スズキ Vストローム800DE《写真撮影 真弓悟史》

◆激戦区に満を持してスズキが投入  
長距離移動を快適にこなしつつ、未舗装路など荒れた道も走破する機動力を兼ね備えるアドベンチャーモデルは昨今、世界中で人気となっていて、メーカー各社が次々に新型を投入する活発なセグメント。 中でもいま、注目を集めているのがミドルクラスと呼ばれる600〜800cc程度の中間排気量帯のエンジンを積む機種たちだ。  

最上級機種では1000ccをゆうに超え、車体も巨大化する一方のアドベンチャーモデルたちのなかで、「大き過ぎず、ほどよい」と評価が高まっている。  

スズキの新型『Vストローム800DE』は、まさにそんな潮流に乗った1台。車体を軽くし、ストローク量に余裕を持った前後サスペンションを装備しつつ、フロントにはダートでも高い走破性を発揮する大径21インチホイールを履く。

◆前輪21インチ&パラレルツインで登場  
現在「Vストローム」シリーズは、『Vストローム1050/DE』をフラッグシップに、ミドルクラスには『Vストローム650/XT』がすでにあり、さらに普通二輪免許でも乗れる『Vストローム250』もラインナップされている。  

いずれも“クチバシ”スタイルとも呼ばれる顔で、これは「砂漠を駆ける怪鳥」とも言われた1988年のパリダカレーサー『DR-Z(ディーアールジータ)』や、その公道向け「DR-BIG」をルーツとし、根強いファンに支持されてきた。

『Vストローム650/XT』があるから『Vストローム800DE』はその後継かと、思ったらそれは大きな間違い。  

フロント19インチの足回りで、心臓部を90度Vツインとする650(や1050)に対し、800は並列2気筒エンジンを積み、先述したとおり前輪をオフロードにも強い21インチとする。  

つまり、同じVストロームシリーズでありながら全く別モノとも考えられ、それぞれに差別化されているのだ。

◆クチバシを継承しつつ新マスクへ  
ウンチクはさておき、実車を見れば『Vストローム1050/DE』や『Vストローム650/XT』と系統が異なる新作であるのが一目瞭然である。  

伝統の“クチバシ”スタイルが継承され、ひと目でスズキのアドベンチャーとわかるものの、1050とも650とは異なる新しい顔で、『GSX-S1000』譲りとも言える縦2灯モノフォーカスLEDの精悍なフロントマスクとなっている。  

直線基調の面構成でデザインされた車体も新しさに満ちあふれ、デザイナーのデザインスケッチから六角形を縦に積み重ねたLEDヘッドライトや、高くレイアウトされた“クチバシ”が描かれた。  

スリムで軽量コンパクトな印象は冒険心をくすぐるもので、オールラウンドに対応するモデルであることが視覚的に表現されている。  

ウインドスクリーンは上下3段階に高さ調節ができ、快適な防風効果を発揮しつつ、オフロード走行時の視界を妨げないよう設計。  

雨風や飛び石などからライダーの手を守るナックルガードをはじめ、車体の底を通るエキパイやエンジンを保護する樹脂製アンダーガードを標準装備し、見るからに頼もしい。  

また、試乗した車両のカラー「グラスマットメカニカルグレー」は近未来を感じさせる色づかいで、未来を舞台にしたSFアニメや映画に登場しても違和感がない。

カラーバリーエーションには、スズキ・オフロードの血統を強く感じる「チャンピオンイエロー」も設定される他、都会にも映える「グラススパークルブラック」もあり、見た目からしてワクワクしてならない。

◆無給油で450kmを走行可能  
ストロークに余裕のある前後サスペンションが柔らかくスムーズに動き、またがった途端にダートでの対応力が高いことがすぐにわかる。初期荷重での動きの良さは、舗装路でも良好なトラクション性能を生み出す。  

ワイドなアルミテーパーハンドルバーと、足をゆったりと載せることのできるステップのおかげで、ライディングポジションはゆとりあるもの。  

ステップのラバーは脱着ができ、外せばギザギザに尖った歯がブーツの底へ食いつき、操作性がより向上する。 シートには高密度なクッション素材が用いられ、長距離走行での疲労を飛躍的に低減。前後移動もしやすく、自由度も高い。  

燃料タンクは20リットルの容量を確保。見た目にもボリューム感タップリで、航続距離は450kmにも達する。  

その大きさとは裏腹にニーグリップがしやすく、フィット感がとてもある。見た目では大柄な車体だが、またがって走り出すと大きさを忘れてしまうほどに操作性に優れる。  

シート高は855mmで、身長175cm/体重67kgの筆者(青木タカオ)がまたがると写真の通り。サスがほどよく沈み込み、数値以上に足つき性が良いことがわかるだろうか。  

両足を地面に出すとカカトは浮くものの、つま先でしっかりと踏ん張ることができる。座面の形状が吟味され、車体も細く絞り込まられているため、足を地面へ真っ直ぐに下ろしやすく、干渉して邪魔になるものがないのも秀逸としか言いようがない。  

車体重量は230kg。参考までにVストロームシリーズ各モデルの数値を記しておこう。

■シート高&車体重量
Vストローム1050DE:880mm/252kg
Vストローム1050:850mm/242kg
Vストローム800DE:855mm/230kg
Vストローム650XT:835mm/215kg
Vストローム650:835mm/212kg

◆スズキクロスバランサーで快適な乗り心地  
ボア・ストローク:84×70mmのショートストローク設計で排気量を775ccとした並列2気筒エンジンは、高回転までスムーズに回りつつ、3000〜4000rpmの常用回転域ではドロドロドロ〜とパルス感を伴い心地良さを感じる。  

高速道路での100km/h巡航はトップ6速で4500rpm。コンパクトながらウインドシールドが整流効果を発揮し、張り出したタンクのおかげで下半身にもほとんど走行風が当たらず、身体に負担をほとんど感じない。  

また、クラッチレバーやスロットルの操作をしなくていいシフトアップ&ダウン対応のクイックシフターが標準装備されているのも長距離走行での疲労軽減につながる。  

そして、たとえ単調なクルージングであっても、270度位相クランクによる不等間隔爆発がトラクションを稼ぎつつ、鼓動感や独特なサウンドを生み出すから退屈な移動ではなくなってしまう。  

クランクシャフトの前と下にバランサーを配置した「スズキクロスバランサー」のおかげで振動が打ち消され、快適性も飛躍的に向上した。 この2軸バランサーの配置がエンジン前後長のコンパクト化に大きく貢献し、大径ホイールの前輪を車体側に引き寄せ、さらにスイングアームの延長も可能へと至っている。

◆身のこなしが軽く普段使いも◎  
アドベンチャーバイクではリヤタイヤを18インチにすることが主流となっているものの、『Vストローム800DE』ではオンロードでのコーナリング性能を高い次元に保つ17インチが採用されているのも見逃せない。  

小回りが意外なほど効き、狭い路地に入っていくのも億劫にならないし、低回転域が扱いやすく、街乗りもしやすいから混雑する都会を敬遠する必要もなくなっている。

◆乗り手を魅了するG(グラベル)モード
走行シーンの撮影は舗装路でおこなわれたが、個人的に走ってみたいと興味津々なのはやっぱりオフロードだ。 「オンロードをメインで」と言う撮影班と別れたあと、意気揚々とダートへ持ち込んでみると、フロント220mm/リヤ212mmのストローク量を確保した前後サスと、剛性が高すぎないシャシーのおかけで、アクセル開度は自然と大きくなる。  

ハンドルの切れ角が充分にある上、路面追従性に優れる足まわりに助けられ、フラットダートだけでは物足りなくなってしまうほど走破性が高い。  

ワイヤースポークホイールにセットされたセミブロックトレッドパターンのタイヤは、ダンロップ製TRAILMAX MIXTOURをベースにした専用設計で、ダートの走破性とオンロードでの巡航性能のバランスを徹底追求したもの。  

ライドモードは「A(アクティブ)」「B(ベーシック)」「C(コンフォート)」があり、スロットルレスポンスの違いを明確にしているが、3段階(+OFF)から選択可能なトラクションコントロールにはリヤタイヤのスライドを許容する「G(グラベル)」モードがある。  

駆動輪が空転しても車体の挙動を大きく乱さないところで抑えてくれ、滑り出しても神経質にならなくて済んでしまう。  

次回はもっと長い距離、高速巡航&オフロードを堪能してみたいと、気がつけば『Vストローム800DE』に魅了されてしまっているではないか。  

じっくり長く付き合いたい。そう感じてならないのだ。

■5つ星評価
パワーソース:★★★★★
ハンドリング:★★★★★
扱いやすさ:★★★★
快適性:★★★★★
オススメ度:★★★★★

青木タカオ|モーターサイクルジャーナリスト
バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。自らのモトクロスレース活動や、多くの専門誌への試乗インプレッション寄稿で得た経験をもとにした独自の視点とともに、ビギナーの目線に絶えず立ち返ってわかりやすく解説。休日にバイクを楽しむ等身大のライダーそのものの感覚が幅広く支持され、現在多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディアで執筆中。バイク関連著書もある。

スズキ Vストローム800DE《写真撮影 真弓悟史》 スズキ Vストローム800DE《写真撮影 真弓悟史》 スズキ Vストローム800DE《写真撮影 真弓悟史》