランスにも細心の注意が求められる。

この日のディ・グラッシは速いペースで周回を重ねながら、バッテリー残量もライバルたちとそん色のない効率的なドライビングでつけ入るすきを見せない完ぺきな勝利だった。「パワーを使ってトップを守れ!」とディ・グラッシにピットから指示が出されたが、これも、今までのFEではなかった展開だった。

デニスにも「プッシュ!」の無線が飛んだが、攻略には至らず2位でフィニッシュした。3位に続いたのはニック・デ・フリーズ(オランダ)。前戦も3位でチェッカーフラッグを受けたものの、レース中の接触により5秒加算のペナルティを課せられ6位に後退した不運の雪辱を果たした。

◆来シーズンからは新世代マシンに進化
現在FEで使用されているのは、「Gen2(ジェンツー)」と呼ばれる第2世代のマシンだ。来シーズンからは、全車が新しい「Gen3」に切り替わる。シーズン5(2018/2019)から使われてきたマシンも最後のシーズン終盤を迎え、各チームがより効率的な走らせ方を習得しポテンシャルをギリギリまで発揮させるノウハウを蓄積してきたようだ。

来季からのマシンはフロントに最高出力250kW、リアに350kWの合計2基のモーターが搭載され合計出力は600kWと大幅にアップする。後輪に油圧式(メカニカル)ブレーキは装備されず、パワートレインによる回生ブレーキのみとなる。また、市販車用の約2倍の速さで充電が可能な超高速充電システムも採用されるという。最高時速もGen2の280km/hから322km/hにアップし、よりエキサイティングなレースが観られるだろう。

◆撤退するメルセデスと新規参入するマセラティ
このところ、メルセデス- EQフォーミュラEチームの強さと速さが目立っている。シーズン7のデ・フリーズに続き、今シーズンはバンドーンが初の年間チャンピオンにまた一歩近づき2連覇が濃厚となった。そのメルセデスは、今季を最後にFEから撤退する。入れ替わるようにマセラティが参戦を開始する来季、新しいマシンによって勢力図がどう変わるかにも興味をそそられる。

FEの「シーズン8」は、韓国・ソウルで行われる第15戦と第16戦で全日程を終える。このままの勢いでバンドーンが初のチャンピオンを獲得するのか、それとも、ランキング2位のミッチ・エバンス(ニュージーランド)や3位のエドアルド・モルタラ(スイス)が約40ポイントの差を逆転するのか。王者は2週間後の8月13日〜14日に決まる。

第14戦でシーズン3の王者ディ・グラッシが今季初勝利Formula E FEでは一列でライバルの出方を探るシーンが多いFormula E この日は速さと上手さを見せたディ・グラッシFormula E デニスにも「プッシュ!」の無線が飛んだが一歩及ばず2位Formula E デ・フリーズが3位表彰台を獲得Formula E 来季からのGen3は合計600kWのハイパワーマシンに進化Formula E 次のソウルで今季のチャンピオンが決まるFormula E