ヴェゼルのCMFデザインを担当した、本田技術研究所の岩崎麻里子さん。こだわりはシートのカラーだ。《写真撮影 宮崎壮人》

ホンダは2代目『ヴェゼル』の商品改良を行い4月26日より販売を開始した。そのデザインは“モアシンプル、モアクリーン”をコンセプトに、シンプルでクリーンなキャラクターを継承しつつも、その個性をさらに際立たせたという。特に今回は内外装のデザインとともに、CMF(色、素材、仕上げ)についても力が注がれた。

◆端正すぎるデザイン、から生活をともにするクルマへ
エクステリアの変更点で最も目に入るのがフロント周り、特にフロントグリルだろう。「ボディー同色のフロントグリルというアイデンティティは残しています。これはその良さを継承したいという思いが強かったからです」と、その変更の意図について本田技術研究所 デザインセンター デザイン担当の岩崎麻里子さんは語る。そのうえで、「全体のプロポーション、水平基調で特にサイドから見た時の美しさは本当に際立っているクルマですので、少しフロントの個性が強かった。そこで手を入れることになりました」と説明。

ヘッドライト同士をつなぐようなキャラクターが入ったが、これは「ワイド感(フロントの横方向)をしっかり出すことと、クルマを1周流れていくキャラクター(ライン)を意識したものです。ですので、顔正面で見ているというよりは、全体で見た印象を優先し水平のラインを意識しています」。その結果としてとても長いキャラクターラインが実現したのだ。

インテリアではセンターコンソール周りの造形が変更された。改良前は左右席をゾーニングするような印象で個性的であったが、今回はオーソドックスなレイアウトになった。その理由について岩崎さんは、「デザイン的にも特徴があって、すごく素敵だなと思ってはいましたが、助手席側から見るとトレイがいまひとつ使いにくかったのです。ゾーニングをすることで、それぞれ専用の場所を作って4座平等にしたいという現行の考えから、使い方はお客様次第にしようと通常のレイアウトになりました」とのことだった。

今回の改良モデルのデザインは「これまでの良さを伸ばす」という方向だった。岩崎さんは「フロントから少し感じられる異質さから、気になるやつが来るなみたいな印象です。そういう惹き付ける部分と、ちょっとうっとりするような美しさを持っているんです」とヴェゼルの印象を語る。その一方で、「ちょっと緊張するというか、ちょっと背伸びする印象もありました」とのこと。少し端正すぎるような印象から普段使いはあまりせずに、ついきれいなままそっと置いておいて、電車で出かけようかなという思いに至ってしまうものだったという。

その思いはグランドコンセプトの“Expand your Life”、日本語では、“気軽さが一歩踏み出すきっかけになる”にもつながっている。「このヴェゼルと出かけてほしいという思いがすごくありました。もちろんきれいには乗ってもらいたいのですが、綺麗にピカピカにして維持するというよりは、生活の中で一緒に育っていくようなクルマにしていきたいと思ったんです」と話す。

◆個性を明確にした3つのバリエーション
そこで今回の改良に際しグレード構成を見直した。「“お客様一人一人に、より自分らしいライフスタイルを提供する”」ということで、3つのバリエーションをラインナップ。「シンプルでクリーンに進化したG、X、Zグレードのノーマルタイプ」。「街から街へ繰り出したくなる都会的なスタイルのPLaY」。「都会も自然もどんなフィールドへも繰り出せるスタイリッシュでアクティブなスタイルのHuNT」だ。

それぞれの特徴をCMFデザイナーの視点で説明してもらおう。まずノーマルは「シンプルさとクリーンさに磨きをかけた内外コーディネーション」で、3色の新色を含み、全7色のボディーカラーは、「ベーシックなカラーパレットでありながら、トレンド感やSUVらしいソリッドライクな質感を兼ね備えたラインナップ」。インテリアは、「ドアとコンソールのアームレストにステッチを追加し、シンプルでありながら仕立てにこだわった、より上質感を高めた空間を実現しました」とのこと。

PLaYパッケージは、「スマート、ファッショナブル、洗練をキーワードに、その洗練さの中に遊び心や個性の光る都会的なコーディネーションを目指しました」と岩崎さん。そして、ボディーカラーは現行同様2トーンカラーを採用。フロントグリルに配置したトリコロールのアクセントは、「横基調の水平グリルバー内部にスッキリと収まり、ロアドアにあるブルーのアクセントが洗練された中にも個性と遊び心を演出します」という。

同時に車両下回りをピアノブラックで統一することで上質の楽しさも際立たせた。インテリアも現行同様グレージュ色を設定。「ピンストライプ、ステッチにライトブルーを利かせた都会的で先進感のある爽やかなコーディネートが特徴。内外共通でアクセントカラーを鮮やかなライトブルーとすることで、PLaYをより都会的で洗練感のあるイメージにアップデートしました」と説明した。

そして新パッケージのHuNTは、「都会と自然を自在に行き来するような様々なフィールドへ気軽に繰り出していきながら、自分らしい生活を獲得、HuNTしていける。そんなイメージを込めた新しいパッケージ。ヴェゼルの持つ都会的で洗練されたイメージに、アウトドア感を融合させたスタイリッシュさとギア感を兼ね備えたモデルです」と説明する。アクティブ、カジュアル、ギア感をキーワードに、本格的なアウトドアの雰囲気を誰もが気軽に楽しめるようなコーディネーションを目指した。そして最大の特徴は、「マルチカラーのコーディネートです。多様な色使いがファッション性を高め、無骨過ぎないアウトドア感を演出しています」と紹介した。

ボディーカラーには、「シルバーやカッパーを配色し、遊び心のあるマルチカラーをエクステリアでも実現。特徴的なカッパー色ですが、どの外装色ともマッチングがよく、どのボディー色を選んでも、HuNTの世界を楽しんでもらえるカラータイプです」。インテリアも「カーキ、ネイビー、グレージュ、オレンジといった様々な色を使ったコーディネートで、多彩な色使いがドアを開けた瞬間にワクワク感をもたらしてくれます。明度、彩度の統一感を持たせているので、座った後には落ち着きや気品も感じていただけるコーディネートです」とそのねらいを語った。

◆ヴェゼルの世界を広げる「HuNT」
岩崎さんは特にHuNTの提案にはこだわった。それは前述したもう少し気軽に乗りたいというところにもつながる。ただし、「ヴェゼル全部でそれをやりすぎると、せっかくいま表現出来ているクラス感やヴェゼルに憧れている、期待してくれている部分がなくなってしまう。だとしたら、バリエーションのひとつとして気軽に乗れる印象のものがあってもいいんじゃないかな」という思いがあった。

ただ、インテリアのカラーコーディネートには苦労した。「アクティブな派手さを作りましょうとなった時に、アクセントで元気なオレンジを使うとか、明るめの黄緑色を使うなどのアイディアが最初はありました。ただ自分としては違うとずっと思っていたんです。アクティブといってはいるけど、ヴェゼルが求めているのは元気はつらつ的アクティブでもなければ、前衛的なものでもない」と考えを重ねた。そこで気付いたのは開発当時のコロナ禍という社会背景だった。

「いろんなことを抑圧されていた中での開発でした。しかしこのクルマが出るタイミングでは、少なくとも気持ちの面では我慢するのはもう十分だという気持ちになっているでしょうし、ワクチンなどもあり外に出られる状態になっているでしょう。そういう時に欲しい気軽さや、後押ししてくれる存在だとすると、元気な色でバチッとしていると少し“しんどい”だろうなって思ったんです。そこでなんとなく落ち着いた色味や、その安心感のあるカラーを組み合わせることでいろんな人のバックグラウンドに寄り添えるようなコーディネートができたらいいと思っていました」

そんな時、岩崎さんの目に留まったのがあるスニーカーだった。機能がしっかりとあり履き心地はとてもいいものだったが、新素材や新しいカラーコーディネーションを積極的に取り入れるメーカーのものではなかった。しかし、そのスニーカーは、機能にプラスして色味が入ることで、「機能から入った人もちょっとワクワクするし、製品の良さを知らなくても、ちょっと可愛いなみたいな印象で入ってくる人もいる。世代や性別といった属性を問わない度量の広さをすごく感じたのです」。そのインスピレーションと「コロナ禍を経験したという時代背景が重なって生まれて来た価値観やニーズ、気持ちに寄り添う商品を出したい」という思いからHuNTに繋がっていった。

HuNTのインテリアのカラーコーディネートは黒の中にカーキが少し入っていてそのアクセントやステッチがオレンジ。そしてネイビーがあしらわれている。「ネイビーを入れなくても普通にアクティブでわかりやすいアウトドア的な表現ができるんです。それでは面白くないので、ただのアウトドアのギアではないファッション性みたいなものをどう合わせると出来るだろうと考えネイビーを入れました」とこだわりを説明した。

◆ホンダ社員としての自覚と誇りを取り戻す
ヴェゼルのCMF開発においてキーとなる「場所」があった。それはモビリティリゾートもてぎにある「ホンダコレクションホール」だった。岩崎さんは、「開発時はコロナ禍で外出制限が出ていて限られた人しか出張が認められていませんでした。そこでデザイン開発している和光(埼玉)に栃木から主要な設計メンバーが毎週来てくれていましたが、気持ち的に変化がなかったのです」と当時を振り返る。

デザイナーにとって様々な変化や刺激、情報のインプットは必須だ。それが足りなくなってしまったのだ。そこでいわゆる“ワイガヤ”を都内のおしゃれスポットなどで行おうというアイディアが出たが、岩崎さんは、ホンダコレクションホールに行きたいと希望したそうだ。「すごく少数で本当にまるっと1日籠りました。そのときにPLaYやHuNTをどういう方向にするかを決めていったのです」。

岩崎さんは定期的にコレクションホールを訪れるべきだと考えている。それは、「ホンダ社員としての自覚と誇りを取り戻すため」だと明言。「日本の中にいるとホンダという会社やクルマが、あまり大切に思われていない瞬間を感じることがあるんです。しかし、アジア地域のクルマを開発していたときに、すごくホンダやそのクルマを大事にしてくれていることを身近で聞くことができたのです。だからこそ、こういうお客様とかこういう地域のために良い商品を作ろうと常に思えていたんです」。その気持ちやモチベーションを取り戻すためにコレクションホールを訪れるのだ。

「開発の人のすごい思いが入っていたり、なんかしてやろうという気持ちが感じられるクルマ達が並んでいるので、もしこの中に並んだとしても違和感がないクルマ、さらには全然時代は違うけれども、この系譜の中にいてもすごく自然に見えるクルマを出そうという決意表明をしました」

海外メーカーのデザイナーでは自社のヒストリーの中に身を置きデザインアイデンティティを確立していく手法はよく聞くが、日本ではあまり耳にしたことがない。きっと今回のヴェゼルやそれ以外の岩崎さんが手掛けるホンダ車がコレクションホールに並んだ時、そこにはこれまでのホンダから連綿と続く見えない糸が感じられるに違いない。

ヴェゼルのCMFデザインを担当した、本田技術研究所の岩崎麻里子さん《写真撮影 宮崎壮人》 ヴェゼルのCMFデザインを担当した、本田技術研究所の岩崎麻里子さん《写真撮影 宮崎壮人》 ヴェゼル 改良新型のCMF開発におけるキーポイントとなった「ホンダコレクションホール」《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ ヴェゼル 改良新型(e:HEV X Huntパッケージ)《写真撮影 宮崎壮人》 ヴェゼル 改良新型のCMF開発におけるキーポイントとなった「ホンダコレクションホール」《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ ヴェゼル 改良新型(e:HEV X Huntパッケージ)《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ ヴェゼル 改良新型(e:HEV X Huntパッケージ)《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ ヴェゼル 改良新型(e:HEV X Huntパッケージ)《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ ヴェゼル 改良新型(e:HEV X Huntパッケージ)《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ ヴェゼル 改良新型(e:HEV X Huntパッケージ)《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ ヴェゼル 改良新型(e:HEV X Huntパッケージ)《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ ヴェゼル 改良新型(e:HEV X Huntパッケージ)《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ ヴェゼル 改良新型(e:HEV X Huntパッケージ)《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ ヴェゼル 改良新型(e:HEV X Huntパッケージ)《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ ヴェゼル 改良新型(e:HEV X Huntパッケージ)《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ ヴェゼル 改良新型(e:HEV X Huntパッケージ)《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ ヴェゼル 改良新型(e:HEV X Huntパッケージ)《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ ヴェゼル 改良新型(e:HEV X Huntパッケージ)《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ ヴェゼル 改良新型(e:HEV X Huntパッケージ)《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ ヴェゼル 改良新型(e:HEV Z PLaYパッケージ)《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ ヴェゼル 改良新型(e:HEV Z PLaYパッケージ)《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ ヴェゼル 改良新型(e:HEV Z PLaYパッケージ)《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ ヴェゼル 改良新型(e:HEV Z PLaYパッケージ)《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ ヴェゼル 改良新型(e:HEV Z PLaYパッケージ)《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ ヴェゼル 改良新型(e:HEV Z PLaYパッケージ)《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ ヴェゼル 改良新型《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ ヴェゼル 改良新型《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ ヴェゼル 改良新型《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ ヴェゼル 改良新型《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ ヴェゼル 改良新型《写真撮影 宮崎壮人》 ホンダ ヴェゼル 改良新型《写真撮影 宮崎壮人》 ヴェゼルのCMFデザインを担当した、本田技術研究所の岩崎麻里子さん《写真撮影 宮崎壮人》