【フォーミュラE】 終盤のゲリラ豪雨がレースを決めた珍しい展開…第11戦レビュー《画像 Formula E》

電気自動車によるモータースポーツ「フォーミュラE(FE)」では、バッテリーの温度上昇や電気残量のコントロールが勝敗を決めることが多い。これまで開幕以来、10レースに関してそうしたEVレース独特の観点からレポートしてきた。

7月16日(土)に行われた第11戦は、伝統的な要素が結果を決めた珍しいレースだった。終盤にコースの一部で降った大雨により多重クラッシュが発生し、45分+1周で行われる決勝レースは40分弱を消化した段階で終了となった。ニック・キャシディ(ニュージーランド)が初優勝を遂げた今回は、いつもの「電費」ではなく天気が勝敗を左右した。

◆舞台はニューヨークのストリート
FEは、バッテリーに蓄えた電気で走る「BEV(バッテリーEV)」のレーシングカーが世界を転戦する。8シーズン目を迎え、フォーミュラ1(F1)や世界耐久選手権(WEC)、世界ラリー選手権(WRC)と並び、世界自動車連盟(FIA)が承認する世界選手権シリーズに成長した。一般道でも電気自動車(EV)が多く見られるようになった今、ポルシェやジャガー、ニッサンなどの世界的な自動車メーカーが多く参戦する注目のシリーズだ。

全16戦で争われる今季は1月にサウジアラビアで開幕し、メキシコ、イタリア、モナコ、ドイツ、インドネシアそしてモロッコを転戦してきた。ダブルヘッダーで行われる第11戦と第12戦の舞台となったのは、アメリカのニューヨーク。FEでは、ほとんどのレースが一般道を一時的に閉鎖した「ストリートコース」で行われる。「ニューヨークEプリ」の2戦も大都会の街中で開催され多くの観客を集めた。

◆中盤まで膠着状態だった第11戦
FEのレースでは、バッテリーに蓄えた電気の効率的な使い方、いわば「電費」を考えた走りが常に結果を左右する。気温の高い環境では、バッテリーの温度上昇をいかに抑えるかも戦略における重要な要素となる。

市販のEVでも、高速走行を長時間続けるとバッテリー温度が上昇しパフォーマンスが低下することがある。バッテリーに蓄えた電気でモーターを駆動するFEのマシンも、基本的なしくみは市販車と同じだ。激しいドライビングを続けると、出力の低下を招くとともにエネルギー(電気)消費が増えゴールまで走り切ることが難しくなる場合がある。

この日のレースも、中盤まではFEで見慣れた展開となった。各ドライバーともライバルの出方をうかがう走りで、上位10台までがペースをコントロールしながら一列で周回を続けた。追い越しが難しいレイアウトのようで、一時的にモーター出力を220kWから250kWにアップする「アタックモード」でもあまり順位が変わらず淡々とした状態が続いた。

FEでは、市街地サーキット独特の狭いコース幅やギリギリまで迫るコンクリートウォールのため、多くのレースでクラッシュやアクシデントが発生する。第11戦は、そうした波乱もなく序盤の順位のまま45分+1周のレースが終わるかと思われた。

◆終盤の大雨で多重クラッシュが発生
ところがスタートからおよそ30分が経過した頃、コースの一部で雨が降り始めた。当初はマシンに搭載されたカメラに水滴が付く程度だったが、数分後には "バケツをひっくり返したような" 土砂降りになる。レースは終盤を迎えてタイヤの摩耗も進んでおり、路面に溜まった雨水に乗ってコントロールを失う「アクアプレーニング」現象に見舞われるマシンが続出。

多重クラッシュが発生し、5台がコース上にストップしてしまう。赤旗が掲示され、レースは7分30秒+1周を残して中断。ポールポジションからスタートし、トップを走っていたキャシディ(エンビジョンレーシング)も壁に突っ込んでしまう。

コース上に飛散したパーツの除去や破損した壁の修理などが行われたが、レースは再開しない判断が下された。レギュレーションに基づき、赤旗が掲示された1周前の順位が最終結果とされ、キャシディの優勝が決まった。FE参戦2年目での初優勝に、「目まぐるしい展開でしたが、本当に嬉しい。ガレージの中で何度も『本当?!』と叫んでしまいました」と喜びを語った。

2位には「シーズン3」のシリーズ王者であるルーカス・ディグラッシ(ブラジル)が入り、今季2度目の表彰台を獲得した。キャシディのチームメイト、ロビン・フラインス(オランダ)が3位でゴールし、エンビジョンレーシングは2人のドライバーが揃って表彰台に立った。


第12戦は翌日の17日(日)に行われた。この日は雨によるハプニングはなく、コース上でFEらしい激しくも戦略的なバトルが展開された。

次回は、この模様を独自の視点からレポートする。

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