トヨタ プリウスPHEV《写真撮影 中野英幸》

30系ベースの初代『プリウスPHV』は26.4km。50系ベースの2代目は68.2km。プラグインハイブリッド=PHEV版プリウスのBEV走行可能距離は、世代交代とともに大きく伸長してきた。

そして60系ベースの3代目『プリウスPHEV』のBEV走行可能距離は87km。これは過去二代のJC08モードではなくWLTCモードでの数値ゆえ、先代に合わせれば100kmの大台に乗せてくるだろう…と思いきや、プリウスPHEVにはオプションで17インチタイヤ&キャップ付スチールホイールに変更するオプションが用意されており、そらを選ぶことでWLTCモードでも105kmのEV走行可能距離を達成するという。ご親切に価格も11万円余安くなるとあらば、それを検討する方もいらっしゃるだろう。

カタログ数値はベストエフォートとはいえ、現実的にも60km以上のBEV走行距離が期待できるということは、多くの人にとっては通勤や買物など日常生活のあらかたをガソリンを使わずにカバー出来るということだ。近頃は給油のためにわざわざ何kmも走らなければならないという地域も増えているが、そういうところでもしっかり利便性を享受できるだろう。

◆隙なしの商品性を備えたかに見えるが
と、隙なしの商品性を備えたかにみえるプリウスPHEVだが、先代と比べると退いたところもある。前型ではPHEV専用のエクステリアデザインが与えられていたが、新型はHEVモデルと統一。双方の識別点はロアグリルのフィニッシュとホイール意匠、テールランプの色とリアエンブレム辺りになるが、一瞥できるか否かという点においては前型にかなわない。

充電方式は普通のみでCHAdeMOは搭載されない点も賛否を呼びそうなところだ。が、直近では充電料金の高騰もあって経路充電のコストメリットがなくなっているのも事実。ちなみに搭載するリチウムイオンバッテリーの容量は13.6kWh。前型に対して容量は50%余大きくなっているが、容積効率を高めて後席下部に搭載が可能となった。これが荷室容量の拡大だけでなく、マスの集中化にも貢献している。ちなみに普通充電での所要時間は0→100%が約4.5時間。前型同様、年間最大1200km相当の発電能力を持つソーラールーフパネルもオプションで用意される。

そんなこんなでBEVでの走行可能距離が増えたこと以外に、新型プリウスPHEVにはどんな利があるのか。HEVに対する価格差は実質90万円といったところだが、相応の違いはあるのだろうか…と、多くの方々が気になるのはそんなところだろう。

◆HEVと最も異なるプリウスPHEVならではの利
HEVと最も異なるプリウスPHEVならではの利、それは走りにある。駆動用モーターの出力で50ps、システム総合出力では27psと、その差がもたらす動力性能差は額面以上に大きい。0-100km/h加速は6.7秒とホットハッチ並みだが、低回転域からドーンとトルクで押し込んでくるその感覚はやはりBEVのそれに近い。

反面、高回転域の伸び感みたいなものを期待するのは難しいが、実用域での中間加速の質感などはガソリンエンジンに例えれば3リットル超級の迫力がある。コーナリング能力の高さも含めてみれば、前述の17インチタイヤという選択肢が霞んでしまうくらいに、その走りは快活だ。

速さだけではなく乗り心地の洗練ぶりもまたPHEVの大きな特徴だ。新型への刷新に伴う基本骨格の進化や部品取り付け精度の向上などの要因もあるが、それ以上に大きいのが後席下にマウントした駆動用バッテリーだろう。前型のリアオーバーハング付近とは位置も重心もまるで異なるだけでなく、重要な後軸付近の剛結要素としても効いてくる。加えて、モーター走行の頻度に合わせて遮音対策も入念に施してある点も、走りの質感にプラスとして働いているはずだ。

◆90万円の価格差も納得できる範疇
満タン・満充電時から一般家庭の最大約5日相当にあたる給電能力と併せて、この動的性能の差をみれば、HEVとの90万円の価格差はクルマ好き的には納得できる範疇にある。

但し、動力性能工場に加えて重量増による走行抵抗などもあって、ハイブリッド走行時の燃費はHEVのプリウスに比べると明らかに劣るため、コスト的なメリットを享受するには家庭や勤め先を軸足とする基礎充電や目的地充電を土台にしなければならない。プリウスPHEVはPCUにSiC素子を用いて従来より燃費にして10%近く損失を抑えた構造となっているが、それでもパフォーマンスの向上ぶんを埋め合わせるには至らなかった。

新しいプリウスPHEVはCAFEの対応もあって、欧米市場でも一定のボリュームが求められるクルマだ。そこでハイブリッド技術の新たな一面をみせるためにスポーティネスを歴然と高めたという流れは理解できるし、実際、走りは前型とは別物の領域に達している。

もはやこれ以上速くなる必要はない。とあらば、次なる課題はこの走りと燃費とをいかに両建てしていくかだろう。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★

渡辺敏史|自動車ジャーナリスト
1967年福岡生まれ。自動車雑誌やバイク雑誌の編集に携わった後、フリーランスとして独立。専門誌、ウェブを問わず、様々な視点からクルマの魅力を発信し続ける。著書に『カーなべ』(CG BOOK・上下巻)

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