6月17日にオンラインで開催された「2021年ボッシュ年次記者会見」《画像提供 ボッシュ》

ボッシュは6月17日、オンラインにて年次記者会見を開催し、2020年度の日本国内における第三者連結売上高は2690億円で、コロナ禍の影響を受けながらも黒字を達成したと発表。併せて2022年後半より「iBooster」を日本でも製造開始することを明らかにした。

登壇したのはクラウス・メーダー代表取締役社長の他、クリスチャン・メッカー副社長、クロスドメインコンピューティングソリューション事業部のエドウィン・リーベマン事業部長の3名。

◆売上減ながらも黒字を達成。今後も日本メーカーをサポートしていく

冒頭、メーダー社長がコロナ禍におけるボッシュの対応を説明した後、メッカー副社長がボッシュの2020年度の日本国内における売上高について説明した。

それによると2020年度の売上高は、前年比16%減の約2960億円(約22億ユーロ)。日本の自動車生産数が17%減少した中においても幅広いボッシュのポートフォリオによって黒字を達成できたという。メーダ社長はこの要因について、「コロナ禍に見舞われた春頃は大きく落ち込んだものの、早くも5月には底を打ち、後半の規制緩和に伴って景気が回復。結果、年初予測を大きく上回る業績を上げることができた」と分析。

しかし、新型コロナウイルスの影響は2021年も尾を引きそうで、ワクチン普及の遅れも日常生活に影を落としているのは間違いない。中でも世界的な半導体不足のリスクは影響が長引きそうな状況にある。ただ、こうした状況下にあってもボッシュはグループ全体の売上は2桁増を見込む。2021年第一四半期は好調なスタートを切れているのも、それを裏付けているようだ。

メッカー副社長は日本の自動車メーカーについて、「半導体不足の中でも日本の自動車メーカーは2021年も世界市場の約30%シェアを示し、今後10年間も同水準を維持する」と予測。ボッシュは今年、日本でのビジネスを展開して110周年を迎えたが、その中で「ボッシュは日本メーカーのグローバル展開をさらにサポートし、そこで重要な役割を果たしていきたい」とした。

また、メーダー社長は、「ボッシュは2020年、日本を含めた世界400以上の拠点において、カーボンニュートラルを達成した」ことも明らかにした。「当初計画よりも早期に達成し、自らの拠点でCO2を排出しない世界初の事業会社となった。しかし、2030年までにカーボンニュートラルの更なる質の向上を目指し、併せて顧客を含めたサプライチェーン全体で2018年比で15%にあたる6700万トンの排出量削減を目指す」とした。

◆マイクロソフトと、自動車とクラウドを接続するプラットフォーム開発で協業

重要性が高まる車載ソフトウェアとエレクトロニクスに対応するため、クロスドメインコンピューティングソリューション事業部を新設したことも明らかにした。これを統括するリーベマン事業部長は、「自動車業界は今、PACE(パーソナライズ化、自動化、ネットワーク化、電動化)を軸とした過渡期にあり、もはや従来の車載ソフトウェア開発体制では限界に近づきつつあった」と明かす。

そこで新たに立ち上げたのがこの事業部だ。ボッシュでは「ソフトウェア集約型の自動車用電子システムが業界の中核になると考えており、今後ソフトウェアは自動車のインテリジェントかつアップデートをする上で重要な役割を担い、同時にドライバーに対して重要なメリットをもたらすようになる」(リーベマン事業部長)とする。

ただ、IT技術と自動車の要件との組み合わせはかつてない複雑なソフトウェアの開発が欠かせない。そこでボッシュはマイクロソフトと提携し、自動車とクラウドをシームレスに接続するソフトウェアプラットフォームの開発で協業することにした。

リーベマン事業部長は、「この結果、ボッシュは単一部門から車載エレクトロニクスとソフトウェアを顧客に提供できるようになる。日本でもドイツと同様に運転支援や自動運転、ココネクテッドインフォメーション/アドバンストネットワークソリューション、E/Eアーキテクチャの4つの分野をカバーし、ボッシュとしてはこのソリューションをトータルで日本の自動車メーカーに提供可能になる」とした。

◆中核事業となった電動化。一方で“eFuel”によるカーボンニュートラルを進める

電動化への対応はメッカー副社長が説明した。それによるとボッシュでは「自動車メーカーの急速な電動化の動きに合わせ、ボッシュでは2021年、昨年の5億ユーロを超える7億ユーロをeモビリティに投資する予定。累計投資額は50億ユーロにもなり、eモビリティがボッシュにとって中核事業のひとつになりつつある」という。

また、「電動化の急拡大に合わせて不可欠なのが包括的で使いやすい充電インフラ。充電スポットのネットワーク化を進めることでドライバーの利便性向上とそれぞれのニーズへの対応が可能となる」。さらに「このサービスは日本においてもパートナーを探している最中で、すでに複数のプレーヤーから関心を集めているところである」(メッカー副社長)ことを明かした。

その一方で「ボッシュは内燃機関の高効率化を進め、合成燃料(いわゆるeFuel)の活用を研究し、これを使うことで世界に13億台以上あるとされるディーゼル/ガソリンエンジン車もカーボンニュートラルになる可能性がある」とする。つまり、再生可能エネルギーで動かすことができて初めて、積極的な気候保護目標を達成できるというわけだ。

◆自動運転化と電動化でニーズが高まる「iBooster」。2020年からは日本でも製造へ

そして、後半の記者会見でメーダー社長は、ボッシュの日本での競争力を高める注目の製品を発表した。それが「iBooster(アイブースター)」である。

これは負圧を必要とせず、ペダルフィーリングのカスタマイズ、衝突被害軽減ブレーキの性能向上、さらに自動運転下における冗長性などを実現する新しいタイプの電動ブレーキブースターだ。通常のESCの最大3倍に相当する高い昇圧性能を誇り、これによって緊急自動ブレーキ作動時の制動距離短縮が可能になるという。

メーダー社長は、「ボッシュは電動ブレーキブースターの第1世代をを2013年に先駆けて市場投入し、これまでに1000万台以上を出荷した。自動化と電動化の推進によってすでにiBoosterは市場に受け入れられており、この市場は2020〜27年にかけて年率20%以上拡大すると見込んでいる」と述べた。

中でもサプライズ発表となったのがiBoosterの日本での製造だ。メーダー社長はその理由について、「iBoosterは自動化や電動化において先進的な取り組みを進めている日本の自動車メーカーとの親和性が高いと考えている。そこで2022年後半より栃木県内にある工場でiBoosterの製造を開始することを決定した」と説明した。

メーダー社長は「現在、複数の自動車メーカーとiBooster導入の検討を進めている最中。ボッシュではこの搭載が増えることで、より多くの車両が緊急時に迅速に停止できるようになり、それがより安全な道路環境の貢献につながる」と事業拡大へ期待を込めた。

冒頭、コロナ禍における取り組みを含め挨拶したクラウス・メーダー代表取締役社長《画像提供 ボッシュ》 決算について説明するクリスチャン・メッカー副社長《画像提供 ボッシュ》 日本での事業展開は今年110周年を迎えた《画像提供 ボッシュ》 ボッシュは2020年春、世界400拠点でカーボンニュートラルを達成した《画像提供 ボッシュ》 ボッシュが開発した個体酸化物燃料電池(SOFC)のデモ機。渋谷本社のショールームに展示中(写真:ボッシュ提供)《画像提供 ボッシュ》 マイクロソフトと提携し、自動車とクラウドをシームレスに接続するソフトウェアプラットフォームの開発で協業。写真はクロスドメインコンピューティングソリューション事業部のエドウィン・リーベマン事業部長《画像提供 ボッシュ》 ボッシュは単一部門から車載エレクトロニクスとソフトウェアを顧客に提供できるようになる《画像提供 ボッシュ》 自動車業界は今、PACE(パーソナライズ化、自動化、ネットワーク化、電動化)を軸とした過渡期にある《画像提供 ボッシュ》 燃料電池向けのシステムも開発中(写真:ボッシュ提供)《画像提供 ボッシュ》 ボッシュはハイブリッド、EV、燃料電池向けコンポーネントの開発を行う一方で、eFuelによるカーボンニュートラルへの取り組みも積極的に行っていくとした《画像提供 ボッシュ》 ユーザーが使いやすくなるよう、コネクテッドを使いながら充電インフラを提供していく《画像提供 ボッシュ》 「iBooster」通常のESCの最大3倍に相当する高い昇圧性能で、緊急自動ブレーキ作動時の制動距離短縮を可能にする(写真:ボッシュ提供)《画像提供 ボッシュ》 iBoosterは、日本で2022年後半から製造を開始される《画像提供 ボッシュ》