ブガッティ・シロン の開発プロトタイプ「4-005(フォーファイブ)」《photo by Bugatti》

ブガッティは5月18日、『シロン』(Bugatti Chiron)の開発プロトタイプ車両が引退した、と発表した。過酷な開発テストにおいて、8年間に7万4000km以上を走行した、としている。

◆全8台のプロトタイプの1台「4-005(フォーファイブ)」

つや消しのボディに粘着テープ、多くの引っかき傷や小さなかすり傷は、プロトタイプが受けてきた厳しいテストを物語っている。このプロトタイプ車両は、8年以上にわたって、シロンを成熟させるために使用されてきた。複数の大陸とさまざまな気候帯で、その目的を果たした。シロンのプロトタイプ車両「4-005(フォーファイブ)」は、米国を走行した最初のシロンであり、スカンジナビア半島の雪の中でドリフト走行し、イタリア・ナルドで高速周回テストを、南アフリカで耐熱テストを行ってきた。

エンジニアは新型車の開発にあたり、プロトタイプを製作し、生産開始の直後までテストを繰り返す。その後、役目を終えたプロトタイプ車両は廃車となる。しかし、プロトタイプ車両の4-005は違っていた。2016年にシロンが発売された後も、シロンの開発車両として、重要な役割を担ってきた。

4-005 の「4」はプロトタイプを意味し、「5」はシロンの5番目のプロトタイプを表している。シロンでは全部で8台のプロトタイプが手作業で製作され、多くのカスタムメイドのパーツが装着された。4-005の場合、ウインカー、ヘッドランプ、テールライトが順番に点灯する「ウェルカムライト」を採用。ドアを開けた時のウェルカムライトも、このプロトタイプのために最初に開発された。

◆シロンのすべてのソフトウェアの開発を担ったプロトタイプ4-005

2013年から、シロンのすべてのソフトウェアは、この4-005で開発テストが行われた。2016年にシロンが市場に投入される前には、米国やヨーロッパで公道テストに取り組んだ。米国では、デスバレー、グランドキャニオン、グラナダなどを走行した。

プロトタイプ車両では、さまざまな通信ネットワークが有効または無効な状態で、テレメトリデータがどのように作動するかを確認した。砂漠での耐熱テストでは、空調システムの冷却フロー、レスポンス、ノイズを評価した。

4-005は、シロンが量産に入る前に、すべてのインフォテインメントシステムを市販車と同じ仕様にアップデートした。これらには、新しいナビゲーションシステムなどが含まれている。ダッシュボード中央に大型ディスプレイを持たないシロンは、ドライバー正面のメーターパネルにすべての情報を表示する。これらは、ステアリングホイールから制御できる。

◆400km/hでもドライバーが気を散らすことなく運転に集中できるHMIの開発を重視

シロンのミッドシップには、8.0リットルW16気筒ガソリンエンジンを搭載する。4個のターボで加給され、最大出力1500hp/6700rpm、最大トルク163kgm/2000-6000rpmを引き出す。先代の『ヴェイロン』の最大出力1200hp、最大トルク153kgmに対して、300hp、10kgm強化された。

トランスミッションは7速デュアルクラッチ「DSG」で、駆動方式は4WDだ。0〜100km/h加速2.5秒、最高速420km/h(リミッター作動)という世界最高峰の性能を備えている。

シロンでは、400km/hで走行する場合でも、ドライバーが気を散らすことなく、運転に完全に集中できる環境が求められた。そのためのヒューマンマシンインターフェイス(HMI)の開発が重視されたという。シロンには、高解像度の6インチディスプレイを備えた集中型スピードディスプレイを採用している。センターコンソールには縦に4つ、丸型の空調スイッチが配置された。

インフォテインメントシステムには6つのメインメニューがあり、合計で30のメニューが備わる。各種ボタンやスイッチ、操作系の動きにも、ハイパースポーツカーにふさわしい高級感が追求されたという。

◆米国での開発テストでは警察官がプロトタイプと記念撮影することも

開発テストでは一日、最大10時間走行した。シロンのプロトタイプは、行く先々で多く人々の関心を呼んだ。厳格なことで知られる米国の警察官でさえ、このハイパースポーツカーに興味を持ち、エンジニアに質問をし、プロトタイプと記念写真を撮ったという。

エンジニアはハードウェアとソフトウェアを何度も更新し、プロトタイプを常に最新の状態に維持してきた。これには、コネクターやコントロールユニットなど、モデルライフの間に触れられないコンポーネントの品質と機能のチェックも含まれている。

その結果、シロンのプロトタイプ4-005は、過酷な条件で、8年間に7万4000km以上を走行した。しかし、車両の電子機器に大きな摩耗は見られなかったという。そして、プロトタイプはハードワークを終えて、引退した、としている。

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