アーヘン工科大学 繊維技術研究所(ITA)の所長 トーマス・グリース教授《撮影 中尾真二》

4日、都内にて、ドイツ ノルトライン・ヴェストファーレン州(NRW州)の素材・材料技術、生産技術に関するセミナーが開催された。NRW州はドイツ有数の工業・産業都市。アーヘン工科大学を筆頭に産学連携の盛んな地域。また、多くの日本企業も進出し、ジョイントベンチャーや革新技術の交換、投資も広がっている。

セミナーの主催は、ドイツNRW州投資公社とその日本法人(NRWジャパン)。後援は日本貿易振興機構(JETRO)とドイツ科学・イノベーションフォーラム東京(DWIH)。セミナーは、三菱ケミカルヨーロッパ、エボニック ジャパン、ランクセス・ソリューションズ・ジャパン、帝人、Xenomaらが、それぞれの素材技術や最新ソリューションを紹介・解説する内容だった。セミナーの最後はアーヘン工科大学 繊維技術研究所(ITA)の所長 トーマス・グリース教授(機械工学博士)が登壇し、同大学における産学連携と日本の大学との共同研究の事例が5つほど紹介された。

セミナーでは、各社が手掛ける、次世代バッテリーのための素材、パワー半導体、カーボンファイバー、アラミド繊維、ゴム、プラスチック、ウレタンなど高ポリマー素材に関する製品や技術が解説された。自動車業界のイノベーションというと、自動運転や電動化技術に注目が集まりがちだが、これら、炭素繊維の複合素材やポリマー、樹脂素材に関する技術も自動車産業にとって重要な技術だ。

たとえば、エボニック社は、リチウムイオンバッテリーの性能向上に欠かせないセパレーター(陽極と陰極を分離させる素材)にセラミックコーティングを施す技術を持っている。AEROXDEというセパレーターは、電極の絶縁性能とバッテリーのエネルギー密度を改善するという。

ランクセスは、ポリウレタンに特出した技術を持つ。自動車用途では、塗装のトップコート、接着剤、ブッシュ類、オイルシール、タイヤなどに新素材によるソリューションを提供している。ポリウレタンのトップコートは1液で加温で硬化するもの。接着剤は硬化後の強度と靭性を両立させるもので、鋼鈑の接着、つまりボディ部品の接続をスポット溶接から接着剤に代替できる。マツダ3では、同様な技術で部材補強と応力を逃がす高い剛性のボディを実現している。タイヤはエアレスタイヤのスポーク部分への応用が進んでいる。

アーヘン工科大学のセミナーでは、グリース教授によって、カーボンファイバーによるエネルギー貯蔵タンクの事例、細胞を模した人工生体素材(濾過フィルター、血管など)、カーボンファイバーで補強した薄型3Dテキスタイルコンクリート、造形芸術向けのコンクリート(Con-Texture)、カーボンファイバーによる弦楽器製造の5つが紹介された。

どの事例もITAによる産学共同研究の成果だ。貯蔵タンクは液化ガス、燃料電池用の水素タンクなどへの応用が考えられる。現状、カーボンファイバーのハイブリッドタンクは600気圧まで耐えられるという。人工生体素材の研究は旭化成とともに行われている。コンクリートの補強材としてカーボンファイバーなどを利用すると、7ミリのコンクリートパネルが実現できる。形状も湾曲させたり凹凸をつけることも可能だ。建物やアート作品への応用が進んでいる。弦楽器はバイオリン、コントラバスの本体を木製から炭素繊維素材に置き換えた製品が実現している。弦楽器の弓の毛も炭素繊維に置き換えたものの製品化を目指している。グリース教授は、カーボン製のビオラとチェロも商品化し、カーボン楽器による弦楽四重奏を実現させたいとした。

ポリウレタンを接着剤に応用(ランクセス)《撮影 中尾真二》 エアレスタイヤのスポークにポリウレタンを活用(ランクセス)《撮影 中尾真二》 貯蔵タンクへの炭素繊維応用(アーヘン工科大学)《撮影 中尾真二》 薄型3Dコンクリートの外壁(アーヘン工科大学)《撮影 中尾真二》 3Dコンクリートでアート作品をつくる(アーヘン工科大学)《撮影 中尾真二》 弦楽器をカーボン製に(アーヘン工科大学)《撮影 中尾真二》 登壇者によるパネルディスカッション《撮影 中尾真二》